No.363:俺は、邦南の鬼頭博行だ。
《低めの縦スライダーを見逃し、2球目のチェンジアップを空振り。カウント、ワンエンドワンからの3球目!》
西口(インコースの膝元に…ズバッといっちゃってください!!!)
《投げる!!!!!!》
ズキィィィ!!!!
鬼頭(!!)
ビュゴォォォォォォッッッ!!!!
西口(え!?)
氷(遠い!これは外れる!)
ズッッバァァーーッンッッ!!!
鬼頭(…。)
『ボール!!!!』
【139km/h】
西口(完全に逆球だ…。)
赤嶋(なんだ…?妙だな…。)
風岡(…。)
《これは少しボールか抜けましたかね??キャッチャー西口の構えとは大きく外れてボール。カウント2ボール、1ストライクと変わります。》
鬼頭(…。)
小宮(…。)
――――――――
『絶対に誰にも言うな…。頼む!』
――――――――
『俺の人生や…。頼む!』
――――――――
『勝ちたいんだ!!絶対に!!』
――――――――
小宮(博行先輩…。どうして…。)
《第4球、投げる!!!!!!》
ズッッバァァーーッンッッ!!!!!
『ボール!!!!』
【141km/h】
西口(これも完全に逆球…。)
氷(どうした…?鬼頭。そう何球も失投するなんて。怪我でもしてんのか?)
《これも大きく浮いてカウントスリーボールワンストライク!!!!氷相手にこのカウントはまさに絶体絶命!!!》
鬼頭(くっそ…。マジかよ…。)
(この前より…相当ヤバくなってやがる…。)
西口(ここで2球抜け球…?まじかよ…。相当厳しいぞ…。)
赤嶋(コントロールミスならまだしも、130キロ後半から140キロ前半のストレートをヒロが2球続けるだと…。)
風岡(これも、現実か…。)
赤嶋(嫌な予感ってのは、そーゆーことかよ…。)
風岡(なかなか、理想通りにはいかないものか。)
『『『がんばれがんばれ鬼頭!!がんばれがんばれ鬼頭!!』』』
『『『がんばれがんばれ鬼頭!!がんばれがんばれ鬼頭!!』』』
『『『がんばれがんばれ鬼頭!!がんばれがんばれ鬼頭!!』』』
鬼頭(スタンドの…みんな…。)
大場『先輩ならきっとできます!!』
副島『ヒロ!!大丈夫だ!まだスリーボールだ!!』
島谷倫『今度こそは俺が守る!!任せろ!!』
西口『バックを信じて、自分のミット目掛けて投げ込んでください!!俺達は先輩を信じます!!』
鬼頭(…!)
“バカか!?俺は!!”
《カウントスリーボールワンストライクからの第5球目、》
鬼頭(俺には、こんなに仲間がいる。サイコーの、大好きなチームメートがいる。)
(だったら、)
《セットポジションから、》
“チームのために何が出来るのかを優先すべきだ!!!”
ビュゴォォォォォォッッッ!!!!!!
ズキィィィィィィィ!!!!
西口(!!!)
ズッッバァァーーッンッッ!!!!!!!
【159km/h】
『ストライク!!!!!』
『『『ウオォォオオオオォォォォォオォ!!!!!!!』』』
《159キロォォォォォォ!!!!!豪速球をインコース低めに投げ込んだ!!!先程の甲子園最速158キロをすぐさま更新!!!!!ここで自己最速、甲子園最速の159km/h!!!!!!》
氷(同情するのも違ったな。)
赤嶋(あのバカ…!これじゃあ…)
“三年前とおんなじじゃねぇか!!!”
風岡『落ち着け。赤嶋。』
赤嶋『キャプテン…ヒロのやつ!やべぇって!』
風岡『俺達との準決勝で痛めた。それまでの疲労も影響してな。準決勝の試合後の夜、いち早く気づいた俺は鬼頭とコンタクトをとった。だが、止めなかった。』
赤嶋『は!?何でだよ!』
風岡『俺達が言ったところで、アイツがやめるか?』
赤嶋『…!』
風岡『アイツはな、誰よりもチームメートを大切にする男だ。だからこそ、自分の仕事は最後まで絶対にやり抜く。例え怪我でもアイツはチームのために投げ続ける。』
赤嶋『…。』
風岡『アイツは、自分でこの道を選んだんだ。』
ビュゴォォォォォォッッッ!!!!!!
カーン!!!!
【159km/h】
『ファールボール!!!』
《フルカウントから159キロ再び!!!!しかし氷もなんとか食らいつく!!!》
氷(ボールのスピンがおかしいだろ…。なんてやつだ…。)
鬼頭(この3年間、俺は一度もマウンドに上がることを諦めなかった。俺の肘ではどうせ、プロには行けない。だから、最後は、小さい頃から憧れたこの甲子園で…)
小宮(博行先輩…。どうして…あなたみたいな偉大な投手が…高校野球にここまで賭けられるんですか…。)
赤嶋『ヒロ…。』
風岡『アイツは言っていたよ。俺達が何を言っても無駄だって。』
“俺は、邦南の鬼頭博行だ。”
“アイツは笑顔でそう言っていた。アイツが選んだ道だ。だったら最後は、男がその道を行くのを、しっかりと見守るだけだろ。”