小さなお節介の魔法
その日、いつものコンビニではいつもと違う光景が見れた。
真新しい制服に慌ただしい動き、何かをするにも不安げに辺りを見回す目。
どうやら新人らしい。
そう言えば自分も初めてのバイトの時はこんな風だったな……なんて、仮名はふと思い出していた。
高校生の頃、初めて働くことになった時。
仮名のことをよく知る彼氏は非常に心配そうな声で問うてきた。
『大丈夫?』
別段、能力が劣っているわけではない。
むしろ仮名は自分の成績には自信があった。
勉強も運動もそれなりに出来ていたから。
だから、バイトだって全然問題ないと思っていた。
少なくとも数週間前に始めて未だに大変そうな彼氏よりは――。
「それが中々もそうも行かないんだよね」
ぽつりと呟く。
レジに並んだが新人の店員は中々それを捌けていない。
列が多くなり苛立つ人も多くなり始めている。
まさに自分がバイトをしていた頃の光景そのものだ。
仮名はため息をついて列を離れてさして興味もない新商品の棚を眺める。
言うまでもなくこんなもの買うつもりはない。
不必要なものを買うほど仮名の懐は温かくないのだ。
横目で慌てる新人を見つめる。
先輩の方もあまりフォローに回れていない。
人が多すぎるのだろう。
完全に捌けるまで五分以上は必要だった。
列がすっかりなくなったのを確認して仮名は新人が立っているレジへ向かう。
この人を認識してからまだ十分も経っていないけれど、それでも元気がなくなっているのは明らかだ。
仮名が買った商品は数点だったがバーコードを通す手は意識してしまう程度には緩慢だった。
「ごめんなさい。袋ももらえますか?」
「あっ! すみません」
仮名の言葉を聞いて新人はわたわたとする。
袋を取ろうとしてまた少しだけ時間が経つ。
いや、時間が経つというほどのものではないけれど、少なくとも新人からしたら恐ろしいであろう時間が流れている。
それを理解したが故に仮名は魔法をかける。
そう。
仮名は現代でも珍しい魔法使いなのだ。
とはいえ、実のところ魔法なんて誰でもかけられるのだけれど。
――例えばこんな感じに。
「ご丁寧にありがとうございます」
心労から来る疲れをほんの少しだけ吹き飛ばす魔法。
行使してもまさか魔法を使われているなんて決して気づかれないほど些細な、言葉という魔法。
しかし、それでも見事に作用する。
「ありがとうございます」
新人の表情が少しだけ和らぐ。
それだけで十分だ。
仮名はペコリと頭を下げてコンビニを出る。
「どれくらい続くかな。あの新人」
ぽつりと呟く。
現代を生きる些細な魔法使いの小さなお節介に気づく者は今日もどこにもいない。
お読みいただきありがとうございました。
先日、最寄りのコンビニで慌てる新人店員さんを見て思いつきました。
せっかくなので以前に書きました『言の葉の魔法使い』の後日談的な形にしました。
どうでもいいですが、頼んでいたファミチキは入っていませんでした。




