死闘狂いの冒険者、ダンジョンボスと化す
「ああ、弱い。弱いなあ」
冒険者パーティー『竜の牙』。
俺はその一員として、今まさにダンジョン最深層のボスを打ち倒したところだった。
だが――。
「弱い、弱すぎる。これでは何も滾らぬではないか」
熱い戦い。ギリギリの戦い。
そのような戦いでこそ、俺という人間は輝く。
だというのに、今回の戦いときたら……致命傷どころか、まともな傷すら負うことなく終わってしまった。
これでは興醒めもいいところだ。
「やったな、リュイン」
パーティーのリーダーであるレイクが話しかけてくる。
リュインというのは俺の名だ。
「ふん、つまらん相手だった」
「ははっ、いつも通りだな。少しは達成感に浸れよ」
「そうよ、そうよ! 私たち、ついに前人未到のダンジョンを完全攻略したのよ?」
「ええ。これこそ私たちの信仰の賜物。女神様の恩寵によるものに違いありません」
はしゃぐ女魔術師のレイファと、女僧侶のセイラ。
俺はそんな二人を冷ややかな目で見つめた。
(なんと軟弱なことか)
この程度の相手を倒して、達成感に浸れだと?
前人未到のダンジョンを突破。
ダンジョン最奥の強敵を撃破。
ああ、なるほど。確かに甘美な響きであろうよ。
しかし、俺たちの現状はどうだ?
誰も目立った怪我をしていない。
多少の傷こそあれど、全員が十分な余力を残している。
戦闘においても、俺以外の連中は安全マージンを十分に取り、ちまちまと攻略していくという地味極まりない戦い方だった。
そんな冒険も何もないつまらん戦いを終えて、一体どんな達成感に浸れというのか。
「ふん、まあいい。戦利品の分配は好きにしろ。俺は先に帰還する。帰りは好きにするがいい。いつも通り、道中の魔物は適度に間引いてやる」
馴れ合うつもりはない。
冒険者は団体行動が基本。
だからこそ、こいつらと行動を共にしている。それだけのことだ。
ダンジョン攻略中は付き合ってやるが、帰りくらいは好きにさせてもらおう。
そうして、俺はいつも通り一人で帰ろうと足を踏み出した。
「まあ、待てよ」
背後からレイクの声が飛んでくる。
同時に、奴から殺気が膨れ上がった。
「なっ!?」
慌ててその場から飛び退こうとする。
しかし――。
「――フレイムバインド!」
「――ファラーズチェイン!」
「ぐっ!?」
レイファとセイラの捕縛魔術が、俺の動きを封じた。
そして。
「――がっ!!」
背後から、レイクが自慢の刀を突き刺してきた。
刃は俺の身体を貫通し、胸からその切っ先が突き出している。
狙いは心臓。間違いなく、致命の一撃だった。
「レイク……ごほっ……貴様……」
「悪いな、リュイン。だが、お前は邪魔なんだよ」
レイクは刀を突き刺したまま、俺を見下ろして言った。
「いつもいつも自分勝手で、なのに誰よりも強い。お前は知らないだろうが、みんな言ってたよ。リーダーにふさわしいのはお前……リュインじゃないかって。それを聞くたびに、俺は怒りで狂いそうだった」
ぐりぐりと、刀がねじ込まれる。
「今回のボス討伐もそうだ。お前がいなければ、きっと俺たちは勝てなかった。でも、俺は夢を果たした。ダンジョンを踏破できたんだからな。そこは感謝してる。
だが、俺はこれで十分でも、お前はまだ満足しないんだろう? これからも無謀な挑戦を続けるんだろう? そうして新たな偉業を引っ提げて、俺たちが成し遂げた今回の偉業を霞ませるんだ」
レイクの声に怒りがこもる。
「そんなの、呑み込めるかよ!!」
「だから、お前はここで終わっとけ。大丈夫だ。リュインはダンジョンボス戦で、なくてはならない存在だった。その命と引き換えに、俺たちに勝利の機会を与えてくれたって広めてやるからよ。
まあ、実際はほぼお前一人で倒したようなもんなんだけどな。でも、お前はここで終わりだし、俺たちが協力して倒したのも事実だ。少しくらい盛ってもいいよな?」
「あはっ♪ レイクってば優しー。でも、そこまでする必要なくない? こいつ、一人で何でもかんでもできますって感じで、うざかったし」
「ですね……。女神様のことを鼻で笑うその態度、度し難いと常々思っていました」
「貴様ら……ごほっ……ごばっ――」
口から血が溢れ、俺はその場に倒れ伏した。
「とはいえ、リュインが終始役立たずだったっていうのは、少し無理があるからなぁ」
「アレじゃない? 今までのリュインの活躍が全部嘘っぱちでしたーって言っちゃうのがいいんじゃない?」
「うーん。さすがに怪しまれると思うんだよなぁ。そこらへん、うまく誤魔化せれば確かにアリだと思うけど……」
倒れた俺をよそに、三人は話し続けている。
すでに三人にとって、俺は過去の存在らしい。
(ふっ……くく……死闘を求め続け、最後は仲間からの凶刃で倒れるか……)
これが俺の最後か。
俺のような男には、ふさわしい死なのかもしれんな……。
「そんなわけが……あるものか!!」
認めん。
このような終わりなど。
断じて認めん!!!!!
