No.362:鬼頭博行vs氷政成~読み合い~
《ワンナウト満塁から代打の開発を空振り三振に仕留めてツーアウト満塁!!ここで打席には大会新記録となる21安打を放っている恐ろしいリードオフマン、氷政成を迎えます!!もし仮にスリーベースヒットが出れば、サイクルヒット達成です。》
氷政成 本日の打撃成績
1:中本
2:左飛
3:左2
4:投安
5:敬遠
大会通算
打率.724(29-21) 1本塁打 10打点 7盗塁
《この打席、あくまでも打率からですが、ヒットを打つ確率はなんと72%!!!ツーアウト満塁と、投手としては逃げたくても逃げられないこの場面!!!高校野球史上最高のヒットマンとS・9、南阪のエース、甲子園最速男の対決!!!》
西口(初球はボールで。打者の様子を探りながらいきましょう。)
氷(甲子園決勝で、9回ツーアウト満塁。マウンドに、あの鬼頭。)
(とことん、幸せな高校野球だぜ。俺は。)
(あとは、)
“鬼頭博行、お前を打って邦南に引導を渡す。”
鬼頭(俺達は…)
“負けない!!!”
ビュゴォォォォォォッッッ!!!!
氷(アウトコース!!初球からいく!!!)
カァァァクゥッッ!!!!
氷(いや、)
ピクッ…
ズッッバァァーーッンッッ!!!
西口(ストライクからボールになる縦スラを見てきた。さすが、啓稜の1番打者。)
鬼頭(カウント球じゃ、釣られてくれねえか。)
《初球はストライクからボールになる縦のスライダー!!しかし氷はこれを見送ってワンボール!!!》
赤嶋『冷静に初球から入ったか。さっきの伝令から何か変わったな。』
霞『でも、冷静って、消極的ってことなんじゃ?ストライクからボールになる球って、打者が振ればストライク、振らなきゃボールの打者依存じゃない?それってどうなの?』
赤嶋『勇翔にしては愚問だな。今の状況、満塁だぞ?ボールから入るってことがどれだけ勇気のいる配球かわかるか?ボール球から入ってバッターの様子を見て、そこからリードを組み立てる。強打者を相手によくあるリードではあるが、この場面でそれをするのはかなり積極的だ。振ってくれれば儲けもんって感じだ。要はいまの氷の反応が見たいわけだ。フォアボールもこの場面は命取り。初球はストライクとりたいのが普通だろ。ボール先行にしたらそれこそ打者有利のカウントで被打率が上がる。だからこそいまの西口のリードは超強気だ。強気なリードってのはただインコースをズバズバ突くだけじゃない。このリードは相当肝が座ってないと出来ねえよ。』
氷(この縦スラは要所では使ってこない。今1球見せた時点で俺に2球続けては使いにくいだろう。例え使ってきても俺なら反応できる。だから狙うは…)
(シンプルにストレート。)
西口(外低めに変化球でボール。氷も少し釣られそうになっていたが、見分けることもできていたし、2球続ければやられる。となると張ってくるのはストレートだろう。博行先輩のストレートはガッツリ意識しないと打てない。反応だけじゃヒットは無理。だからこそここはストレートで張ってくると考えるのが妥当。そこに裏をかく。リードってのは、その1球“だけ”を意識していてはいけない。次以降のボールでも、いかにそれまでのボールを意識させることが大切。緩急であったり、コースであったりだ。ストレートだと、次から投げる球に困る可能性がある。それでは詰んでしまう。だからここは、)
鬼頭(チェンジアップ。)
西口(コースは、ど真ん中。)
鬼頭(ど根性だな。最高に楽しいぜ。)
《注目の2球目!!!》
《投げる!!!!!!》
ビュゴォォォォォォッッッ!!!!!!
氷(ど真ん中!!!粋に決めるぜ!!!!)
スッッッッ…
西口(バットに当てさせるかよ!!!)
氷(な!?チェンジアップ!!!)
ズッッバァァーーッンッッ!!!
《2球目のチェンジアップは空振り!!!ここで邦南は真ん中に遅いボール、チェンジアップを投げてきました!!》
氷(チェンジアップを真ん中か…。やってくれるじゃん。)
赤嶋『な?弱気なやつらが真ん中にチェンジアップなんて放れねえ。今のもストレートに絞ってることをちゃんと把握してる。』
霞『確かに…こっちがヒヤヒヤだよう。』
西口(真ん中ってのはすべての打者が本能的に反応してしまうゾーン。それが狙い球ならなおさらだ。博行先輩のチェンジアップはストレートと同じ腕の振りで、バットを振り始めてからやっとチェンジアップってわかる。それでは時既に遅し。真ん中ってのが逆に罠なんだよ。)
氷(読み合いアツすぎだろ。)
鬼頭(次は何でいく?)
西口(もちろん、ストレートいきますよ。緩急もついてますし、狙われてもヒットは打てません。ここで一気に追い込みます。)
鬼頭(オーケー。)