5月19日 アイドルはみょうがたけ
5月19日、天候雨。
雨模様の空のうろな高校駄弁り部の部室。そこにて、駄弁り部の部長である天塚柊人と『株式会社・兎山』のアイドル業務担当である忘路光世が会談を行っていた。まぁ、会談と言うよりかは雑談に近い物なのだけれども。そして雑談を受ける立場である柊人はコーヒーを飲み、そして光世は持って来ていたみょうがたけを食べていた。
「アイドルはみょうがたけだと私は考えます」
と、いきなり柊人はそう話をし始めた。なんで光世はアイドルをみょうがたけで例えるんだか……。女の子をお菓子やフルーツで例える人は良く聞くが、みょうがたけで例える人間なんて初めてである。
「みょうがたけと言うと、みょうがの若芽を主に食べるあれの事ですか?」
「そうだ。私の一番大好きなみょうがたけだ。何せ、これが一番手軽に食べられる美味しい食べ物なんだから。
そしてこのみょうがたけの特徴は、芽の時に日光を浴びさせて紅付と言う作業をする。この紅付けを上手く行わないと値段が3倍近く変わって来るんだよ」
聞いた事がある。みょうがは太陽の光を当てて育てた花の部分を食べるのだが、みょうがたけはほとんど日光を当てないで育てるのだけれども、唯一日光を当てる部分がある。それが紅付けと呼ばれる芽を日光に当てて赤く染める行為。それ以降、みょうがたけに――――――光が当たる事はない。
「みょうがたけの収穫までを人生と例えると光が浴びるのは、僅かな時間だけだ。そして、その光によって値段が、価値が変わって来る」
「それがアイドルに置き換えると、光がチャンス、そして闇がピンチと言う感じでしょうか?」
「違うな」
と、彼は眼鏡の奥にある冷め切った瞳でみょうがたけをつまみ、一言。
「――――――アイドルの世界は常に闇だ」
「アイドルの世界は光だと言うのは聞いた事がありますが、闇?」
「裏切り、陰謀、そして策略。この世界で一番ドロドロしている世界は芸能界だと言える。そしてどの時代に置いても、男よりも女の方が世界としてはドロドロしている物さ。つまり、アイドルの世界の方が絶対にドロドロとしているのさ」
「……夢のない話ですね。アイドル担当の人がそんな事を言って怒られないんですか?」
「夢のある話さ。その世界で如何に効率よく人気を得るか。それの効率性と人気の見極めをしなくてはいけない。私にとってアイドル育成は競走馬育成となんら変わらんね」
確かな素質を持った、人気のある物を作り上げる。アイドル育成と競走馬育成に代わりはないと、光世はそう語っていた。
「それで今、目にかけている競走馬は勝ち進みそう?」
「勝ち進みはするでしょう。騎手が優秀だからね、周りとして優秀なスポンサーが居ますし、大丈夫でしょう。
ただ、競馬と違うのは負け続けて人気が出る。けど、アイドルはそう言う訳にもいかなくてね」
「なるほど、ね。まぁ、それならばアイドルとしてグループ活動をおすすめします。一個体と言うアイドルで上手くやるよりかは、一集団と言うアイドルグループの方が続けやすいですよ」
「……なるほど、継続性ね」と光世は確かめるようにそう言っていた。
「――――――――まぁ、アイドルグループで成功するのは良くある事ですし。最近の人気に便乗する形も良いかも知れないけれども。まぁ、マネージャーに提案するだけでも良いかも、ね」
「ありがとう、話すだけでも楽になれたよ。また来るね」と光世は部屋を出て行った。……なんて言うか、変な奴だった。全く。