No.330:龍伝-chapter TEN-
他校との練習試合が禁止な為、啓稜学院は紅白戦をひたすらやりつづけ、夏の大会に臨むことになる。
しかしエースで4番でキャプテンの迫田が紅白戦で右肩を負傷し夏の大会の登板が難しい状態になってしまう。
―――――しかしこれが伝説の始まりだった。
激戦区大阪府大会をノーシードの啓稜学院は背番号6を付けた2年生青龍寺翔冴が連戦快投を続け、打線も奮起。
新1、2番の棟方、氷の2年生コンビ、3番佐久間、4番迫田、5番青龍寺の強力クリーンナップ、6番には紅白戦絶好調で一塁起用の強打の2年生南條を構えた強力打線となり、決勝まで全試合コールド、無失点試合を継続。
そして決勝では青龍寺のノーヒットノーラン、3本塁打等、投打が噛み合い19-0の圧勝で甲子園出場を決める。
ついに念願の甲子園デビューを果たした青龍寺は今までの悔しさを晴らすかのような快投を甲子園でも演出。
青龍寺は1回戦の青森吉田(青森)でノーヒットノーラン、
2回戦の創新学院(栃木)で20奪三振完封、
3回戦の惑稜(石川)をビハインドからリリーフし、チームは延長サヨナラ勝ち、
準々決勝の山名氏清義塾(高知)では青龍寺がノーヒットノーラン、3打席連続本塁打の大活躍、
準決勝の浜北摂南(静岡)も6安打15奪三振1失点完投、
決勝の享神(愛知)では1安打17奪三振完封、打っても享神の2年生エース北峰丞から2本塁打5打点でチームも14対0で完勝。
青龍寺は打者としても大会記録の6本塁打を記録した。
不祥事の啓稜のイメージは完全にはぬぐえないものの、高校野球ファンの心に青龍寺翔冴のなを痛烈に刻み込んだ2年夏。
そして迫田は引退。
新キャプテンには棟方が選ばれ、棟方はレフトから本来のポジションであるキャッチャーに、そして青龍寺とバッテリーを組むことになる。
しかし青龍寺はまたもチームメートに裏切られる。
秋の近畿大会を圧倒的強さで優勝した啓稜学院の
“三度目の不祥事である。”
しかし―――――
これは実は真実ではなかった。
1年生部員の一人が啓稜学院の練習のあまりの辛さに野球部を退部。
その後学校での居場所を失った1年生部員は高校自体を退学。
その後、恨みからか、本当のことは定かではないがその退部した部員の親が高野連に訴えた。
“いじめがあった”
と。
さすがに3度目の疑惑に目を瞑る高野連ではない。
火の無いところに煙は立たない。
そう言って高野連は事実確認を完全にしきらないまま、啓稜学院野球部を処分した。
野球部の3ヶ月間の練習試合禁止処分(事件当時2月)、野球部部長の謹慎処分。
これによって啓稜学院の春の選抜出場は叶わず。
濡れ衣を着せられた啓稜学院野球部だったが、
しかし部員は意外にも、冷静だった。
棟方『世間は、まだまだ俺たちを許してない。こーなったのも、結局は信じてもらえない、俺たちが悪い。でも俺達はかわった!昔みたいに低俗なことはしなくなった!これだけは俺達だけが知ってる真実だ!!!』
『最後の夏、全国の人々に認められるような、啓稜学院、何これ、最高のチームじゃん。そう言ってもらえるように、俺は野球がしたい。』
氷『いいじゃん。ラストサマー。高校生らしくがむしゃらに、本気で、しっかりした人間として、一緒にやっていこう。』
青龍寺(…。)
棟方『いいな?俺達にはまだ…』
“夏が、残ってる。”
青龍寺『…………!』
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迫田『だけど…俺達にはまだ…』
“夏が…残ってる。”
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青龍寺(くっそ。仕方ねえな…。相変わらずうぜー部員共だけどよ…。)
(気分転換に…いっちょあそこ行ってくるか…。そっからまたリスタートだ。)
『あ!!お兄ちゃんだ!!』
『おう。久しぶりだな。太郎。』
『またキャッチボールしようよ!』
『ああ、いいぜ。でもお前もそろそろ卒園式だろ。いつもみたいにキャッチボールできなくなっちまうな。』
『いいもん!トシキ君とやるもん!』
『ははは。案外悲しいこと言ってくれるな。あれ?トシキは?』
『トシキ君は…えーっと…あ、先生!!トシキ君は?』
『あら青龍寺さん。また世話しに来てくれたんですね。ありがとうございます。』
『ねぇトシキ君は!』
『トシキ君は中にいるわよ。探してきたら?』
『うん!』
『元気っすね。太郎。』
『ええ。久々に青龍寺さんがここ来てくれて嬉しいんでしょう。』
『それは良かった。』
『太郎は、一人っ子だから、青龍寺さんのこと、お兄ちゃんのように思ってますね。ちょくちょくここ遊びに来てくれてありがとうございます。』
『別に、俺は小さいやつらが好きなだけなんで。お礼を言われる義理は無いっすよ。』
『太郎、青龍寺さんとキャッチボールするの、とても楽しんでたみたいで、小学生になったら野球始めるらしいです。トシキも誘って。』
『はは。それは良いことですね。』
『啓稜学院、最近大変だと思うんですけど、青龍寺さんはやっぱり、野球、好きなんですか?』
“勿論っすよ。好きじゃなきゃ野球部なんか辞めてますよ。こんな最高のスポーツ、他にありますか?”
『なんか青龍寺さんって、見た目怖かったけど、結構いい人なんですね。』
『黙ってください。それは違います。』
『あら、顔赤い!照れてるんですか?』
『てっ…てっ、照れてないです!!』
『でも、素敵だとおもいますよ。』
『っへ!?』
“子供に夢を与えるような、すごい選手になってくれると思います。青龍寺さんなら。”
『…、あ、あ、あ、ありがとうございましゅっ。』
『噛んでますよ(笑)』
『いや、そこは突っ込まないでください。』
『ははははは!青龍寺さんおもしろい!』
『なんなんすか、マジきついっす。』
『今年の夏の大会、期待してます。啓稜学院、甲子園行ってくださいね!私、知ってますから!青龍寺さんが、とってもいい人だってこと!』
『あ、あ、あ、ありがとうございますっ!』
『顔がまた赤いですよ。やっぱ照れてますよね。』
『照れてないです!!』
『あはは。応援してます。私も。』
『も?』
『太郎も、トシキも。応援してると思います。頑張ってください。』
『…はい。恥ずかしいプレーはできませんね。』
『もっともっと、色んな人に、夢を与えるプレーヤーになってください。あなたなら、きっとなれます。』
青龍寺『…はい!』
…
カキーーーッンッ!!!
青龍寺『ナイバッチ!由毅哉!!』
南條『お、おう。』
青龍寺『ナイバッチ!!雄太!!』
南條『なぁ、翔冴、なんであんな機嫌いいの??』
棟方『わからん。でもいいことだ。』
棟方『おら青龍寺!!いままでサボってやがったな!!!いつもその位声出せや!!!』
青龍寺『出しとるわボケ殺すぞ!!』
棟方『誰がボケじゃ!!』
青龍寺『甲子園わっしょーい!』
南條『…。』
棟方『…。』
“何があったんだ!!”






