第2話
思っていたより期間が空いてしまいました……
いやでも仕方ないと思うんです。ゲーム、漫画、アニメが誘惑してくるんですもの。というわけで、どうぞ
親友との思わぬ再会を果たした十六夜 暁斗と稲恒 尊。
足場の悪い険しい道を、歩き続ける。
「少し休むか? 俺はともかく、おまえはあれだろ?」
「確かに疲れたけど、休むまでもないぞ」
「マジかよ。初めてここ来た時、すんげークタクタになったのに」
下り坂になっているため、なおさら疲れる道のりだ。まだまだ余裕はあるが、無理をしない程度に歩いた方がいいかもしれない。
「なぁ尊。ここはファンタジー系の異世界なんだろ?」
「おう」
「てことはギルドや運命的な出会いがあるのか!?」
「残念だが、そんな都合よくいかねぇよ。現実みろ」
「くそぅ!」
「ギルドもあるにはあるが、商業ギルドだからな……夢はないな」
「現実ほど恐ろしいもんはないよ」
冒険者ギルドに入って、一攫千金みたいなこともないのか。これから先、資金が必要になってくる。どうやって集めればいいのか、そもそも元の世界に帰れるか、お先真っ暗だ。
元の世界に戻るにしても、しばらくはこちらの世界に居座ることになるだろう。そうなれば、無一文は死活問題だ。どうにかしなければならない。
「しばらくは俺の部屋で暮らせよ。二人でも問題ない広さだし」
「そいつはありがたい。サンキュー」
とはいえ、このままではニートのスネかじりになりかねない。とりあえず、職でも見つけるべきか。
「尊はどうやって金稼いでるんだ?」
「俺は王国騎士団の見習いで稼いでる。んで、国からの育成対象に選ばれてるから宿代は無料なんだ」
「……それ、けっこうすごいんじゃね?」
「俺と同い歳の同期いるし、そうでもないだろ」
「そうなのか……」
分からない。この世界のことが分からない。
あからさまに自分の常識が当てはまらないのは明々白々。
図書館にでも行って勉強したほうがいいのかもしれない。でも勉強はしたくない。こんな異世界まで来て勉強してたまるものか。
「オレも騎士団見習いの対象目指せばいいのか?」
「何言ってんだ? 見習い見習い、対象は対象だぞ?」
「どういうことだ? 見習いの育成対象ってことだろ?」
「違う違う。対象は勇者のことだ」
待て、こいつは今なんと言った? 勇者だと? それはあれか? 勝ち組か? オレは無一文でお先ブラックホール状態なのに、ちやほやされようとしているのか?
「激戦区だからよ、油断するとはぶかれちまうから大変なんだよな」
殴るか? 殴るしかないのか?
「おい待て。なぜ、手の形がグーなんだ? なぜ、ジリジリ近づいてくるんだ?」
「からのチョーキッ!」
「うぉッ!? ちょ、待て待て待てッ!?」
文字通りの目の前スレスレで受け止められてしまった。なんとかゴリ押してみるが、力強くて行こうされ、眼球に届きそうにない。
「お、お、お、餅つけ!?」
「餅ついてどうすんだ!? 落ち着けだろ!?」
「この状況でどうやって落ち着けと!? 腕を下ろせ!?」
しぶしぶその手をどかし、腰を下ろす。騒ぎ過ぎたついでに休憩を挟むことにした。
「そういえば、おまえこっちに来る時、何か異変とかあったか?」
「異変? あぁ、そういえば足元に魔法陣が出る前に、地面に亀裂が入ってたな──いや、地面っていうと語弊があるか……」
「どういう事だ?」
「あの感じ、地割れとかじゃなさそうだった」
「他には? 変なとこにいたとか」
「墓にいた」
「墓? 誰かの墓参りか?」
「おまえだよおまえ。おまえの命日だから墓参りに行ってたんだ。帰ろうとした瞬間、地面割れて、さらに魔法陣が出てきて気が付いたら、草原んとこにいた」
「そういうのって、だいたい目の前に神様とか王様とかいるイメージなんだがな」
唐突に魔法陣が出て、異世界に飛ばされるというのはよくある話だろう。アニメや漫画に限るが。
まだ、尊がいたからよかったものの召喚された場所に誰もいなかったら、最悪、人生乙りました(笑)になってしまうところだった。
「命日っていうのが特別な力を発したとかか?」
「考えられない話じゃねぇが、偶然かもしれねぇからな……もし、そうなら来年の命日に帰れるんじゃねえまか?」
「あっちで誰か魔法陣書いてくれればな……」
「……ドンマイ」
どうやら、元の世界に帰る方法を探すのは骨が折れそうだ。そもそも戻れるのだろうか。
「この話は一旦置いといて、そろそろ出発するか。街まであと少しだ」
「ラストパートっ!」
再び道なりに沿って、街を目指す。
たまに吹かれる風が心地よい。風に押されるように、足を進めると、尊が立ち止まった。
「見えたぞ暁斗。あれが俺の住む街、ゼルヴィア国だ。日本でいう東京みたいなもんだな」
視線を尊の指差す方向へ向ける。そこに見えた景色は、日本では見られないようなレンガ造りの街並み。