血反吐を吐きながら、俺は心臓に刺さったままの刀を無造作に引き抜き、立ち上がった。
「「「なっ!?」」」
三人が揃って驚愕の声を上げる。
「ば、化け物か、お前!? 心臓は確実に貫いたはず。それなのに、どうして死なねえんだよ!!」
レイクが声を荒らげる。
実にもっともな疑問だろう。
ゆえに、俺も当たり前のことを返してやる。
「心臓を貫いた程度で、俺が死ぬと思うのか?」
「ちぃっ!! 真正のバケモンがあっ!!」
レイクが刀を振るってくる。
だが――。
「――遅い。あくびが出るわ」
俺は手刀を振るい、刀を叩き切った。
ついでに、レイクの首も叩き切る。
「――は?」
何が起きたのか理解できない。
そんな顔をしたレイクは、そのまま息絶えた。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! レイク、レイクゥゥゥゥゥゥ!!」
レイファが、レイクの首にすがりついて泣き叫ぶ。
そういえば、二人は恋仲だったか。
俺は泣きわめくレイファに、ゆっくりと近づいていく。
愛する男の仇を討つべく、レイファは――。
「――ひっ」
奮起などしなかった。
「残念だ」
少し、期待したのだがな。
俺はそのまま、レイファの首も刈り取った。
残るはセイラだが――。
「なぜ……ですか?」
「なぜ?」
何のことだ?
「なぜ、このようなことをするのですか!? 私たちは仲間のはず。それなのに、こんな……。このようなこと、女神様が許しませんよ!?」
「貴様は頭がおかしいのか?」
つい先ほど、俺を罠に嵌めておいてよく言う。
それに――。
「先ほど貴様が言ったように、俺は女神など信じん。ゆえに、許されようが許されまいが知ったことではない。天罰を下すというなら、好きにすればいい。俺はそれすら乗り越えてみせよう」
「この……背教者めえええええええええええええ!!」
杖を片手に、鬼の形相で襲いかかってくるセイラ。
とても聖職者には見えんな。
「まあ、落ち着け」
「あぐっ!!」
俺はセイラの後頭部を掴み、地面に押しつけた。
セイラが泥の味を味わっている間に、俺は口を開く。
「貴様、確か聖女と呼ばれていたな」
「なら、何だと言うのです!?」
「なに、俺も少しやりすぎてしまったと思ってな。ゆえに、貴様に頼みがあるのだ」
「お断りします!!!」
「ほう? その心意気だけは買っておこうか。だが、頼みの内容を聞けば気が変わると思うぞ? 俺の頼みは単純なものだ。二人を蘇生させろ」
「は?」
わけが分からないといった顔をするセイラ。
やがて、彼女は震える声で言った。
「蘇生など……できるわけがないでしょう。それは神の御業。人間の手で誰かを蘇らせるなど……」
「そうだな。普通はできん。だが、ここはダンジョンの最深層。魔素に満ちている。加えて、二人は厳密にはまだ死んでいない。もっとも、心臓は止まりつつあるし、脳への血液の循環も滞っているがな」
「では――」
「だが、我ながらうまく斬ったのでな。首はほれ、こうすればくっつく」
俺は斬り落とした二人の首を、それぞれの胴体にくっつけた。
斬ったばかりの首は、まるで何事もなかったかのように胴体と一体化する。
組織を傷つけずに斬ったから、だろうか?
