No.8:絶体絶命
試合はその後、大場はランナーを出しながらも何とか踏ん張るが一方の名林のエースの下村健太はまだフォアボールのランナー一人だけしか塁に出さないノーヒットピッチング。
得点は未だに7-0で名林が7点のリード。
そして遂に5回の裏へ突入する。
『5回の裏、愛知農業大名林高校の攻撃は、6番、レフト、天宮君。』
天宮『このピッチャー、2回以降は0に抑えてるが、もう100を越えている。そろそろ本格的にバテてくるだろう。』
天宮はこのチームのキャプテンで最も頭が回っている。
天宮『コールド。狙うか。とりあえずあと3点。先頭の俺の役割は何がなんでも塁に出ることだ。デカイのは要らないな。』
(カーン!)
『ファールボール!!』
(カーン!)
『ファールボール!!』
(カスッ!)
『ファールボール!!』
…
そして…
(バン!!)
大場『ちくしょう!高めに浮いちまった!』
『ボール!フォア!』
長岡『今、天宮何球くらい粘った?』
江澤『15球目をフォアボールだ。まああいつなら当然だろ。もう見慣れた光景だ。』
『7番、ライト、成田君。』
成田『そろそろ終わりにしようや。ヘボPさんよ。』
大場『言って…くれるねぇ!!!』
成田『高いよ。もっと楽しませてくれなきゃ。』
(カキーン!!)
木村『ちくしょう。つえー…。』
健太『よし。これでノーアウトランナー一二塁だ。』
『8番、セカンド、南君。』
天宮『さぁーて。仕掛けるか。』
大場がセットポジションから投球モーションに入る。
小宮『ランナー走ったぞ!!!!』
西口『そう来るかっ!!』
(ビュッ!!)
西口は三塁へ送球する。
『セーフ!セーフ!』
南『そろそろ秘伝の技を使うか…。』
大場が南へ2球目を投げる。
松坂『スクイズだ!!』
西口『ちくしょう!!いきなり来るか!!』
(コン!)
南『見よ!この芸術的なバント!』
大場『俺のフィールディングのが…』
大場が倒れ込みながら一塁へ送球する。
大場『芸術的なんだよ!!』
(パシッ!!)
『アウト!!』
矢野崎『ったくあいつは。普通に打ったほうがヒットになるんだっての。』
健太『南の打撃も一級品なんだがな。バントへの執着心が半端じゃねぇからな。』
長岡『この前もバントこそが人類最高の芸術である。とか言ってたしな。どんだけだよ。』
『9番、キャッチャー、下村誠君。』
健太『まあ何はともあれ一点追加した。あと2点で家に帰れるぜ。』
『ボール!フォア!』
誠『なんだよ。フォアボールかよ。つまんねえな。逃げ腰雑魚バッテリーが。』
『1番、センター、眞野君。』
眞野『ワンナウト一三塁か。つまり一塁ランナーの誠が帰ればコールドゲームか。』
誠『決めちゃいますか。先輩。』
眞野『行くぞ!!!エンドランだ!!!!』
藤武『走ったぞ!!』
西口『単独スチール!?いや!!』
小宮『エンドランだ!!』
(カキーンッ!!!)
痛烈な当たりが三遊間を襲った。
普通のショートなら捕れないが…
大場『小宮!!!』
小宮『よっこらしょっと。』
小宮が素早く打球に追い付き、二塁へ送球。
『アウト!!!』
島谷倫『ナイス!!小宮!』
しかし名林はこの間に一点を追加し9-0。
尚ツーアウト一塁でバッターは…
『2番、サード、矢野崎君。』
大場『ハァ…ハァ…ハァ…ハァハァ…』
矢野崎『そろそろきてるみたいだねぇ。早く終わらせてあげるよ。』
大場『負けて…たまるか。』
(カキーン!!!)
副島『またヒットか!』
『3番、ショート、長岡君。』
長岡『あと一点とれば10点差だ。5回の裏で10点差ってことはどういうことだかわかるよね?』
西口『大場さんをなめない方がいいよ。』
長岡『そうか?たいしたピッチャーでもないと思うけどね。まあツーアウト一二塁。さっさと打って家に帰りたいねぇ。まったく。』
(バン!)
『ボール!ワン!』
(バン!)
『ボール!ツー!』
西口(このバッターを歩かせても次は強打者の下村健太。塁に出すわけにはいかない…。)
長岡(そろそろストライクだろ。今日のバッテリーのデータ的には次のボールは外角低めのストレートってとこか?)
西口(ここしかない!アウトローのストレート!!)
大場がセットポジションから投げる。
ビュッ!!!!
西口『まずい!!!!!これじゃ!!!!』
長岡『いただきい~!』
西口『シュート回転して中に…入ってくる!!』
(カキーン!!!)
江澤『いったか?』
『ファールボール!!!ファールボール!!!』
氷室『っぶねぇ…』
西口『一瞬死ぬかと思ったぜ。』
長岡『随分とおせえ真っ直ぐだな。もうバテてきたのか?』
西口(それもそうだ…。大場さんは初回からずっと全力投球で5回裏で既に145球も投げてる…。もう限界だ…。)
(バン!)
『ボール!カウントワンスリー!!』
(カキーン!!!!)
松坂『まずい!!』
『ファール!ファール!』
長岡『ふー。遅すぎてタイミング合わないや。』
ここで大場がキャッチャーの西口を呼んだ。
西口『タイムお願いします。』
西口『どうしたんすか?』
大場『…歩かせよう。』
西口『…!?』
大場『ダメだ。今の俺じゃ悔しいがコイツは抑えらんねぇ…。』
西口『ダメですよ!!次の下村健太はこのバッターよりもいいバッターなんです!!この長岡と勝負しなきゃ負けます!!』
大場『俺がマウンドを降りる。幸いなことにウチにはまだ小宮っていういいピッチャーがいる。あいつに賭けよう。今はツーストライクだからピッチャー交代は出来ない。』
西口『…。…。』
大場『仲間を信じれないのか?ここは手段を選んでる場じゃないんだ。負けたら先輩たちの夏が終わる。だから負けは許されないんだ。』
西口『小宮…か。』
大場『わかったらさっさと戻れ。』
西口『わかりました…。』
健太『いい度胸じゃねえか。わざわざ俺と勝負とはな。』
長岡『やっぱり逃げたか。チキンキャッチャー。』
『ボール!フォアボール!!』
西口『監督!ピッチャー交代です!』
ポジションの変更↓↓
大場:1→3
小宮:6→1
藤武:3→9
副島:9→4
島谷倫:4→6
『4番、ピッチャー、下村健太君。』
天宮『あと一点で5回コールドゲームだ。』
健太『粉砕してやる。かかってこい。』
小宮『望むところだ。』
ついに小宮がベールを脱いだ。