雰囲気もヨーロッパ中世にありそうなものだ。
おそらく、この国のシンボルであろう城が見える。きっと、あそこに王様だったり姫様だったりいることだろう。まぁ、自分の身分じゃ会えないだろうけど。
「ザ・異世界って感じだな……! なんか、テンション上がってきた……!」
「盛り上がってるとこ悪いけど、期待するほどじゃねぇと思うぞ」
「そりゃ慣れてるやつからすればそうだろうけど、オレからすれば十分過ぎる」
「あ、そうそう。入る前に手続きする事になるから、そこんとこ頼む」
「手続き? なんの? 」
まさか、あれか? よくある水晶に手をかざして魔力を測る的な。それで、一目置かれる存在になる的な──
「身分証明だ」
違った。現実はそううまくはいかない。
「あとは、おまえはここの住人じゃねぇから滞在許可の申請しないといけない」
「……めんどくせぇな」
「時間はあんまりかからねぇさ」
街の入り口にある受付場に行き、必要な手続きを済ます。
「なるほど、旅をしていたところに盗賊に現れ、なんとか逃げ延びた先で昔の友人と出会ったと。いやー、大変でしたねぇ」
「えぇまぁ……」
友人以外は嘘です。すいません。
ありのままの出来事を話せるわけもなく、即興の作り話で、その場を凌ぐ。
「こちらの水晶に触れてください。一応、聞きますが、何か犯罪を起こしたりはしていませんね?」
「大丈夫なはずですが」
水晶に触れると、淡く輝き、カードのような物をかざすとすぐに消えてしまった。
「アキト・イザヨイ……珍しい名前ですねぇ。では、こちら身分証になります」
「滞在期間は、そうだな──一ヶ月で頼むよ」
「それでは、身分証と合わせて銀貨二枚になります」
この世界の通貨は、金貨や銀貨等が主流らしい。
渡されたカードには様々な文字がかかれている。しかし、読めない。全く読めない。正直、子供の落書きにしか見えない。
「あ、もしかして読めないのか?」
コクッと縦に頷く。
「難しいもんは書いてねぇよ。名前とか年齢とかだから」
身分証をポケットにしまい、尊が「行くぞ」と手招きをする。
「宿はあの城の近くにあるんだ。風呂とトイレは共同だけど、個室が管理されてるし、設備も整ってるいい物件だ」
宿に向かうため、北通りを進むと市場が並んでいた。
その道を抜け、城ある方角へと向かうと尊が足を止めた。
宿と聞いていたが、どちらかと言うと寮と言われた方がしっくりくる。
入ってすぐに階段があり、そこから各部屋へと繋がるようだ。一階は、風呂や食堂などの共同スペースになっているらしい。
「フレイ、帰ってたか」
共同スペースから気配なく現れた、高身長の全身黒で統一された男。前髪で、右目が隠れている。
「おう、ラバック。今帰ってきた」
「そいつは……新しい従魔か……?」
「いや、人だよ? どっからどうみても人だよ?」
「お前は目付きがな……」
「てめぇぶち殺すぞ!?」
つか、待てよ。今、尊のやつフレイって呼ばれてなかったか?
「んだフレイ? 頼れるやつを呼びにいったのに随分と頼れなさそうなやつを連れてきたな」
今度は、階段の縁にヤンキー座りのようにかがみ、こちらを見下ろす男も現れた。
というか、さらっと侮辱された?
「あれ? レブロおまえも非番だったけ?」
「あぁそうだ。んで、そいつ誰だ?」
「こいつは俺の昔からの親友さ。わけあって、しばらく俺の部屋で過ごすことになった」
「アキトだ。よろしく目付き悪い人」
「誰の目付きが悪いだオラァッ!」
空を裂く横蹴り。
直感的か本能的か──オレはとっさに身を引いた。
その蹴りは、アキトの顔があったところで止まっている。もし、身を引いていなかったとすれば──それだけで、ゾッとする。
(少し驚かすつもりだったがこいつ……俺の蹴りを避けようとしただと……!?)
(アキトと名乗る男……変哲のない一般民だと思ったんだがな……何者だ)
「おまえ、よく避けようと動いたな……! 兵士でもなんでもないのに……」
「いやなんか分かんねぇけど、避けないとと思って……」
正直、チビりそうになった。いや、もしかしたらほんの少しだけチビったかもしれない。
この歳でオムツは嫌だ!?
「おまえら仲良くしてくれよ? アキトは一般民、魔法はおろか魔力だって使えないんだからな」
「おれはそのつもりだ。よろしく頼むアキト」
「レブロも頼むよ」
「フン、自分より格下を痛ぶる趣味はねぇよ」
「こいつら良い奴だから、アキトも頼むぜ?」
「オレははなからそのつもりだ」
異世界で友達百人目指せるかな? って、そこまでコミュニケーション高くなかったわ……。
とはいえ、この二人とは良き友になれそうだ。一人は扱いが難しそうだが。
ストックを一切貯めていないため、次はいつになるんだろう……(遠目)




