5月20日 雨に出会ったあいつ
5月20日、天候雨。
それは、暖かい日が続いた5月の下旬の、少し肌寒い雨の日の事であった。
僕、天塚柊人は雨が降っているため傘を差して自宅へと向かっていた。町役場の前を通り過ぎて、商店街の方を通って自宅への道を向かっていた。まぁ、家へと速攻で帰ろうと思ったら、ちょっとした裏道を通りながら帰るのが一番速いのだが、妹の弓枝から頼まれた買い物があるからそう言う訳にもいかないのだけれども。
「今日は何かな……っと。鶏もも肉、玉ねぎ、ジャガイモ、ニンジン、白ワインと牛乳、それにバターか。とりあえず、白ワイン以外はちゃんと全部買えたな」
食材の買い出しを頼まれる事はしょっちゅうだが、白ワインは今まで無かったな。多分、料理酒として買って来て欲しいんだとは思うけれども、流石に今まで料理酒の買い物はした事がないしな。
「料理酒用の白ワインなんて、どこで買えば……」
「そうですね、裏道にある酒屋なんて良いんじゃないでしょうかね?」
そうやって話しかける声。僕はその声に耳を傾けつつ、後ろを見る。そこには傘を差していないにも関わらず、雨に濡れた様子のない不思議な彼女が立っていた。
キラキラと流れるように伸びる、光る金色の髪。藍色の瞳の上にかけられた、琥珀色の綺麗な眼鏡。薄い水色のワンピースの上に黒いジャージを着た、中肉中背の背丈。そして―――――――雨に一切濡れていない謎の少女だった。
「あなたは一体……」
「料理酒だったらそこの角を左に曲がった酒屋さんが良いよ。そこに良い料理酒が置いてあるから」
「どうしてそんな事を見ず知らずの僕に?」
普通だったら、例え知っていたとしてもそんな事を教えるとは限らないと思う。しかも今日は雨模様の日、こんな時に人に助言だなんてあんまりしないと思うのだけれども。
「とりあえずありがとう。助かったよ」
と僕はそう彼女に伝えるのであった。
―――――――数分後―――――――
無事、お目当ての白ワインを買えた僕。これならば料理に凝っているうちの妹もご満足いただけるだろう。
「無事、買えたようですね」
「あっ、さっきの……」
白ワインを持って外に出ると、そこにはさっきの不思議な少女。相変わらず雨に濡れた様子はない。それどころか雨が彼女に当たる度に、跳ね返っているような気がする。いや、そんな事ありえるはずがないんだけれども。
「いや、あり得るよ」
(……!)
今、この少女、僕の気持ちに対して答えた気が……。
「相手の言葉を、思考を読み取るのは簡単な事ですよ。そして、あなた1人くらいの思考など読めて当然。昔は何十、何百人と言う人間の思考を読んで来たんですから」
「どう言う事……なんですか?」
僕はそう言いながら、彼女に説明を求める。そして彼女の説明を求めた時、彼女は笑いながらこう言った。
「――――――私の名前は神代ひとみ。あなたの知る幽霊の、神代の現世での姿が私なのですよ」