サリーちゃんは深夜コンビニで一緒に帰りたい
引っ越し挨拶作戦は見事なまでに玉砕したが、隣人と認識させただけで収穫はアリだ。
とりあえず1週間、奴がどんな生活ライフを送るかを、入念に監視しておかないと。
平日は基本、登校時間10分前に家を出るのか。
帰りは放課後になった直後に直帰。
高校での様子も、話し掛けてくる友人も知人もいない寂しいものだ。
直帰後はずーっと部屋に篭って、深夜にコンビニで30分行くぐらいだな。
それに朝と夜と深夜、1日3回の1人遊びを欠かしてない。
オカズの音も、一人遊びの音も、壁が薄いからダダ漏れだ。
聞く耳立ててる私の身にもなって欲しいわ!
土日もほぼ同じ、正直言って人間にしちゃ低ランクの暮らしっぷりだ。
結果、人目を避けて奴と接触可能なのは、深夜のコンビニに行く時だな。
流石に2人っきりなら、奴も口を聞きざるを得ない!
尊い私とお喋りしたら、貴様なんぞイチコロで虜だ!
♢♢♢♢
「お客様はぁ神様ぁだろうがぁ! クッチャクッチャ……」
おいおいおい……勘弁してくれ。
クソキチガイクレーマーが来るなんて聞いてない、本気で消えてくれ。
新田成幸がこのコンビニに寄り付かなくなるだろうが!
それにな、神様はコンビニなんか来ねぇからな!
立ち読みしてたアイツも、素知らぬ顔で帰りそうだ!
私の貴重な時間を削ってまで、行きもしない深夜のコンビニに来てるんだ!
クレーマー如きに邪魔立てさせん!
「もしもしお兄さん? 喧嘩はダメですよ?」
「あぁん……ハィ。モウシマセン。テンインサン、コノオロカナワタクシメ、ドウカオユルシクダサイ」
悪魔パワーで一時的に催眠を掛けてやった。
あとは物陰で善人に変えてお終いだ。
ふぅ……無意味な時間だったが、アイツはまだ店内に残ってるな。
よしよし……偶然を装った、深夜コンビニ作戦を今度から実行だ。
「あれ? 新田君! 偶然ですね♪」
「……あす」
ふっ……2人っきりで詰め寄れば、あとはこっちのもんよ。
さぁ新田成幸!私の次の言葉で貴様は、私を意識せざるを得ない!
「新田君さえ良かったらですけど、一緒に帰」
「送る……から」
「あ、はい♪ お願いします♪」
クソ……先手を取られた。
だが、奴の方から誘って来たのは、棚ぼただな。
買いたくもない飲み物やら菓子を数点買い、揃いたくない足取りで、同じアパートを歩く。
どうだ新田成幸……高校の小綺麗な制服姿と違って、無防備な私服姿に釘付けだろう?
歩くだけで揺れるTシャツ越しの乳房、ホットパンツから伸びる健康的な美脚、セレブ御用達の最高級シャンプーが香る銀髪、これで虜にならない男はいない!
「……」
コイツ……真っ直ぐ視線を向けすぎだろう、おい。
貴様の方を見て、ニコニコ微笑みかけてるんだぞ?
早くこっち見ろ!おい!新田成幸ぃいいいい!
♢♢♢♢
結局アパート前まで、コイツは一度も私の方を見なかった。
こうなったら、部屋に戻る前に、可愛いおやすみなさいで、今宵の夢で悶々ムラムラさせてやる!
「もう着いちゃいましたね……でも、また明日会え」
バタン
て、てめぇぇええええええ!?
最後ぐらい聞く耳立てろやぁああああ!
おやすみなさい言ってねぇぇえええよぉ!