No.144:読み勝ち
西口(コイツもまた厄介なバッターだ。が、抑えれば甲子園なんだ。追い込まれてるのは余語を含めた享神側。)
余語『任せろ野郎ども…。』
大場『やってやるぜ…。チャレンジャーの俺たち邦南が簡単に甲子園に行けてたまるかよ…。こんくらいのしんどい場面乗り越えて行ってやるよ。』
余語(俺がキャッチャーなら…この場面で初球からストレートでストライクは絶対に取りに行かないな。なぜならこの痺れる場面で打ち気に逸っているバッターに対して、投球のパターンとして1番典型的な初球ストレートでストライクを取るパターンは一見定石だが、定石だからこそバッターにとって1番狙いやすいパターンでもある。ましてやこの場面だ。投手としてもストライクが欲しいと誰もが思う。だからこそバッターもその初球ストライクを狙いにいく。キャッチャーをやってるやつ、いや県大会決勝まで来たキャッチャーなら誰もがこの危険性に気がつく。この単調なリードが目立つ西口でも気づくだろう。だからこそ俺は…)
“初球からカウントをとるフォークを狙う”
余語(ストレートはまずない。だったら残るのは変化量重視の高速フォークか制球を重視し変化量を抑える高速フォーク、そして非常に制球安定型の球種、カーブ。変化量重視のフォークは主に決め球に使ってくる。故にストライクカウントが欲しいこの場面での使用は無に等しい。変化量の大きさゆえに空振りでも取らないとストライクをとることは難しいからな。残るは制球重視のフォークと制球安定のカーブ。だがカーブの可能性も低い。なぜならカーブがこの場面で使えるほどの精度なら十分序盤から多用してきてもいいはずだからな。つまりバッテリーとしてもカーブは制球こそ一級品だがあまり使用したくない球種であるはず。残るはそう、制球重視の高速フォーク…。コイツを初球から狙う。この初球が俺の中で1番の勝負だ。カウントが動くと配球バリエーションは格段に増える。この球種の絞りやすいこのカウントが勝負だ。こいフォーク。)
ビュワァウゥゥッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!
余語『来い、来い、来い!!!!』
スッッットォォォーーーーーーッッッン!!!!!!!!!!!!!
余語『来たぁ!!!!!!!』
カキィーーーーーッッッッッッーーンッ!!!!!!!!!!!!!
西口『なにぃ!?』
大場『狙ってただと!?』
《5番の余語はうまく流した!!!!!!!打球はライト小宮の前に落ちる!!!!!!!二塁ランナーは返ってくるか!?》
小宮『行かせないよ!!!』
ビュウウゥゥゥッッッッッッッッッ!!!!!
ズッバーーーッッッン!!!!
《ライト小宮から見事なバックホーム!!二塁ランナーは三塁ストップ!!!!!》
大場『くそ…。』
西口『どうてん…。』
《しかし9回表ツーアウトフルベースからの初球、5番キャッチャー、キャプテンの余語のライト前タイムリーで同点!!!!!!!!!!中村公園球場は総立ち!!!!!!まさかの展開だ!!!!!!!9回表開始時点で3点差あったがチームプレーで3点差を追い付いた享神!!!!!!!そして同点となり今度は一打勝ち越しのチャンス!!!!!!キャプテンの余語、この大一番で自分の仕事を見事に全うしました!!!!!!!一方邦南のエース大場は唖然とした表情!!!!!!!!》
大場『くそ…ったれ…。』
西口(ヤバイぞ…。この状況は…。)
『6番、サード、勾城くん。』
野中『ヤバイな。』
川越『甲子園を目前としておきながら3点差を同点にされた。ピッチャーの気持ちが切れてしまってもおかしくない。』
野中『大場の精神力を評価していたんじゃなかったのか?』
川越『俺はこんな場面体験したことはないが…想像しただけでかなりしんどい場面だ。あいつのメンタルに惚れたがこの場面もはね除けられるかは甚だ怪しい。ましてや打者は好打者の勾城。このまま邦南が一気にズルズルいくなんてことも余裕に考えられる。』
勾城『なあ拓磨。甲子園、お前らみたいな公立高校にいってもらったら資金的に貧しいのに親に無理して私学入れてもらった俺は親に申し訳がたたねえんだ。』
西口『だからなんだ?』
勾城『打たせてもらう。甲子園に行くのは俺たちだ。』
西口『…。』
大場『…。…。……。…。』
西口がマウンド上の大場をチラッと見る。
西口『…。』
『タイム、お願いします。』