No.38:酷い守備力
試合は両投手共に三振の山を築き、3回裏が終了。両チームとも未だヒットは0。
邦南の大場は3イニング打者9人を投げ被安打0、奪三振8、無四球の好投。
対する大峰明館の背番号20、左のサイドハンドの谷は3イニング全打者奪三振(9個)の投球。
バックネット裏…
『いやぁ。楽しみな対決だなあ。推定偏差値74の進学校の邦南がここまで来るなんて。俺んち邦南高校のすぐそばだから応援したくなるねえ。地元だし。』
こんなところで独り言を呟くおじさんの名前は、野中 栄嗣。
邦南高校の近くにすんでいるおじちゃんだ。
毎年夏は邦南の試合を見に来ている。
今年はまさかの16強ということもあって非常にテンションが上がっている。
野中『でもいまのところすごい投手戦だよね。ケイさん。』
今日は仕事場で知り合った高校野球ファンの友達、川越 啓造とこの試合を見に来ている。
ちなみに川越の出身高校は享神だ。
もちろん野球部に入っていて、享神が30年前に甲子園初出場で優勝したときエースで4番だった。
『4回の表、大峰明館高校の攻撃は、1番、ピッチャー、谷くん。』
川越『これはなにか企んどるよ。長年の勘だがね。』
野中『だろうか。』
初球…
(スッ…)
大場『!!!!』
川越『やっぱりね。』
(コン!!)
副島『くそっ!!セーフティーか!!サード!!!』
松坂『あいよ!!!!』
(パシッ!!ヒュッ!!)
藤武『んあっ!!!!』
松坂『やべっ!』
松坂の送球はショートバウンドになった。
一塁守備が上手くない藤武はそれを後逸した。
川越『あーあーあー!!!!やっちゃったよ…。焦ってあんな送球するから。ファーストの子もあれくらいとってあげなよ。』
野中『去年もあのピッチャーの子が1年生エースでね。だけど内野の守備の乱れで4-3で敗北したよ。去年と同じ感じだな。今のは。相変わらず守備の安定しないチームだ。』
川越『去年は何失策したんだ?』
野中『たしか…8個かな?』
川越『ははは。それでよく4失点で抑えたな。あのピッチャーくんは。』
野中『邦南が取った3点は全て大場くんの打点だしな。』
川越『しかしあの大場ってピッチャー、昔の俺に似てる気がするな。』
野中『知らんよ。そんなの。』
『2番、ファースト、園田くん。』
大場(無死二塁か。先制点を渡すわけにもいかねえし、結構ピンチだな。ウチの守備力の低さはこれまでの試合の失策数で証明済みだしな。(ちなみにこれまでの4試合…28イニングで12個の失策))
(コン!!)
『さあ2番の園田、いいバントだ。今度も三塁手に捕らせるうまいバント!三塁手の松坂、今度は丁寧にさばいていきま…!?』
『あーぁっと!!一塁ベースカバーの二塁手が遅れた!!サードの松坂、一度ためて投げる!!しかし間に合わない!!!セーフ!!邦南高校、二塁手のベースカバーミスでこれで無死一三塁のピンチです!!!!!』
川越『ったく…。見てて酷い守備だね。今のも頭使って守備してればバントの予想だって簡単につくだろうに。』
野中『投手力はほぼ互角。打力は邦南の方が若干上だが、守備力は天地の差で大峰明館が上手いな。』
大場(去年の二の舞になってたまるか。去年も味方の守備に足引っ張られた。だけど俺が気持ち切れなければ勝てたはずだった。今年は小宮や西口がいたから守備力も向上したし、なんといっても打線が増した。だけど今日は違う。俺がこいつらを勝利へと導くんだ!)
川越『ふーん。おれこのピッチャー気に入った。』
野中『なぜだ?』
川越『この大場ってピッチャー、昔の俺に似てるってのもあるんだけど、どんなに味方に足引っ張られても動じない心。俺がどうにかしてやるんだ!!って気持ちがここまで熱く伝わってくるからな。』
野中『やっぱお前連れてきて正解だったな。大場のいいところにもうきづいちまうんだからな。』
川越『当たり前だろ。俺を誰だと思ってる?はははっ。』
大場(まだ点をとられた訳じゃない。三振とってワンナウト一三塁になればこっちのもんだ。)
(ズバン!!!)
『ストライク!!ワン!!!』
《 144km/h 》
吉松(大峰明館監督)(外すつもりは無さそうだな。次でスクイズ行くか。)
大場(スクイズの可能性もある。ここは1球様子を見た方がいい。)
大場は首を振ってウエストのサインが来るのを待つ。
副島(ん…。そうか。スクイズもあるのか。ここは1球はずすか。)
大場がセットポジションにつく。
そして足をあげた。
大場は左投手なのでランナーは大場が足をあげた瞬間にスタートを切る。
しかし…
副島(やっぱりスクイズだったか!!よしこれで三塁ランナーは!)
バッターはバットに当てることはできなかった。
大場(よし!!)
しかし…。
(バスッ!!)
副島『うわっ!!!』
キャッチャーの副島はボールを完全に捕球する前に三塁ランナーの方へ目がいってしまったので大場のボールを弾いてしまった。
『ランナー突っ込め!!!!!』
ホームは悠々セーフ。
まずは大峰明館が副島のパスボールで先制。
『サード行ったぞ!!!!!』
スクイズの際、スタートを切っていた一塁ランナーはパスボールの際に一気に三塁を伺おうとする。
副島『暴走だ!!!』
副島が三塁へ送球。
ランナーは二三塁間で挟まれた。
だがなかなかアウトにできない。
そう、当然ながら挟殺の練習などしていないからだ。
川越『あらららららら…。小学生の球遊びじゃないんだから。』
そして…
二塁手の島谷涼が挟殺プレーで偽投を入れてしまった。三塁手の松坂もボールが来ると思ったのに来ない。少しひるんだ。そのとき島谷涼が三塁へ送球。
一瞬ひるんだ松坂はコレを捕球できずに後逸。
三塁手のカバーもいないなんとも間抜けな邦南はこのランナーもホームに還してしまった。
大場(…。先制点だけはやっちゃいけなかったのに…。しかも2点かよ…。あのピッチャーから2点は相当厳しいよ…。)
大場はスクイズのサインも読んでいただけに呆然としている。
川越『かわいそうにね。彼ならもっと強豪校でやってれば甲子園も夢じゃなかったはずだろうに。』
大場(くそっ…。)
(ビュッ!!)
大場(やば!ど真ん中!!)
(カキーン!!!)
打球はセンターの慶野へ。
慶野はこちらむきだ。
大場(ふう。文哉なら安心だ。)
大場はマウンドを降りようとした。
しかし
慶野『あれっ…ボールは!?』
センターの慶野は眩しく照りつける太陽を背景にボールを見失った。
大場も慶野の異変に気づく。
そして…
(ポトン!!)
『センターまでもが後逸した!!!!バッターランナーの宮池はもう二塁を蹴る!!!早いぞ!!レフトの木村くんがようやくカバーするがどうだ!?バッターランナーは三塁を回った回った!!!!木村から内野にボールが返ってくるもホームはセーフ!!宮池がダイヤモンドを一周してきた!!これでこの回3点目!!』
大場『文哉…。お前もか…。』
川越『これで決まったね。3点目を献上しちゃったし。この試合、邦南が勝つ可能性は限りなく無に等しいね。』
邦南!!早くも大ピンチ!!どうなる!?5回戦!!!