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国王夫妻が、その子供たちと共に死去したのは数ヶ月前の話になる。それは年に一度の家族旅行での悲劇だった。彼らが乗っていた船が嵐に巻き込まれ、沈没してしまったのだ。
かの国は一夜にして、主要な王族をいっせいに失ってしまった。残ったのは王族本家との血の繋がりの薄さも、そして滑稽なまでの貪欲さもよく似たいくつかの貴族たち。
誰もがいやな想像をし始めたころ――それは起こった。
存在を秘されている国王の子がいることを、亡き王の側近が国民に明かしたのだ。相手が庶民であったことと、生まれたのが女児であったために捨てられていた、その隠し子の存在を。
祭り上げられたのは、まだ十歳になったばかりの少女。
町外れの小さな教会にいた、どこにでもいるような孤児の娘だった。
そんな出来事が過ぎ去った国の深夜。
ある貴族の屋敷の一室に、二つの影があった。
「……それで、わたくしめに何をしろと?」
王族にも連なる家柄の邸宅に似つかわしくない、みすぼらしい格好の青年がいた。
薄汚れた灰色の外套で身を包み、フードを目深にかぶって表情を隠す。しかしその口元にはどこか楽しげな笑みが浮かび、その口調もまるで今からイタズラでもするかのように軽い。
それなりの家柄の貴族ともなると、使用人にもそれなりに上等な衣服を与えるのがステイタスになっている。ゆえにこの青年を見ればほとんどの人が、怪しい侵入者だと思うだろう。
彼を呼びつけた屋敷の主は、次の王の最有力候補だったらしい。
つまりは、いきなり現れた隠し子の少女に、見事蹴落とされたのだ。
「決まっているだろう……あの小娘を、消すのだ。私を蹴落としたあの小娘をっ」
男は実に忌々しそうに青年をにらみつける。すわり心地のよさそうな椅子の肘掛を、がりがりと引っかく様はまるで子供のようだ。実に滑稽、と青年はさらに笑みを強める。
「明日から一週間ほど、いや一ヶ月かもしれぬ。舞踏会が続く。幼い姫に友人を、そして将来の伴侶を見繕うためのな。ありとあらゆる貴族や金持ちがわが子を差し向けてくるだろう」
「では、ご自身のお子を差し向ければよろしいのでは?」
「差し向ける子など、私にはもうおらぬ。いまさら他家に婿に行った息子を、呼び戻すなどという恥知らずな行為などできるものか! ……ならば、私が王になるしかかなろうが」
「……なるほど」
「貴様には前金とこれを渡す。確実に仕留めろ」
男は白い封筒を青年の方に投げた。封として垂らされている赤い蝋に刻み込まれた実にシンプルな家紋は、家中に飾られていたこの家のものではないのは明らかだ。
何かあった場合、この家に被害が及ばないように……という『配慮』らしい。
「この手紙で入り込め――ということですか」
彼は封筒を懐に収め、にやりと笑った。




