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第1話 予感

 ちょっと待て、自分。一旦落ち着け。まず、こいつは何者か。そして、ここは何処なのか。それがわからなければ、できることもできん。

 ・・・にしても、こいつ、相当慣れてるな。見た目だけとはいえ、私は7歳かそこらなのに。

 思考を始めたその時、目の前の男が口を開いた。

「お嬢ちゃん、どこから入ってきやがった?」

まあ、聞かれるだろうなとは思っていた。しかし、その質問には答えられない。この状態の私が視える程であれば、あのルールさえも知っている可能性がある。そのようなことまで考えなければならない相手は久しぶりだった。

 何も答えない私を見て、男はまた喋りだす。

「お嬢ちゃん、それさえ言ってくれれば、家まで送り届けてやるから」

・・・はあ?何言ってる?お前、ヤクザだろ?部屋の隅のお香だって、血の匂いを消すために焚いてるんだろ?そもそもお前、シマを知った子供を普通に帰していいのかよぉ・・・。

私が呆れ果てて何も言わないのを、こいつは自分を怖がっていると勘違いしたらしい。変顔を始めている。

 この混沌とした状況をどうするか、ということに考えをシフトしたその時、襖を叩く音が聞こえた。

「若、入りますよ」

これまた聞き覚えのない声に、男はひどく慌てた。

「ちょっ…と待て、李。おい、話を聞けって!おい!」

そんな状況を静観しながら、私は再び考え込む。「若」ということは、こいつ、若頭なのか。そして、若頭の命令(?)に背ける、李という男は何者なのか。考えても考えても、新たな疑問が浮かんでくる。

 私が考えている間、男は開かれようとする扉を必死で押さえていたが、男と李の強すぎる腕力により、襖自体が粉々に破壊された。襖だったものの破片がパラパラと舞い落ちる中、李と呼ばれた男の顔が見えた。見覚えがあるような、無いような。

「全く、若・・・。これで自室の襖を壊すの、何回目ですか?いい加減注意してくださいよ」

「口答えするようになって…」

李の顔と声を同時に見たことで、私は今の居場所を理解した。そして、『若』の本名も。

 男は唐突に、こちらを振り返った。どうやら私の存在を忘れていて、今思い出したらしい。間抜けが。

「あぁっと・・・。まあ、李ならいいか。この子、なんだが」

「この子?何を言ってるんですか?疲労で幻影でも見え始めましたか?闇医者、呼びます?」

やはり、李には私の姿は視えていないようだ。まあ、何人も視える奴がいても困るがな。

 にしても、精神疾患を疑われるとは。視えるやつは疑われがちではあるが。しかし、少々面白い。

「ほら、この子だよ。7歳ぐらいの、着物着た、黒髪の。ああ、両目と毛先だけ赤いな。最近の子供って、染髪もカラコンもするんだなぁ」

言ってること、ジジくさいな。見た目25〜30歳ぐらいなのに。若く見えるだけで、もっと年上なのだろうか。

「若、ジジくさいです。まだ25なのに・・・。ですが、そうですか。本当にいるのであれば、まるで『座敷童子』みたいですね」

「その通りだよ」

私は初めて口を開く。バレてしまったのであれば、もう正体を隠す必要もないだろう。・・・しかし、私の姿、しっかり視えてんじゃねえか。どうせ視えているんだったら、もっと早く気づけよ。

「・・・え?」

「李の言うとおり。私は、座敷童子だ」

「へぇ、そうだったのか」

・・・さっきから、目の前の男、もとい幽ヶ宮勝虎の思考が全く読めん。正体を明かしたのだから、さぞや驚くだろうと思ったら、逆に納得したような顔をしている。頷いているのは、目の錯覚だと思いたい。いや、頼むからそう思わせてくれ。私がかけた"目隠しの術"が通用しなかっただけでも大事件なのだから。・・・ん?"目隠しの術"が通用しない?だとすれば。

「お前、私の存在に気づいていたのか?」

私はそう問う。私がこの家に来たのは、もう50年以上も前のことだ。勝虎の生まれる20年以上前から、この屋敷に住んでいる。"目隠しの術"が聞かないほどの実力者であれば、私の存在に気づいていた可能性は十分にある。・・・にしても、もうここに来てから50年も経つのか。

「ああ、気づいていたよ。実際に姿を見たことは無かったが、気配っつーか・・・オーラ、かな。他の幽霊や妖怪とは、明らかに違う。異質すぎた。まさか、気配の主がお前みたいな小さい奴とは思わなかったがな」

