No.55:ピッチャーは愉快なヤツ
『さあここで邦南高校、一回目の守備のタイムです。内野陣が集まります。』
大場『悪ぃ…。言い訳したくねえけど…今日、全然ボールが走ってくれねえ…。』
西口『ですね…。審判もいつもより判定が辛いですし…。結構厳しいですね…。』
副島『そんな弱気で良いのか!?審判なんか関係ねえ!自分を信じてしっかり腕振りゃ良いじゃんか!!』
島谷倫『そうだ!!ど真ん中でもいい!俺らが守ってやる!!』
『『『そんなこと、できたら今こんなに苦労してねえんだよ!!!!!!!!!!!!!!自分を信じてしっかり腕振りゃ良い?簡単に言うんじゃねえよ!腕振るのなんかいつも意識してやってる!でも今日はいくら振ったって球が思い通りにいかねえんだっつーの!!
ど真ん中でもいい!?なめてんのか!?相手は上社西の打線だぞ!?甘い球いって長打食らってるからこうなってんだろ!?オマエら…勝手すぎるぜ…。自分達は大して守ってもくれねえくせして…いつも俺一人我慢して…踏ん張って…。』』』
大場が今の二人の言葉に対して、今までのものがすべて吹っ切れたように言った。
ポイッ!
大場が持っていたボールを遊撃手の島谷倫暁に渡した。
松坂『ど…どうした?』
大場『そこまで言うならお前が好きに投げてくれ。俺んとこに打たせてくれや。守ってやるから…。』
島谷倫『え、お…おい!』
『すみません。』
横から声が聞こえた。
氷室『ぼ、ぼく…前からずっとピッチャーがやりたかったんですけど、投げていいですか?』
松坂『…は?』
副島『フォ…?』
大場『………?』
島谷倫『な、な、なにぃ!?』
西口『クスッ。』
氷室『あの~、ダメですか…?』
松坂『ダ、ダメに決まってんだろ!俺らの高校野球生活が懸かってんだぞ!』
西口『良いんじゃないんですか?』
松坂『え…?』
西口『打たれると思いますが。』
副島『いや…まずストライク入んないだろ…。』
西口『その可能性は低いでしょう。コイツ、キャッチボールとか見る限り、案外コントロール良いんですよ。どうせ誰が投げたってストライクなら打たれるなら、氷室でオッケーっしょ。』
大場『賛成。』
島谷倫『ちょ…エースのお前がどうしたんだよ!』
副島『いいんじゃないですか?打球が飛んできたほうが試合を楽しめるし。』
大場(何が楽しめるだ。人の苦労も知らずに綺麗事ばっかいいやがって。)
西口『島谷さんもいいですよね?』
島谷倫『く…ああ。』
西口『松坂さんは?』
松坂『みんながそうなら…俺も…。』
西口『よし!満場一致でピッチャーは氷室に交代!!』
『邦南高校、シートの変更をお知らせします。』
--守備位置の変更---
大場:1→3 |
氷室:3→1 |
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慶野『はぁ!?!?!?!?!?!?』
木村『氷室がピッチャー!?!?!?!?』
鬼頭『Surprised!!』
西口『変化球は持ってるか?』
氷室『うんっ!コレッ!』
そう言って握りを見せてきた。
カーブの握りだ。
西口『カーブか。とりあえず投球練習の7球中2球は試してみろ。それからカーブのサインを実際に出すか出さないか考える。まあ、基本的にストレートしか要求しない。』
氷室『ちょっとちょっとちょっと!!勝手に話進めないでよ!これ、カーブじゃないよ!』
西口『…は?どうみたってカーブだろ。その握りは。…じゃあなんの球種なんだ?』
氷室『フフフ…。コレはね、コレはね…。聞いてビックリしないでね。』
西口『さっさと喋れ。』
氷室『このボールの名前は、【 Y・H -LOVE ZUKKYUN- ボール 】って言うんだよ!』
西口『ワイ・エイチ-ラブ ズッキュン-ボール?』
氷室『そう。自作のオリジナル変化球さ。ちなみにY・Hってのは氷室 佑介のイニシャルを取ってるんだからね。』
西口は口を大きく開けてポッカーンとしている。
氷室『じゃ、投球練習しよっか。』
西口『もう。呆れてものが言えないぜ。まあそのなんとかボールは正直たぶんカーブだ。』
氷室『カーブじゃないもん!【 Y・H-LOVE ZUKKYUN-ボール 】だもん。』
西口『はいはい。M・J-LOVE 注入-ボールね。』
氷室『マイケルジャクソンじゃないし!!楽しんご(芸人)でもないわ!!!!!!
【Y・H-LOVE ZUKKYUN-ボール】だわ!!』
西口『わかったわかった!わかったから一つ言わせてくれ!』
氷室『もう!!なんだ~?』
西口『誰よりも元気にピッチャーやれよ!!それだけ!』
氷室『当たり前だろ!ピッチャーなんかやっちゃったら…二学期からのクラスで…女の子から…ラブレターが…。ウフフフ。二学期が楽しみでしょうがねえぜ!』
西口『そうだ!!二学期からオマエはモテモテだ!それをよく想像してピッチャーやれ!あと、オマエの大好きな佳美ちゃんはフォアボール出す男が大の苦手らしいぞ!』
氷室『え!?佳美ちゃんが!?…こりゃ…死んでもフォアボールは出してはいけないようだな…。』
西口『ああ。頼むぜ。あとな、佳美ちゃんは、打たせて取るピッチングをするピッチャーがタイプらしいぞ!』
氷室『のあ!?マジでか!!貴重な情報ありがとう!!』
西口『佳美ちゃんにいい姿見せてやれよ!(※ちなみに佳美ちゃんは球場には来ていません。)』
氷室『任せろ!燃えるぜ!バーニング!』
西口が戻っていく。
そして座る。
西口(ったく。相変わらず、調子のいいやつだ。つか、アイツが佳美ちゃんのこと大好きって知っててよかった。ははは。)
氷室が投球練習に入る。
独特のヘンテコ投球モーションから…
ヒュッ!
スパン!
西口『ナイスボール!』
西口(遅っ!)
氷室『次!Y・H-LOVE ZUKKYUN-ボールね!』
ヒュッ!
カクッ!スパン!
西口『またまたナイスボール!!』
西口(思ったよりキレのいい縦のカーブか。案外使える、かも。)
…
…
『プレイっ!』
島谷倫『頑張れよ!氷室!』
氷室『おうっ!』
予想もしなかった氷室の登板は、どうなるのか!?