ラケットクラッシャーと迷子の剛速球
ミン・クアン高校の五月の太陽は、コンクリートのグラウンドで卵が焼けそうなほど猛烈に暑い。セミの鳴き声は、居眠りしようとする歴史の授業中の生徒たちの鼓膜を突き破るかのようだ。
だが、体育館の隅から、平和な空間を引き裂くような悲鳴が響き渡った。
「イヤアアア!先生!最後のチャンスをください!」
叫んでいるのはチャン・フォン――身長175cm、鳥の巣のような髪をした男子生徒だ。彼は体育教師兼バドミントン部顧問の先生の足にしがみついている。
先生はため息をつき、眼鏡を押し上げ、もう一方の手でこめかみを揉んだ。
「フォン、今月で12本目だぞ。うちの学校は金鉱じゃないんだ。私も大金持ちじゃない。君はバドミントン部から永久追放だ!」
「でも、あれは僕の魂のこもったスマッシュ(叩きつけ)だったんです!風の精霊が宿っていたんです!」フォンは涙目で反論した。
「破壊の精霊が宿っているんだろう!あっちへ行け!」
5分後、チャン・フォンは体育館から放り出され、手には折れたラケットの柄を持っていた――彼の短くも暴力的なバドミントンキャリアの最後の遺品だ。
フォンは学校の敷地内を、まるでさまよう幽霊のようにうろついた。17歳、ADHD(注意欠陥・多動性障害)のような有り余るエネルギーを持ち、リンゴを握り潰せるほどの右手の力を持つ彼にとって、スポーツができないのは苦痛以外の何物でもない。
「つまんないな…まさか文芸部に入るのか?それとも編み物部か?」フォンはぶつぶつ言いながら、小石を蹴り、ブッシュの中に飛ばした。バシッ! 小石が何か硬いものに当たる鋭い音がした。
「痛っ!」茂みの中から叫び声が上がった。
フォンは飛び上がった。もじゃもじゃの黒髪と分厚い眼鏡をかけた頭がのぞいた。それはホアン・ナム、11年生A1組の生徒で、「本の虫」として知られ、学年で最も気難しい男だ。ナムの手には、『高度な野球戦略:マネーボールから甲子園まで』と書かれた分厚い本が握られていた。
「君の目は飾りか?」ナムは目を細め、額を揉んだ。
「す、すみません!失恋…じゃなくて、スポーツ失業中なんです」フォンはへらへらと頭をかいた。彼はナムの手元の本をちらりと見た。「野球?アメリカ人たちが投げて捕ってするあの遊びか?ベトナムでやる奴なんていないだろ。」
ナムは眼鏡をかけ直し、鋭い眼差しにわずかな軽蔑の光を宿した。「それは知性と力が必要なスポーツだ、このゴリラめ。まあ、君に言っても馬の耳に念仏か。」
ナムは立ち上がり、ズボンのほこりを払って立ち去ろうとした。だが、ちょうどその瞬間、空気を切り裂く音がした。
ヒュッ!
白くて硬い、赤い縫い目のあるボールが学校の裏庭から逸れて飛んできた。それはかなりの速度で、ナムの頭に真っ直ぐ向かっていた。
「危ない!」フォンは叫んだ。
彼の体は自動的に反応した。それはトップレベルのバドミントン選手の反射神経だ。避ける代わりに、フォンは飛び出し、右手を大きく振り上げた。彼の頭の中では、その野球ボールはまさに飛来するシャトルコックだった。
手首を折り曲げる。腰から力を集中させる。肩を回転させる。ヒュン!
フォンの素手は宙を飛ぶボールをキャッチした。しかし、彼はそれを掴まなかった。バドミントン選手の習慣で、彼は腕を一瞬で振り抜いて、弧を描くように即座に投げ返した。
「SMASHHHH!」フォンは習慣で叫んだ。
フォンに触れて1秒も経たないうちに投げ返された野球ボール。それは恐ろしい唸り声を上げて空気を切り裂いた。
キィイイーン!
ボールはグラウンドを突き抜け、高さ5メートルの金網フェンスを超え、古いホウオウボクの木々を飛び越え、そして…向かいの校舎3階にある校長室の窓に真っ直ぐ突っ込んだ。
ガッシャアアン!!!