気配まで感じられるのかよクソ野郎が。何も術をかけていない状態ならともかく、なんで今の状態の私の気配がわかるんだよ。ここ25年、一度も"目隠しの術"は解いてねえんだぞ?お前の見る力も、十分に異常だよ。

 しかし、その異常すぎる力で、一つ分かったことがある。

「二条院家」

私は、ある家の名を口に出す。それは、現存している霊能者一族の中では、最も高い能力を持っている家系。その家系のほとんどの者が、私の"目隠しの術"が通用しないほどの実力者だ。そして、おそらく、こいつの母親は、その一族の者のはず。

「・・・・・・っ・・・。何故、それに気づいた・・・?」

私が正体を伝えた時より、圧倒的に驚いている。さっきから私のプライドなどあってないようなものになっているのに、これ以上傷つけないでほしい。

「お前の母親とは、会ったことがあるんだ。まあ、同じ家の中にいたんだから、当然ではあるが。やはり異質な力を持っていた。だから、出生が気になっていたんだ。そして今、お前の話を聞いて、確信した。こんなにも強い力を何世代にもわたって持っているのは、二条院家ぐらいだからな」

しかし、それを聞いても、新たな疑問が浮かんできたようだ。

「だとしても、何故二条院家の存在を知っているんだ?」

何を聞いてくるかと思ったら、そんな簡単なことか。

「二条院家なんかの有名な霊能者一族は、私たち妖怪や幽霊の間では有名なんだよ。基本的に誰でも知ってる」

「へぇー、そうなんだ。初めて知ったわ」

はぁ・・・。こいつが無知すぎて、会話に疲れてきたわ。本当に二条院家の一族か?いや、単にこいつの母親が、こいつを妖怪や幽霊に関わらせたく無かっただけか。

 そんなことを考えていると、あることを思い出した。

「おい、お前」

「何だよ」

そろそろ限界だったのだ。恥を忍んで頼もう。

「飯をくれ」

「・・・はぁ?」

「飯をくれ。もう10年以上何も食っていないんだ。そうだなぁ・・・久しぶりに寿司が食いたいかな。あとは・・・プリンか。だいぶ最近になってからできた菓子だからな。新鮮なんだ」

勝虎の顔を見ると、なんとも気の抜けた顔をしている。呆けてしまっているようだ。

「はぁ・・・。緊張して損したわ・・・。急に重い雰囲気で喋り出すから、何かと思ったら・・・・・・」

そんな重い雰囲気で喋ってたか?さっきまでの戦闘体制入りかけがまだ抜けてないのかもしれないな。

「で、飯は食わせてくれるのか?」

「いいよ・・・。寿司とプリンでいいんだろ?李、買ってきてくれ」

「若。少々言いづらいのですが・・・さっきからずっと独り言喋ってますけど、本当に大丈夫ですか?」

「「あ」」

そういえば、まだ"目隠しの術"解いていなかったな。と、言うことは。李の目にはずっとこいつが一人でぶつぶつ喋っているように映っていた、ってことか。

「・・・すまん。術解き忘れてた」

そして、李の方に体を向け、術を解く。

「え?なんか急に女の子が現れたような気がするんですけど。私も疲れてるのかもしれないですね。明日は二人で休ませてもらいますか」

「いや、幻覚じゃないから」

幻覚だと思われるのは心外だ。そして、予想通りではあったが、やはり"目隠しの術"を解くと、一般人にも視えてしまうようだな。妖力が多すぎるのも考えものだ。

「そんなことは置いておいて、早く飯を食わせてくれ。本当に腹が減ってるんだ」

「あー、わかったわかった。李、買ってこい」

「了解です」

李は寿司を買いに部屋を出て行った。その後ろ姿を見送りながら、私は、虎に話しかける。

「じゃあ、あと半年間、頑張れよ。そこで怠惰になったら、この家は没落するから」

「はあっ!?・・・いや、そうか。お前、座敷童なんだもんな。うん?だとしたら、あと半年間ってのはどう言うことだ?おい、答えろ!」

あー、うるさいな。せっかく久しぶりに飯が食えるから、テンションが上がってんのに。肩を揺さぶんなよ。

「そう言う話は明日ゆっくりしよう。とりあえず、飯」

「ほんっとに飯バカだなぁ・・・。じゃあ、明日は詳しい話をしろよ。約束だぞ」

そんな他愛もない話をしながら、私は、この半年間が波乱に満ちた、しかし楽しいものになる予感があった。

豆知識

李さんの漢字の読み方はリーだよ!

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