No.311:天才
棟方(おかしいだろ…。)
青龍寺(まだまだクソ餓鬼だけど腹立つぜ。)
風岡『アイツのポテンシャルは我々といい勝負だ。なぜだかわかるな?』
赤嶋『もちろん。』
霞『うん。』
水仙『確認だけど氷室って…確か野球始めたの高校に入ってからだよな?』
赤嶋『そうだ。』
水仙『ならやっぱ、認めるに値するわ。』
桜沢『あぁ。明らかにあいつは天才だ。』
赤嶋『…間違いないな。』
霞『野球をはじめて4ヶ月でドラゴンのスライダーを、しかも初見っていうオマケ付きで、前に飛ばした…。』
桜沢『それ以前にもあのドラゴンの変化球にしっかりとついていってたし。甲子園でこそ本調子では今まで無かったが、県大会で140km/hオーバーの球をクリーンヒット連発だった。』
赤嶋『それも、4月から野球始めたやつがな。俺の調べによると夏の大会前の氷室は練習も不真面目だった。県大会をチームが勝ち進む度に、野球へのめり込んでいっている。つまり、夏の大会前まで真剣に練習もやっていない。』
水仙『それはもうオマケ情報だよ。たとえ真剣に練習しててもドラゴンのスライダーに4ヶ月でついていけるわけがない。』
桜沢『事実、今の俺でもドラゴンのスライダーは普通に空振りするぞ。実際、去年の夏の甲子園決勝で啓稜とやったとき、俺はドラゴンに3打数1安打2三振。ヒットもインコースのストレートをレフト前に運んだだけでスライダーは打てなかった。』
鳴島破『ドラゴンのスライダーヤバイよねぇ。俺小学生の頃遊びで投げてもらったときびびったもん!』
霞『右打者じゃ、あのスライダーは絶対無理。たとえ狙ったとして、消えるから、理屈抜きにして無理。目をつぶって振るのと一緒。』
水仙『ぶっちゃけ左の俺らでも相当キツい。左の俺らにとっちゃ向かってくるはずのスライダーなのに視界から消えるからな。直前で見えてたまにカットくらいならできる、けど前に飛ばすのは相当キツい。』
赤嶋『前に飛ばす、つまりフェアゾーンに飛ばす、ってのはつまり、インパクトを前に持ってこないといけない。打つ瞬間のインパクトを前に持ってくるには、まず基本として体は二の次として目が反応しなきゃダメだ。チェンジアップなんかは遅いから目だけならボールがよく見えてる分、ポイントを前に持ってきてしまって、タイミングが崩れる。体は遅さに騙されるがな。体は遅さに騙されても目は遅さに騙されないから、タイミングが崩される。目をつぶればたとえチェンジアップでもタイミングが崩されることはないだろ?』
水仙『ドラゴンのスライダーはこれよりもう一段階、いや数え切れないくらい段階が違う。タイミングうんぬんにして見えないし、見えたとしても見えるのが曲がり終わったあとの段階だからボールが相当手元にきてる。だから打者原理としてヒットゾーンに飛ばせない。』
風岡『それを…氷室は打った。ファーストゴロとはいえ、桜沢でも前に飛ばせなかったスライダーになんとかついていった。』
赤嶋『おとといの北頼戦だってそうだ。ヒロですら三振した青馬の縦スラをファールにした。』
水仙『ハハハ…。』
風岡『これを天才と言わずして…なんと言う?』
霞『こりゃ、タラタラしてると追い抜かれちゃうな。僕も。』
赤嶋『楽しみだな。氷室佑介。1年生。』
ズッッッバァァーッッーーーンッッ!!
《見逃し三振!!!!最後はインコースへ斬り込むスライダー!!!!慶野、手が出ず!!!》
慶野(俺って…左打者だろ…?なんで横のスライダーが見えねえんだよ…。)
《夏の甲子園決勝、夏連覇を目指す啓稜学院が3回の攻防を終えて3対0とリードしています!!エース青龍寺もパーフェクトピッチング!!打者一巡、奪三振7の快投!!》