サリーちゃんを救いたい新田成幸
秋晴れの冴え渡る本日は、一泊二日の紅葉狩りにやって来ております。
いや~天魔山ってとこらしいけど、登る度に眺めが良くなりますね~。
なんて気持ち良く思えればいいのに、思えれねぇんだわ。
だってさ?
基本体力でさえ低レベルなのに、準備期間も無しにぶっつけ本番で登山よ?
普通にインドア派殺しじゃん?でしょ?
今も中腹地点で休憩中だけど、いつまで経っても息絶え絶えよ。
天使の羽さえ使えれば、目的地まで一瞬で飛べるんだけどなー……はぁ。
サリーさんと一緒だったら、そんな事も忘れて登れたり出来るんだろうな……。
今日だって移動バスを降りた時に、チラッと姿が見えたぐらいだし、いつもみたいにもう少しだけ姿を見たいわ……。
ザワザワ
ん? 先生方とガイドさんが真剣に話し合ってるぞ?
さっきまで学生に負けず劣らず和気藹々してたのに、どうしたんだ?
「えぇー皆さん! 最新の天候状況を確認したところ、当初の下山時間に天候が確実に崩れるとの事なので、安全を考慮し今すぐ下山します!」
あぁーそう言う事ね。
山は天候が崩れやすいそうだし、ここ天魔山はそれが激しいらしい。
いくら清々しい秋晴れでも、もしもが起きてしまってからじゃ遅いもんな。
話を聞いた男子生徒達は、ガイドさんに素直に従って、リュックをせっせと背負って下山準備。
体力クソ雑魚な俺には、マジでラッキーイベントだな!
帰れるという魅惑の言葉に、漲るエナジーが全身沸き立ってたら、女子達を引率してる絵里ちゃん先生が、慌てふためいた顔で登ってきた。
「と、尊木さんが猿にリュックを……ぜぇぜぇ……取られて、1人で追いかけたそうです!」
え。
サリーさんが?1人で?え?
「マズいですね……天候が崩れるそうなので、下山しないとなんですが……」
「でしたら、絵里先生とガイドさんだけで、生徒達をまず下山させて……」
「残った我々で尊木を……」
それじゃあ先生達も、危険な目に遭う可能性があるんじゃ……。
それに、サリーさんもどこかで遭難なんかしてたら……二次災害も……。
……ここで大人しく下山しても、勿論誰にも責められはしない。
けど、無謀にも探しに行こうものなら、当たり前だけど責められる。
どちらかを選択するか迷いそうだけど、俺はなりふり構わず天使の羽を生やして、空へと羽ばたいてた。
その場にいる全員に見られた以上、人間界での留学はもう終わりだ。
そうなれば二度とサリーさんに会えなくなるけど、今助けに行かなきゃいけないんだ!
♢♢♢♢
上空から天魔山の登山道周辺を探し続け、早1時間以上、サリーさんのさの字も見当たらない!
しかも秋晴れガン無視の、急な土砂降りと来たもんだ……滅茶苦茶まずいことになってるぞ!
くそ……こうなったら、天界からの光を射して、どうにかしてサリーさんを見つけ出さないと!
天使の姿も晒し、天界から光りを射せば、それこそ堕天もののアウトコースだ。
でも、サリーさんを救える術があるのなら、俺がどうなろうと構うもんか!
手を天へと翳すと、曇天にぽっかりと眩い光が地上へと降り注いだ。
そして俺は、山の木々の奥深くで一瞬煌めいた、銀色の光を見逃さなかった。
全速力で羽ばたき、銀色の光の先へと向かうと、縮こまっているサリーさんが視界に入った。
「サリーさん!」
まずいまずいまずい! 滅茶苦茶ずぶ濡れじゃないか!
「あ、新田君……なの?」
「そうだけど、今は自分の心配をして!」
「う、うん……」
あ、やっば!
勢いのまま手ぶらで来ちゃったから、拭くもんがなにもない!
えーっとえーっと……天使の加護は人間に掛けられないし……はっ!
不快に思われてしまうけど、天使の羽根で優しく包み込めば、寒さは紛れる筈!
抱き締める形になってるけど、今だけは我慢して欲しいです!
包み込んだのが功を奏したのか、サリーさんはホッと安心した顔で、俺の顔を優しく見つめてきた。
「新田君……ありがとう。好きだよ」
「……ぬぇ!?」
「あはは……本当だよ」
「え? あ、ふ? はぃい?! えちょ!? ふぁ!?」
さ、サリーさんが俺の事を好き?!
う、嘘だろ?! な、なんで?! え!?
返す言葉がごちゃまぜで、視界も泳ぎまくってどうしよう!?
突然の告白に訳も分からなくなってる中、不意にその感触は訪れたんだ。
チュ。
「?!?!?!?!?!?」
「えへへ……これで信じてくれた?」
い、今のって……口付け……ですよね? しかもサリーさんの方から。
ちょ?!マジ?はぁ?!何?!
徳とか全然積んでないのに、本当にどうして?!
「新田成幸! 尊木サリー! ……お、遅かったか……」
いきなり背後から声が聞こえたと思えば、天使と悪魔の羽を生やしたクラスメイトが、険しい顔で佇んでた。
あの姿は……堕天使? なんで俺らの事……あ。
この子って確か、俺に激辛酸っぱ渋苦ポリッツをくれた、謎の可愛い女子だ……。
「私は狭間ミカエ……お前達のボロが出ないかを監視する、堕天使だ」
「か、監視……」
俺のボロが出ないかを……ま、待て。
い、今、お前達って言ったか?! 達って!
じゃ、じゃあサリーさんも……。
「あ、あの狭間ミカエさん!」
「新田成幸! 往生際が悪い!」
「は、はい!」
「……お前達がこれ以上どう足掻こうと、もう遅いんだ……」
そ、そうだよな。
もう、人間に天使の姿を堂々と晒してしまったのだから、俺に残された道は無いようなもんだ。
「……いいか新田成幸」
「はい」
「監視者権限に則り、新田成幸、そして尊木サリーを強制帰還させる」
きっとこのまま帰還すれば、堕天……それ以上の事が待ち受けてるかもしれないけど、これで良かったんだ。




