No.320:乱されないペース
《5回の表、ノーアウトフルベースで無得点に抑えた邦南はこの流れのまま攻撃にいって試合の後半に移りたいところ。》
『5回の裏、邦南高校の攻撃は、6番、サード、松坂くん。』
水仙『ここで松坂が出たいな。邦南としては。次が氷室だし。』
赤嶋『ただ右打者ってのがなぁ。まぁ、キレて単調になったドラゴンならストレートが多めになるから速球に強い松坂なら打てる率も高いが…。』
霞『本当なら…ドラゴン、もうキレてるレベルだよね。』
水仙『それは間違いない。投手としてもホームランかちこまれてるし、打者としても満塁で三振だからな。昔のドラゴンなら…』
ビュゴォォォゥッッッッッ!!!!!
カァァァァクゥゥゥッッッ!!!
ズバァァーーーッッーーーーンッッ!!!
≪130km/h≫
《初球はフォーク。わずかに外れました。》
赤嶋『ここでボールから入る余裕。2点リードってことを忘れてない。やっぱなんか変わった。間違いない。』
…
ズバァァーーーッッーーーーンッッ!!!
『ストライク!!!』
《見逃し三振!!!!最後はアウトロー直球で松坂を仕留めた!!!》
『7番、ファースト、氷室くん。』
桜沢『さあ、どうなるかな?』
ビュゴォォォゥッッッッッ!!!!!
氷室『甘い!!!』
カキィィーーーーッッーーーーンッ!!!
《この打球は左中間!!!!抜ける!!!バッター氷室は二塁へ到達!!!》
赤嶋『今のは甘いストレート。さすがに氷室なら捕らえる。ただ…』
霞『今日…ドラゴン…調子悪いよね?』
赤嶋『そうだな。あまり調子は良くないが…それより俺は他のことが気になって仕方がない。』
霞『なんでキレないのか、でしょ?僕もそれめっちゃ不思議に思ってる。』
赤嶋『格下の副島にホームラン打たれて、打席でもチャンスで打てなくて、実際自分の調子も悪い。ドラゴンじゃなくてもイラっとしてしまうかもしれない。なのにドラゴンはまったく動じていない。』
桜沢『俺、愛知県大会の相手の偵察してたとき、会ったんよ。ドラゴンに。』(No.50参照)
霞『お?』
桜沢『そんときは、まだ、昔と同じで、すぐキレるドラゴンだった。実際突然おれにキレてきたからな。てか、お前ら、甲子園の抽選会前と開会式前に会ったんだろ?そんときはどーだったのよ?』
赤嶋『ドラゴンとヒロが久々に再開してちょっと一悶着あった。でもまあいつも通りの光景だし、特に気にしてなかったが。そんときは、見る限りやっぱ昔と同じドラゴンだった。』
桜沢『だよな…。何があったんだ…?あいつに…。』
ズバァァーーーッッーーーーンッッ!!!
≪146km/h≫
《見逃し三振!!!!最後もアウトローストレートで慶野を見逃し三振!!!青龍寺、ワンナウトから氷室にツーベースを打たれましたがその後8番、9番には丁寧にコーナーを突き無失点です!!!》
水仙『最後のストレートも力任せにいったんじゃなく、ちゃんと力抜いて腕振って、火傷しないコースに投げ込んでるからな。』
赤嶋『棟方とか、なんか知ってんのかな?』
《邦南高校、もう1点取って1点差にして後半戦に突入したいところでしたがここは青龍寺翔冴が立ち塞がります。試合は3対1のまま、啓稜学院2点リードで5回の裏終了です。》
棟方『ナイピッチ。翔冴。』
青龍寺『…。別に。慰めはいいから黙れ。』
棟方『ったく、素直じゃねえな。』
青龍寺『なにがだ。』
棟方『素直じゃないっつっても、あの人の言葉だけは素直に聞くんだな。』
青龍寺『…黙れと言っている。聞こえないのか?』
棟方『ハハッ。照れんなって。恋人でもあるまいし。』
青龍寺『…。』
棟方『やっぱ特別か?あの人は。』
青龍寺『…。…、………。そりゃ…。』
棟方『ハハッ!やっぱ素直だな!』
青龍寺『俺の…ただひとりの尊敬する人だからな。』
“進サン…。”