表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四季  作者: 舞原 蒼
2/2

2

 桜。地面一面に広がる桜色の絨毯に、空を見上げればこちらにも満開の桜。そんな中でこの公園にいるのは私と貴方の二人だけ。満開の夜桜を独占するなんて、私たちはとっても贅沢なことをしている。きっと私が一人で見ても意味が無い。

 風が吹くたびに、ハート型の桜の花びらがくる、くる、くると、私たちの間を落ちていき地面を埋める。そんな中、貴方はまるで桜ではなく私に見蕩れているようで、つい笑ってしまう。

 それを誤魔化そうと、私は空を指差した。スピカ。私の星座、おとめ座の一等星だ。上にあるのがうしかい座のアークトゥルス、右に行くと二等星、しし座のデネボラ、なんて。彼だってきっと知っているだろうに、彼は私の言葉を繰り返す。そのまま少しの間、私たちは無言で空を見つめていた。

 星の進みと同じように、季節は共に進み往く。



 祭。私たちの街の夏祭り。幟はまるで街中のみんなの気持ちを体現するかのように留まることなくはためき続けている。いつもなら二人だけの公園も今日だけはたくさんの人が通り抜ける。そんな様子に私は少しだけ独占欲が働いてしまう。いつもは私たちの公園なんだぞって、そんなわけないのに。なんだか彼の持つ林檎飴にも嫉妬してしまいそうだ。いつもの私と違う。夏の暑さに当てられたのか、あるいは隣にいる彼のせいか、頭がうまく働かない。

 どん、と全身に響くような轟音。見てみれば、空には大きな花が咲いていた。暑さは祭りの熱気に紛れて少しずつどうでも良くなってくる。きっと花火にかき消されるからと、私は貴方に無責任に愛の言葉を呟く。

 やはり彼には聞こえなかったようで、貴方は何度も聞き返してくる。でも繰り返したらきっと意味がなくなってしまうから、私は微笑んで誤魔化した。絶え間なく響く花火の音の中、私の名前が聞こえた。残念。私はちょっと耳がいい。声の主が持つその艶やかな赤をふっと奪って口に運ぶ。緑色の気持ちと赤い果実が交わって、甘くて、酸っぱくて、それでいて少し苦くて、なんだか不思議な味だった。赤に緑に、色とりどりの花火はまだもう少し続きそうだ。

 八月三十一日。夏休みも終わり、明日からはまた日常が帰ってくる。花火に負けず劣らず見事に光る星々に、ふと七夕を思い出した。一年に一回出会える二人は、今日は川越しに見つめあっている。

 恋する星の物語とともに、季節は共に進み往く。



 少しだけ約束に遅れた。私が彼よりも遅れて公園に行くことはなかったからもしかしたら心配しているかもしれないと不安になる。

 でも多分彼にとってそんなのは杞憂で、そんなことよりも私は自分の身に気をつけるべきだった。公園の目の前で彼を見つけて、思わず飛び出す。その瞬間、何かが私を引き止めた。引く? いや、違う。()()()()でも、轢く方だ。

 自分が車にぶつかったんだと気がついた時には、既に私の身体はいうことを聞かなかった。赤く色づいた桜の葉っぱと、駆け寄る貴方の姿が目の端に見えたような、見えないような。いつか貴方が恥ずかしがった私の名前を呼ぶ声が聞こえる。そんなに呼ばなくても私はここにいるよ、って言ってあげたくても、そう言って頭を撫でてあげたくても、身体は無常にも動かない。泣くことも、叫ぶことも叶わずないまま、私はただ、彼の声だけを聞いていた。


 それからの貴方は、自分を責めていた。責め続けていた。誰も彼もが許しているのに、たった一人、彼自身だけは彼を責め続けていた。「貴方は悪くない。貴方のせいじゃない」って何度言っても、私の声が貴方に聞こえるわけもない。貴方はいくら救われても堕ちることを望み、いくら癒されても傷つこうとしていた。見つけた茨にことごとく触れにいく貴方は、見かけるたびにどんどん傷ついているように見えた。

 だけど、それでも季節は、いつでも貴方と進み往く。



 冬の公園、それも夜となると、その儚さ、綺麗さは類を見ない。冬の突き刺すような寒さを一身に受け止め、それでも子供達の遊び場である公園は、この季節だけのものだ。私といた時には絶対に見せなかったような冷たい目。もしかしたらそれが貴方の本当の姿だったのかな、と感じてしまう。彼の睨んだ雲の向こうでは、貴方の見えないところでいくつもの一等星が光り続けている。

 私はなんて単純なんだろう。どうしようもなく貴方が愛おしい。もうどうしたって叶うことはない。むしろ、私はこれから貴方にとって邪魔に成り続けることだろう。それでも私は貴方に呪いをかけている。貴方のことを縛り続けている。

 そんな簡単に騙されて「ばーか」って。届くはずもないのに声が出た。聞こえているはずないのに、返ってくるはずがないのに彼の声で「お前もな」って、聞こえた気がした。慌てて振り返ると彼はいつの間にかもう公園の外にいた。そこでようやく私は気がついた。

 違ったんだ。ずっと間違えていた。私に縛られていたのは貴方じゃない。私自身だった。ああ、私はずっとこの公園に————

 貴方はかくも簡単に私の呪いを解いて見せたのだ。

 私一人を留め置いて、季節は進み、流れ往く。

後書きというかなんというか。

普段はもっと全方向ハッピーエンドです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 2人の視点でそれぞれ語られるお話を興味深く読ませていただきました。
2024/04/07 08:15 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