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サリーちゃんと新田成幸と狭間ミカエ

 マラソン大会での接触然り、文化祭での珍事を報告し、今年一杯尊木の悪魔パワーを封じる事になった。

 そもそも天使と悪魔が同じ環境下に存在するなんて、到底あり得ない話。

 だから尊木と新田の留学は、異質って事になる。


 もし上の連中が意図的に仕組んだのなら、それこそ両世界の関係を根本から揺るがすものになる。


 尊木も新田もお互いの正体を知り得ないこそ、接触や珍事が起き、過度な干渉をしてるのが現状だ。

 もはや奴らの関係性が進展するのも、時間の問題……。


「サリーちゃん? 調子悪いの?」

「え? あ、ううん! 今日が楽しみでちょっと寝不足なだけ!」

「無邪気でかわええかよ!」

「チョコでエネ補給~どぞどぞ~」


 いかんいかん……花達の前で、似つかわしくない顔を作っちゃダメだ。

 小鞠のくれたチョコでリフレッシュでもして、切り替えなければ。


 はむはむ……美味いな……。


 ……今回の紅葉狩りに限っては、新田を含めた男子達は先行してるから、尊木と物理的に距離が離れてるから平気だろう。


 チョコパワーのお陰で、気持ちの切り替えが簡単にできたな。はむはむ……。


 チョコの余韻に浸る中、他クラスの女子生徒が血相変え、必死に何かを伝えていた。


「さ、サリー様がお猿さんにリュックを取られ、お一人で森の奥に!」


 なに……悪魔パワーを封じられてるのは自覚してる筈だろ?

 いい加減、愚行に走るのを止めて欲しいもんだ。 


 だが、アイツの事だ。

 下手な事をしない限り、すぐに戻ってくるだろう。


 絶大なカリスマ故に、尊木の身を案じる声が増え続けてる最中、耳を疑う声が入って来た。


「何あれ……鳥?」 

「でも人にも見えたような……」

「まるで天使? みたいな?」


 天使? まさか……新田成幸か?

 ……尊木を探しに行ったのか? 


 (ざわ)めきの増す周囲が、視線を向ける上空には、白い羽を生やす天界の天使がいた。


 な、何を考えてるんだアイツは?!

 尊木も文化祭で悪魔姿を晒してたが、催物がコスプレ喫茶だったから、人間達は何も疑わなかったんだ!


 しかし新田! お前は大衆の面前で天使姿を晒した以上、自らの身を亡ぼす羽目になるんだぞ!


 くそ……このまま悪魔パワーを封じられた尊木と、天使姿の新田と接触してしまえば……。

 事例が無いから確信は持てんが、恐らく尊木は浄化され、無に帰る……かもしれん。


 悪い方向に考えたくないが、これが今目の前で起きてる現実なんだ……。 


 不吉な兆しが迫る中、息を整えてる絵里先生が、拡声器を使い始めた。


「み、皆さん! 最新の天候状況によると、天候悪化が免れないそうなので、今すぐ下山します!」

「で、でも絵里ちゃん先生! サリー様はどうなるんです!?」

「先生方とガイドさん達とでギリギリまで探します! 山岳救助隊にも要請中ですので、今は下山を優先して下さい!」


 たった一人の為に危険が迫る中、大人数で待つ必要はない。

 真っ当な判断に生徒達は、素直に従うしかないんだ。


 ただ、堕天使の私なら、如何なる危険を顧みずに尊木を探し出せる。

 それに新田にも素性を明かせば、尊木との接触は避けられる。


「行こうミカエちゃん」

「私達が傍にいれば、下山もチョチョイのチョイさ!」

「んふふ~部屋に戻ったらオヤツパーリィー~」


 私が天使でも悪魔でもなく、花達と同じ人間だったのなら、一緒に下山するんだろうな。


 でも、目の前に直面してる私にしか出来ない事から、目を背けちゃダメだ。


「花ちゃん、麗子ちゃん、小鞠ちゃん……短い間だったけどありがとう」

「え? きゅ、急に何言ってるの?」

「はっ! まさか尊木さんを探しに行くつもり?」

「駄目。危ない、行っちゃ駄目」


 私の在り方を、意味を、改めさせてくれた尊い存在達だが……いずれ別れが訪れるのは、初めから分かってた事だ。

 今は、その別れが早まっただけに過ぎない……それだけだ。


 花達の声をそれ以上聞かず、私は堕天した羽を生やし、新田を止めに飛び立った。 


 もう花達と二度と会えなくとも、決して振り返らないんだ。


 ♢♢♢♢


 くっ……新田の奴、一心不乱に飛び回るせいで、一切距離を縮めることが出来ん!

 何度名前を呼び掛けても、全く耳に入っていかない。

 しかも天候悪化も的中、土砂降りの中でもはや姿を追うのが精一杯だ。

 何か手段はないか!考えろ考えろ!


 自分が如何に無力なのか、唇を噛み締めてるまさにその時、新田の動きが止まった。


 チャンスは今の内……待て。

 あの天へと手を翳すポーズ……まさか!


 声を全力で振り絞り、新田の名前を叫ぶが、もう遅かった。


 曇天にぽっかりと、天界から光が射し、地上を照らしだした。


 眩……。

 はっ! 新田は!? どこに行っ……あそこか!


 新田の向かっただろう地上へ降りた時、接吻をし終えた両者がそこにいた。


「新田成幸! 尊木サリー! ……お、遅かったか……」


 接触だけは避けたかったのに、天使と悪魔の接吻は駄目だ……。 

 何をどう足掻こうとも、取り返しのつかない事になってしまった……。 


 ……新田には悪いが、私は最後まで責務を全うする。


「私は狭間ミカエ……お前達のボロが出ないかを監視する、堕天使だ」

「か、監視……」


 大衆の面前で天使の姿を晒し、天界からの光を射し、悪魔と接吻を交わした。

 新田には酷な現実と未来を受け止めるしか、道は残っていないんだ。


「あ、あの狭間ミカエさん!」

「新田成幸! 往生際が悪い!」

「は、はい!」

「……お前達がこれ以上どう足掻こうと、もう遅いんだ……」


 どんなに悔い改めようとも、時は戻らない。

 それだけは天使と悪魔も人間と同じなんだ。


「……いいか新田成幸」

「はい」

「監視者権限に則り、新田成幸、そして尊木サリーを強制帰還させる」


 天界と魔界の狭間に存在する天魔郷(てんまきょう)にて、私達は天魔裁(てんまさい)にかけられるだろう。

 そこで私達の運命は全て決まる。

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