5月22日 神代-人の身
5月22日、天候くもり。
「あぁ、やっぱり自分だけの身体と言うのは本当に良いね。水鏡さんに借りていた時も良いと思ったけど、やっぱり何も気にせず使えると言うのは良い物だね」
と、神代ひとみと名乗った少女は、僕の家で優雅にコーヒーを飲みながらそう言っていた。それに対して僕は烏龍茶を飲みながら、じっと見つめていた。
「あぁ、このコーヒーは本当に良い物だね。キリマンジャロかい?」
「……いえ、他人様。そのコーヒーは――――――――」
「あぁ、知っているよ。インスタントだよね、しかも1袋当たり1200円くらいって所かい?」
「正解ですけれども……」
「やっぱりそうですか」と嬉しそうな顔でこちらを見る神代ひとみ。それに対して何とも複雑そうな顔をしている妹の天塚弓枝。弓枝は僕の顔を見て、「……何、この人?」と疑問符を浮かべるようにして尋ねる。
残念だがそれに対してちゃんとした回答を、僕は持ち合わせていない。故に弓枝になんて言って良いか分からないのだが。
ただ1つ分かっている事があるとするならば、"神代ひとみは神代と同一人物であった"と言う事なのだけれども。
『私の名前は神代ひとみ。君の知っている神代が、幽霊ではなくて人間となった状態だよ』
彼女はそう名乗っていた。その証拠としてひとみは、僕と神代だけしか知らない情報を与えて来た。
―――――――神代が教えたあの情報。僕と彼女だけしか知らないはずの『うろな図書館の存在』。あそこは生前の神代が作ったとされる書物の情報保管場所であり、あの場所を知っている他の人なんて居ないはずだが……。
だからこそ、この神代ひとみがあの幽霊の神代であると言う仮説は正しい。正しいはずだ。
けれども1つだけ奇妙な事があるのだ。それは矛盾だ。もし、彼女、神代ひとみが神代の人間体だとしたら可笑しな所が1つあるのである。その矛盾とやらがこれである。
「―――――――うむ。例えインスタントだとしても、心温まる話で感動しました。その心温まる、歓迎のやり方が私としては嬉しい限りですよ」
と、彼女はそう言った。それに対してひとみは嬉しそうに言った。
「おや? あなたもそう思いましたか? 確かに接客と言うのは本当に嬉しい御好意です。それもちゃんと受け取らないといけないね」
「私もそう思うよ」
「お互い、心が通じ合っていて嬉しいです」
「私もですよ」
と、神代ひとみの言葉に対して、水鏡栗花落に憑依した神代はそう声を出す。
あっちは人間となった神代。そしてこっちは幽霊として水鏡栗花落に憑依している神代。
(一体どうなってるんだろう、これ?)