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No.26:元4番


木村『打てよ!!健祐(けんすけ)!!』


誠『タイムお願いします。』


『タイム!!』


誠がピッチャーの長岡の元へ向かう。





誠『どうしますか?』

長岡『なにが?』

誠『いや、このバッターと勝負するより、次の7番と勝負した方がいい気がします。何となくですが。』

長岡『はぁ?俺が6番バッターを敬遠だって?』

誠『はい。このバッターは見る限りスタンドにまで運ぶ力も持ってます。他のバッターとはスイングスピードも違いますし。』

長岡『ここは強気に押していくしかねぇだろ。そんなに俺が打たれるとおもうのか?』


誠『…はい。正直今日の長岡先輩は持ち味のストレートも走ってない上に、制球も甘い。だから割りと力のある邦南の上位打線にはことごとく打たれました。』

長岡『下がれ。勝負だ。』


誠『…でも!』

長岡『敬遠なんてする気はねえ。さっさと帰れ。』



誠『…、…はい。』




『プレイ!!』




誠(2点差のツーアウト二三塁、一打同点の場面。長打はもちろんヒットすら打たせてはいけない。まずはストレートです。)


(ズバン!!)


『ボール!!』


誠(明らかに要求したところよりも高い…。長岡さんはスタミナは問題ないくらいあるし全然オッケーだ。でもこれだけ球が浮くってことは…)


誠はまたストレートのサインを出した。


ビュッ!!

(ズバン!!)


『ボール!!』


長岡『クソ…』


誠(間違いなく投球に集中できていない。いつもの長岡さんならこんなにボール球が続くわけがない。今のも明らかにボール球だと分かる球だ。きっと雨がどーたらこーたらで投球に集中できていないんだろう。リリースポイントが完全に速い。だからバッターも球の伸びは感じない。だからストレートに押し負けずにバッターも打ち返す。)


誠がスライダーのサインを出した。


長岡『スライダー?こんな雨で変化球でストライクが取れるかよ。特にスライダーなんてボールを切るようにして投げるんだからな…。』


長岡は首を振った。

誠(絶対にストレートはダメだ。このカウントで今の長岡さんにストレートを投げさせちゃいけない…。)


誠はカーブのサインを出した。

ちなみに長岡は速球中心のピッチャー。



大体の球種の割合は、

ストレート…80%

スライダー…18%

カーブ …2%




このデータから分かるようにカーブは基本的に投げない。



長岡『カーブだぁ?そんな球じゃダメに決まってんだろ。ここはストレート…』


長岡はまた首を振った。

しかし誠はまたスライダーのサインを出した。

長岡は断固としてストレートしか投げないつもりだ。

一方の誠はストレートは絶対に投げさせないつもりだ。



打者の松坂はこの長い間に対して集中力を切らすことなど考えられないほど集中している。



一方バッテリーは既に見えない喧嘩状態だ。


長岡『わかったよ…。投げればいいんだろ。投げれば。』


誠(よし…。)


長岡がやっとボールを投げる。


ビュッ!!


(カクッ!!)


(パン!!)


『ボール!カウントノーストライクスリーボール!!』


長岡『ちっくしょー。ノースリーかよ。』

誠(これでいい。次も変化球だ。)


誠はまたスライダーのサインを出した。


しかし長岡は…


長岡『何がしてぇんだよ。おい…。またスライダーって…歩かせる気か…?』


松坂(ノースリーだ。セオリーならここは1球見るべきだが…。甘く入ってきたら思いっきり叩くぞ。)



……


長岡は5回も首を振ったがサインはカーブかスライダーの変化球。

この雨で細かい制球の利かない長岡に変化球でカウントを稼げるハズがない。

誠は歩かせる気だ。



誠(このバッター。明らかに他のバッターとは狙いが違う。コイツは本能で打ってくるタイプだ。甘い球が来たら確実にやられる。次のバッターはさっきやっとヒットを打ったようだがさほど打撃のセンスがあるとは思えない。この6番を歩かせて次の7番と勝負した方が確実に撃ち取れる可能性が高い。)


誠の考え通り、松坂は野性の勘でボールにしがみついてくるタイプだ。

その野性の勘はほとんど外れるが、こういうしびれるビハインドの場面ではその野性の勘の的中率は大幅にアップする。

つまり、松坂は逆境に強い男だ。

誠はそれを何となくだが感づいていた。



誠はいぜんとして変化球のサイン。

長岡『こうなったら…。』


なんと長岡はスライダーのサインに頷いた。

その長岡の狙いは…


長岡(いくらキャッチャーがサインを出そうとも、ボールを投げるのはピッチャーだ。)

長岡はスライダーのサインに頷きながらもストレートを投げようとしている。つまり、サイン無視だ。



長岡がセットポジションから投球モーションに入る。


(ゴゴゴゴゴ…)

長岡が足をあげる。


誠(まさかとは思うが…。ない…とは言えない。)


長岡『オレのストレートが…』


(ガッ!!)


長岡が投げ込む。



長岡『そう簡単に打たれてたまるか!!!』



ビュッ!!


誠(ストレート!?サイン無視か!!)

松坂『甘い!!これを打たなきゃ何を打つ!!』


誠(だからストレートはダメだって…。)


誠は目を閉じた。

打たれることを確信したからだ。




(カッキィーッン!!!!)




長岡『え…』

打球はレフトへ。

レフトの天宮が追う。

キャッチャーの誠は打球を目で追うこともしなかった。


(バサッ!!)



邦南ナイン『…!!!』

名林ナイン『…。』



『よっしゃー!!!!!!!!』

『入ったー!!!!!』

『ナイスバッティン!!!!』


打球はレフトスタンドへ飛び込む、逆転のスリーランホームラン。

9回ツーアウトから邦南が遂にこの試合初めてリードを奪った。



これで13-12。

邦南が愛農大名林を一点リードした。



誠は打たれた投手長岡に声をかけるつもりもなかった。

打たれたのはサイン無視をしてストレートを投げた長岡に責任があるのは当然だ。


誠『ふざけんな…。』

誠はマスク越しに泣いていた。


誠(長岡さんがストレートを投げれば無意識のうちに置きにいくのなんか容易に想像ができた…。だからこのバッターを歩かせて次のバッターでゲームセットにしようと思ったのに…。)


長岡はピッチャー不利の苦しいカウントに立たされて無意識のうちにボールを置きにいった。


それを松坂は逃さなかった。

それを誠は事前に防ごうとした。




バックネット裏の下村健太の投球を見に来たプロ野球のスカウト達はついでに長岡の球の球速をスピートガンで測っていた。

そのスピードガンには…


《《 132km/h 》》


と表示されていた。


『さっきまでは140㌔終盤のいいボールを放ってたのになぁ。』


スカウト達も話している。




長岡が逃げのピッチングをして打たれたという事実はそこにいた人なら誰もがわかっただろう。






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