詳しい原理はわからんが、なんとなくうまくいくような気がした。
結果、うまくいったようでなによりだ。
もっとも、これはくっついただけで蘇生とは呼べんがな。
「わ、訳が分かりません。自分で首を刈り取っておいて、それを私に癒せなんて――あぐっ!」
セイラが抗議の声を上げたので、俺はその背中を踏みつけた。
「貴様にこんこんと説明する義務が俺にあるのか? 別に期待はしていない。蘇れば面白いというだけの話だ。ゆえに、蘇ろうが蘇らなかろうが構わん。
ああ、心配するな。どちらに転んでも、貴様には生きて帰ってもらうのでな」
「――っ」
セイラは悔しげに息を呑むと、回復魔術を発動させた。
すると――。
「こ、ここは……。お、俺は――」
「あったま重い……。わ、私は……?」
二人が目を覚ました。
レイクとレイファが、蘇ったのだ。
ほおう。面白い。
あの状態から回復できるとはな。
ある種、蘇生魔術の初成功例と言えるのではないか?
無論、厳密には蘇生ではないと分かってはいるがな。
「れ、レイク!! 生きてるの!?」
「そ、そうだ。俺は死んだはずで……あぁ、レイファ!」
「レイク!!」
抱きしめ合う二人。
素晴らしい愛情劇だが……そんなものはどうでもいい。
「それで? 茶番は終わったか?」
「リュイン!?」
「ひっ!?」
レイクは俺に殺気を向け、レイファは怯えた声を漏らす。
「まだ殺気を飛ばせるとはな。結構、結構。だが、生憎だが、お前らの相手をする気はもう失せた。とっとと失せるがいい。
そして、地上の奴らに伝えろ。今日より俺が、ここのダンジョンボスだとな」
「「「は?」」」
三人は何を言っているのか分からないといった様子で、呆けている。
そんな三人に、俺は続けて言ってやった。
「このダンジョンを攻略し、解放することが冒険者たちの悲願なのだろう? ボスを倒し、魔石を砕けばダンジョンは解放されるのだったな」
俺は、倒したボスから得た魔石を見せてやった。
「なっ!?」
「嘘でしょ!?」
「まさか――」
「そうだ。ここのダンジョンボスの魔石は、俺が取り込んだ。もっとも、偶然の産物だがな」
ボスの魔石。
それは、抉られた俺の心臓を補うように、俺の身体と一体化し始めていた。
「面白いな、これは。ククク。俺ではない誰かが、内で騒いでおるわ。人間を滅ぼせ、殺せ、奪え、とな」
ダンジョンボスの魔石。
何の因果か知らないが、どうやら人間への恨みを誘発させるものらしい。
「クハハハハハハハハハハ! いい、いいぞ! 自我を塗りつぶされそうなこの恐怖! だが、させん。させんぞ? 俺は負けん!
人類のために負けられないというわけか、だと? いやいや、違うとも。そんなつまらん話ではない」
魔石から聞こえてくる声が、次第に弱々しくなっていく。
そうか、分からんのか。
ならば、はっきりと言ってやろう。
「俺は窮地をこそ求めているのだ! これから多くの者が、俺を討滅せんと挑んでくるだろう。負けられない、誰かのために、大切な人のために負けられないのだとな。
素晴らしいではないか! 俺はそんな輝きを間近で見たいのだよ!!」
だからこそ――。
「ゆえに、貴様には負けんぞ? 俺の自我を食えるものなら食ってみるがいい。くふふふふっ、ははははははははは!」
「こ、こいつ……普通じゃねえ……」
「とんだイカレ野郎じゃない……」
「ここは撤退して、ギルドに報告するべきですっ!」
そうして、かつて仲間だった三人は退却していった。
俺のことを、魔石に操られた存在だとか何とか報告してくれることだろう。
「ああ、楽しみだ。お前との勝負も存分に楽しもうではないか。なあ、魔石? ……ううむ。魔石というのは少し味気ないが……まあいい。
俺の自我を奪えるものなら奪ってみせるがいい。貴様の支配を乗り越えた先にこそ、俺もきっと強くなれるであろうからなぁ。
くふふふふ。はーっはっはっはっはっはっはっは!」
こうして俺は、魔石との自我の奪い合いを楽しみながら、自身を討伐しに来る冒険者たちとの死闘を楽しむ日々へと身を投じた。




