No.105:アプニックヒットマン
谷口『ここで無呼吸安打製造機か。享神は絶好のチャンスだな。』
高田『初回ノーアウト満塁。打者は4番の桜沢。邦南にとっては現時点で最悪の展開ですね。』
谷口『なあ高田?apneaicってどんな意味か知ってるか?』
高田『いや…スペルがわからないんでちょっと…』
谷口『apneaicってのはな、【無呼吸な】って意味なんだよ。日本の大学トップの東宮大学出身のお前でもさすがにわからなかったか。』
高田『アプニックって…桜沢の異名…【アプニックヒットマン】のアプニックですか!?』
谷口『ああ。ではなぜ桜沢がアプニックヒットマンって呼ばれてるかも知らないな?』
高田『なぜです?』
谷口『桜沢は…打席では息をしていないらしい…。完全に【無】の心で打席に立っている。そんな話を聞いたことがある。』
高田『じゃあ…打席では何も考えてないってことですか?』
谷口『だろうな。来た球を打つ。そのスタイルで今までの高校通算97本塁打という数字を築き上げてきたらしい。』
高田『怪物ですね…。やはり…。』
鬼頭(ダメだ。絶対に複数点取られる。ノーアウトフルベースで打席にサク…。試合前に一応言っておいたが…西口…。サクにはどんな配球も通用しないぞ…。アイツは打席では何も考えていない。完全にだ。どんな雑念などがあってもサクは打席に入った瞬間に無になることができる。つまり…裏も表もない。サクの打席の時のキャッチャーの存在意義は、ピッチャーの球を捕球するということしかない。要するにピッチャーの力量で完全に勝負が決する。そして現在俺らのマウンドに立っているのは氷室。これじゃあ完全に勝負にすらならないだろう。)
『プレイ!!!!』
西口(鬼頭さんの情報だとコイツにはどんな素晴らしい捕手も意味がないらしい。桜沢を抑えるには奴の打ち損じか野手の正面をついた当たり。または桜沢よりも能力的に優れた投手じゃなきゃダメだったっけ…?でもコイツも俺らと同じ高校生。そんなに完璧な人間じゃないはずだ。)
鬼頭(西口のバカ。)
氷室『これがS・6の1人…南阪の主砲、桜沢 春毅か!やべぇウズウズしてきたぜ!!』
西口(この遅い縦のカーブなら…!!)
ビュウッ!!
西口(よし!!ナイスボー…)
すっかーーーーーっっっっーん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
鬼頭(まあこれも必然的か…。ピッチャーが氷室だしな…。)
『場外へ消えたぁーっ!!!!!!!!決勝戦の先制は享神高校!!!!!!!!4番のS・6の1人、桜沢春毅の、自身今大会7本目となるグランドスラム!!!!!!!!!!!去年の自分、そして昨日敗退した猪子石の主砲、渡辺一紀の大会記録に並んだ!!!!!!!!!』
スコアボードにいきなりの【4】の文字。
しかし邦南ナインは全く動じない。
氷室(俺じゃ通用…しねえ…。)
西口(またビッグビハインドスタートか…。まあもう慣れっこだ。)
鬼頭(こりゃ一応俺も用意しとかないとな。翔真も長いイニングは無理っぽそうだし。)
『5番、キャッチャー、余語くん。』
氷室(当然だよな…。だってまだ俺野球始めて4ヶ月くらい…。野球推薦や特待生で強豪私学に入学してるやつとは野球やってる次元が違うんだ…。)
スッカーーーッッッン!!!!
『ピッチャー返し!!!!!!!』
パシッ!!!!
『捕りました!!ピッチャーの氷室!!痛烈なとても速い打球だったんですが、見事な反射神経を見せつけました!!』
余語『ちっ。少し流れを切っちまった。』
『6番、サード、勾城くん。』
西口(きたか…。勾城秀哉。)
勾城『そんなに敵視しないでよ。1年前はチームメートだったんだよ?』
西口(シカトだ。俺は勾城のことが嫌いだ。)
小宮『勾城クン…。君のやっていることは黒シャーのみんなを裏切っていることと同じだよ…。なんで君が…。堂金のいる享神に…。』
野海『勾城のやつ…。さっそく喧嘩売ろうとしてやがる。』
余語『別にいい。相手がカッカしてくれた方が単純になりやすい。勝ちやすくなる。』
北峰『勾城とあの西口ってやつ、中学の頃同じチームだったんだろ?』
余語『らしいな。あと背番号12の小宮ってやつもだ。そんで背番号1の今ファースト守ってる大場も勾城の先輩にあたるらしい。』
桜沢『ライトの鬼頭ってやつ、俺昔チームメートだったんだぜ。』
余語『南阪の頃のはなしか?』
桜沢『ああ。南阪幼稚園、南阪小、南阪中と一緒だった。』
余語『鬼頭って…まさか南阪のエースだったやつか!?いや、違うよな…』
桜沢『そうだ。邦南のライトのやつは鬼頭博行。南阪の背番号1。』
余語『おいおい冗談言うなよ。その鬼頭ってやつは野球やってないんじゃ』
桜沢『嘘じゃねえ。俺も知ったときは驚いたよ。アイツがまた野球やってるなんてよ。しかもアイツほどの男が邦南でだぞ。』
北峰『鬼頭ってあの…旧S・7の鬼頭か!?』
桜沢『だからそうだって。何度も言わせんな。』
余語『鬼頭の右肘の故障は完治したのか?』
桜沢『なんでお前らそんなヒロのことに詳しいんだ?』
北峰『馬鹿野郎。S・7ぐらい知ってるわ!世間でもS・6は有名だろ。』
桜沢『いやヒロはS・6には入ってないはずだぞ?』
北峰『そんなん知ってるって。問題は登板してくるかだよな…。』
桜沢『それはねえって。ヒロの右肘が完治してたら先発でアタマからいってるはずだ。しかもこの前の試合、俺見ちゃったんだよね。ヒロが中継の距離もまともに返球できないところ。』
北峰『マジか。狙う?ライト。』
桜沢『やめておけ。ヒロを怒らすと非常に厄介だ。わざわざライト狙わなくともこのピッチャーなら叩き潰せる。』
大場(勾城…久し振りだな…。)