No.75:切り抜け
ドバーーーンッ!!
《 147km/h 》
『147km/h直球で5番の坂本成生も見逃しの三振!!!!!!!初回猪子石高校、一死一三塁の好機生かせず無得点!!』
野中『やっぱりな。今日は序盤から球威が違う。』
川越『ああ。上社西戦で終盤に魅せたあの快速球と同じ感じだな。』
野中『試合前に言ったようにあのときの投球が続けば邦南が猪子石に勝つなんて事もあり得る話だな。だが問題はスタミナ。この投球がいつまで続くかだな。』
川越『その心配はねえだろ。忘れたか?大峰明館戦で味方にいくら足を引っ張られても自分のピッチングスタイルを貫き、チームを勝利に導いたあのメンタルの強さ。たとえ体力的に厳しくなっても大場には精神力っていう最強の武器がまだ残ってる。』
野中『納得だな。さすが大場ファンのおっちゃんってだけはある。』
川越『うっせえよ。昔からの大の邦南ファンのおっちゃんのくせしてよ。』
高田(たかだ:プロ野球スカウト)
『速いな。今の左腕。大会誌によると2年生だな?』
谷口(たにぐち:プロ野球スカウト)
『はい。ただ、あの少年は中学硬式野球日本代表に選ばれた過去があります。』
高田『ほう…。ならなぜ無名なのだ?』
谷口『彼が入学する前までこの邦南高校は夏の選手権大会には出場していなかった模様で。邦南高校は昨年、つまり大場少年が高校一年生のときに7年ぶりの公式戦出場したそうです。だから皆大場少年は野球から離れると思ったのでしょう。ましてや県内公立校断トツトップの進学校。私も彼が野球をしていると聞いて驚きました。』
高田『素晴らしい調査だ。さすが谷口くん。』
谷口『ありがとうございます。先輩。』
西口『4番の渡辺ってやつ、知り合いですか?』
大場『まあな…。ガキの頃の親友だよ。今はもう…見ての通りさ。すっかり仲も悪くなっちまった。』
西口『何かあったんですか?』
大場『あいつ、一度野球から手を離したんだよ。結構酷い怪我してよ。頭蓋骨骨折。』
西口『はあ…。』
大場『あの頃はアイツも大阪にいてよ、俺がやっちまったんだ。頭部への危険球。』
大場『アイツとは同じ照丘小ってとこにいてよ、俺は小学校の野球部に入っててアイツは有名なクラブチーム。学校ではメチャクチャ仲良くて野球では直接はあんま関わりなかったんだけど、南阪小を7回1失点に抑えたって言ったら勝負挑んできてよ。』
西口『その勝負で?ってことですか?』
大場『ああ。本気で投げたら足がスパイクじゃないせいか滑っちまってそのまま頭にな…。あの時の球威半端なかったし。軟式といえどな。それから絶交だよ。』
『2回の表、邦南高校の攻撃は、5番、ファースト、氷室くん。』
氷室『しゃあぁぁぁぁぁーっ!!来いやぁーっ!!』