ガラスが粉々に砕ける音が学校中に響き渡った。死のような沈黙が全てを包んだ。
フォンは口をあんぐり開け、投球の体勢のまま固まった。
ナムは立ち尽くし、眼鏡は鼻の先までずり落ちていた。
「君は…」ナムはどもり、初めて冷静さを失った、「一体何を投げたんだ?」
「い…うっかり手が滑って」フォンは唾を飲み込んだ。「それにしても、あのボール、なんであんなに重いんだ?シャトルコックみたいに軽くない。」
ナムは校長室の窓には目もくれなかった。彼は駆け寄り、フォンの右手を掴み、まるで貴重な骨董品を鑑定するかのようにひっくり返して見つめた。
「柔軟な手首、長い指、瞬間的な爆発力…」ナムは恐ろしいほど目を輝かせながら呟いた。「君は40メートルもの距離から、10メートルの高低差があるにもかかわらず、あのボールをほぼ一直線に投げた…」
「おい、離せ!怖いぞ、四つ目!」フォンは腕を引っ込めた。
「君の名前は?」ナムはたたみかけるように尋ねた。
「チャン…チャン・フォン。11年生B2組。」
「よし。フォン。君には二つの選択肢がある」ナムは二本指を立てた。「一つは、君が校長先生の窓を暗殺したと報告することだ。君は停学になる。」
「二つ目は?」フォンは冷や汗をかいた。
「野球部に入部することだ。今すぐだ。」
ミン・クアン高校の野球部は、運動場の最も目立たない隅にあり、実態は古い物置小屋を改造したものだった。「野球部」と書かれた看板は傾き、「野球部」の「野」の字が消えかけていて、まるで奇妙な料理の名前のように聞こえる。
フォンはナムに引きずられるようにして連れてこられた。埃っぽい部屋の中には、古びた革のグローブがいくつか、傷だらけの木製バット数本、そして泥まみれの野球ボールが山積みになっているだけだ。
「ここが…君たちの本部か?」フォンは鼻をしかめた。「ネズミの巣穴みたいじゃないか。」
「黙ってこれを着けろ」ナムはフォンに茶色い革の古いグローブを投げつけた。
「なんだこれ?オーブンミットか?」フォンはぎこちなく手を入れた。それは硬く、古い汗の匂いがした。
ナムは18メートルほど離れた場所(ピッチャープレートからホームプレートまでの距離に相当する)に行った。彼はしゃがみ込み、自分のグローブをはめ、それを前に突き出した。
「投げろ」ナムは命令した。
「どこに投げるんだ?」
「このグローブだ。全身全霊の力を込めろ。このグローブが、君を追放した体育教師の顔だと想像しろ。」
フォンの目が爛々と輝いた。この提案は魅力的すぎた。
「いいだろう!手が折れても文句言うなよ、四つ目!」
フォンは土のプレートの上に立った。彼は一度もちゃんと野球の投球をしたことがない。彼が知っているのはバドミントンの技術だけだ。体を伸ばし、腰をひねり、そして手首を振り抜く。
フォンは不器用に左足を高く上げ(投球というよりバレエの踊りのようだ)、地面を踏みしめた。彼の右腕は鞭のようにしなった。
ヒュッ!
ボールはフォンの手から離れた。
だが、それはナムのグローブには入らなかった。
それはフォンの足元から2メートル手前に叩きつけられ、強烈に跳ね上がり、ナムの頭上をかすめ、彼の後ろにあるロッカーに激突した。
ドォン!
鉄製のロッカーのドアには大きなへこみができた。埃が舞い上がった。
ナムはボールが頭上を数センチかすめたにもかかわらず、微動だにせず、瞬きもしなかった。彼はロッカーのへこみを見てから、フォンを振り返った。
フォンは引きつった笑顔を浮かべた。「へへ…ちょっと外れた。僕がシャトルコックを地面に叩きつけるのに慣れてるって言ったろ。」
ナムは立ち上がり、ズボンのほこりを払った。彼の心臓は激しく鼓動していた。怖さからではなく、興奮からだ。
コントロール(制球):マイナス無限大。
スピード(球速):最低でも時速140km/h。
回転:驚異的。
それは磨かれていない原石だ。いや、泥と牛糞にまみれたダイヤモンドの鉱石だ。だがナムは知っていた。自分ならそれを磨き上げられると。
「フォン」ナムは眼鏡をかけ直し、その下に隠された悪だくみのような笑みを浮かべた。「合格だ。」
「え?でも外れたぞ?」
「関係ない。今日から君はミン・クアン野球部のエース(主戦投手)だ。」
「エースって響きはかっこいいな!昼飯はタダになるのか?」
「ならない。だが、校長室の窓ガラスの修理代は免除してやる。私が手配する。」
フォンは歓声を上げた。「アニキ!ひれ伏して拝みます!」
ちょうどその時、物置のドアがギシッと開いた。夕日の光を遮る大きな人影が入ってきた。それは太った男子生徒で、手に持った肉まんをかじっている途中だった。
「おっ、ナム?今日は新しい人をスカウトしたのか?地元の神様に食べ物を供えるのか?」
ナムはため息をついた。「こいつはラムだ。ファースト(一塁手)を守っている。こいつがここにいる唯一の理由は、野球のグローブが肉まんに見えるからだ。」
フォンはラムを見て、ナムを見て、そしてこのぼろぼろの物置を見た。
バドミントンを投げるピッチャー。
腹黒い頭脳派のキャッチャー。
食べることしか知らないデブ。
「これが…野球部なのか?」フォンは尋ねた。
「まだだ」ナムはニヤリと笑い、フォンにボールを投げ返した。「これは伝説の始まりだ。あるいは笑い話のな。それは、『ラケットクラッシャーの王様』、君の腕次第だ。」
フォンはボールをキャッチした。手のひらに感じる赤い縫い目のざらざらした感触は奇妙だったが、同時に刺激的でもあった。彼はボールを強く握りしめた。
「いいだろう」フォンは歯を見せて笑った。まさに少年漫画の主人公のような明るい笑顔だ。「甲子園に行くぞ!って、あれ?ベトナムだとどこを目指すんだ?」
「とりあえず、デザートを食べに行く」ラムが口を挟んだ。
そして、この暑い夏の太陽の下、「ガンコーズ」(頑固な奴ら)が正式に結成された。目標は漠然としているが、気合だけは満点だ。前途は長く、そして窓ガラスが割れる回数は、さらに増えることだろう。




