春雷慈雨
湿原の水辺に咲く真白い花が風に揺れる
抜けるような青空は、
すり鉢状に湿原を囲む頂の向こうまで続き
その向こうには鉾持つ白色の王がそびえ立っている
それは恵みの先触れだ
水面に浮かぶ精霊達は
白いミズバショウに包み隠れ
畏れと期待に空を見上げる
頂を越えて轟きが響く
それは彼の者の時の声
輝く水辺は瞬く間もなく陰に覆われ
それを待っていたかのように
闇を光が切り裂いた
降り立つ光はその手の槍を地に突き立てて
世界が震えるほどに吼える
精霊達はその御姿を一目見ようと目を凝らすが
咆哮が失せて響きが残るその時には
彼の者は既に地を離れ
次の地に向け天駆ける
代わりに舞うは風の精
花に住まう精霊たちに
同胞の訪れを告げて舞う
未だ残響消えぬ大地に
しゃん、と透き通る鈴の音響けば
それが恵みの時の始まり
錫杖を以て命を遣わす
天女の時の訪れの始まり