9月5日 天野岩常闇
9月5日、天候くもり。
9月の少し涼しくなり始めた、曇りの日の夕方。
僕はうろな町の道を歩きながら、なんとなく可笑しいなと感じていた。
「人の気配が全然ない……」
そう。いくら人が少ないからと言っても、薄気味悪さを感じるくらい人の気配が無かった。まるで人払いの結界でも張っているかのように。そう言えば、芦屋梨桜なる女学生が陰陽師が結界を張る力を持っていると言う事を聞いた事があるな。感覚からすると、そう言った感覚である。
なんだか……肌寒さを感じると言うか、簡単に言えば変な気配を感じる。
「おいおい。僕は別に陰陽師とかじゃあ、ないんですけれども。こう言う心霊体験は僕の範囲外だと思うんですけれどもね……」
とにかく、これをなんとかして逃げ出すべきだろう。誰がこんな事をしているかどうかは別にしても、まずはこれを行っている人を見つけ出さないと……。
「しかし、どうすればこの結界を作り出しているその人に会えるんだか」
そんな事を考えていると、"そいつ"は現れた。
「おやおや。そんな事を言われると、こちらの方から会いに行きたくなってしまうではないでしか。あなたは人の気持ちを見抜く天才でし。やはり、あの孔雀明王の生まれ変わりが気にかけるくらいありましね」
そいつは、ちょっとばかり幼児っぽい口調で話す、黒髪美人だった。黒い長髪は蛇のように渦巻いていて、その瞳は何も映していない闇を見据えてるような瞳。全身真っ黒のドレスを着ていた女性だった。
彼女を見ていると、こちら側から闇を見ているような気分になっていた。そんな印象を与える女性だった。
「おっと、自己紹介がまだだったでし。あなたのお名前は?」
「へっ!? え、えっと天塚柊人です」
「天塚柊人……何だか良い名前でし。私の名前は、常闇」
そう言った瞬間、彼女の背から大量の闇と共に、ぞくっとする気配が僕の身体に漂って来た。一瞬で理解した。この女性は普通でないと言う事を。
「天野岩常闇と言うでし。こっちには知り合いに会いに来たでし」
「知り合い……」
きっと、さっき言った『孔雀明王の生まれ変わり』と言うのがその知り合いだとは思うが、
(孔雀明王の生まれ変わり、孔雀小明がこの街を出たと言う事は聞いてないし、何より名前が物騒だからまともな知り合いではないよな……)
天野岩常闇なんて、普通の人間の名前ではありえないし。きっと孔雀明王の孔雀小明と同じ、何かの神の生まれ変わりかそれに準ずる者だろう。しかし、天野岩と言えば、太陽の神である天照大神が隠れたとされている天岩戸が響き的には似ているが、その後の常闇と言う言葉が非常に不気味だ。
「さーて。あなたに会えたと言う事は結構弱まっていると言う事でし」
「えっ……」
弱まっている?
小明はそんな事を言っていた訳でもないし、直接聞いた訳ではないが陰陽師が秋になるからと言って弱体化するとは思えない。
じゃあ、この女性は何が弱まっていると言っているんだ?
「じゃあ、天塚柊人君。いずれまた」
そう言って彼女は消え、僕には言い知れない恐怖と心配の感情がのしかかった。
寺町朱穂さんより、芦屋梨桜さんを名前だけお借りしました。