No.129:堂金物語Ⅳ
今坂『まさか…ここまでの中学生がいたとはな…。』
桜沢『負けた…?俺がこんな中坊に?』
堂金『…。……。………。…。』
桜沢『クソォ!!!!!!!!!!!!!!!!!』
余語『!?!?!?』
北峰『春毅が…ここまで…。』
『帰ります。考えさせてください。』
今坂『天童。駅まで送ってやれ。』
天童『は、はい。』
ブーン…
堂金『…。』
天童『勝っちまったな。主力全員に。』
堂金『…。』
天童『なあ、堂金君。』
堂金『静かにしてもらえませんか。』
天童『そうゆうことか。でも、それはできない。』
堂金『下ろしてください。』
『お前は、何を望んでここに来た?』
堂金『聞いて、どうするんですか?』
天童『別にどうもしねぇ。ただ、一人の野球人として、お前ほどの能力を持ったやつの答えが聞きたい。』
堂金『負けを欲してるんです。今の俺は。』
天童『?』
堂金『中学のバッターなんて俺の敵じゃないんですよ。全国で勝ち上がるにつれて当然注目のスラッガー、好打者と呼ばれるタメのやつらとは戦う事があります。ですが、そーゆー注目された実力があるやつらでも、俺のボールにまったく手も足もでない。』
天童『勝ち続けることに、飽きた、ってことか?』
堂金『飽きてはいないです。似てますが、俺にとって勝利ってもんが、生きているうえであって当然の物、基礎代謝と変わらなくなってることが、嫌になってるんです。俺を負けさせてくれる存在、そーゆーのを高校野球で見たかった。』
天童『そーゆーことか…。』
堂金『だが俺は勝ってしまった。高校生で3本の指に入る桜沢を含め、享神高校のレギュラークラス、主力クラスの選手たちに。』
天童『…。結局、どうするんだ?』
堂金『何がです?』
天童『お前は享神に来るのか?』
堂金『わかりませんね。ウチ、貧乏なんで県外の私学なら特待生はもちろん、全面的な資金援助をしてくれないとキツいですかね。てゆうか、高校で野球をやるかどうかも分からない段階です。』
天童『お前は確かに勝負に勝った。だが、それだけで高校野球の勝負に勝ったとは思うなよ。』
堂金『意味がわかりませんね。』
天童『お前はまだ高校野球ってもんを分かってねえ。一ついっておく。』
『高校野球を、舐めんなよ。見くびんなよ。』
堂金『あんな現実見せられて、舐めないわけ無いじゃないですか。俺、高校野球なんてこんなもんだと思います。』
天童『…。堂金君。』
堂金『?』
天童『お前、享神に来い。もちろん全面的な資金援助も考えておく。ただ毎年俺は一人だけ特待生を推薦できる権力がある。今年はお前を推薦したいと思う。もちろん、中学硬式全国制覇投手だ。他の高校からもたくさん誘われてるはずだ。それでも蹴って享神に入ってくれれば、当然俺ら首脳陣も全力でお前を育て上げる。』
堂金『考えておきます。』
天童『お前は将来、日本のエースになれる。メジャーリーグだって狙える存在だ。俺らがお前を作り上げる。高校野球に興味がなくても、お前ほどの実力なら、もっと上の世界になら興味があるはずだ。そのレベルにしてやる。』
堂金『…!!!』
天童『着いたぞ。後は分かるな?』
堂金『今日はどうもありがとうございました。』
天童『また会おう。じゃあな。』
堂金『日本のエースか…。そしたら、ばーちゃん、喜ぶかな…。』