サリーちゃんと天使
過ちは愚者と表裏一体だと、人間の浅はかさを目の当たりし、再確認してきた。
が……まさか私が、山中で遭難し、人間と同じ愚者になってしまう日が来るなんて、思いもしなかった……。
まだ日が出てるとはいえ、負傷した脚じゃ何もできん……。
くそ……私が勝手に行動しなきゃ、こんな事にはならんかったのに……。
♢♢♢♢
11月頭早々、一泊二日の紅葉狩りをしに、高校から2時間移動した天魔山にやって来てる。
眺めの良い山頂付近まで、己が身体を酷使する、意味を見出せないドM行事だな。
てか、行事を後半に詰め込み過ぎだろう。
人間共が何を考えてるか知りたくないが、前のマラソン大会よりも退屈だ。
だって……新田成幸を含めた男達が先行して、女達が後方に位置する、完全別行動なんだもん。
今も中腹で休憩中だけど、新田成幸達の休憩場所はもう少し先で、姿形が見えてないの。
最後に見たのも、移動バスを降りてチラッと見えたぐらいだし……むぅ……。
いつもの私なら、こんな雑魚山なんか涼しい顔でズイズイ進めるのに、身体能力もナチュラル人間モードにまで制御されてるから、普段の素晴らしき身体能力が発揮出来ないんだ。
まぁ……こうなったのは私自身が原因なんだけどさ?
文化祭で悪魔姿になった事が、いつの間にかやら魔界へと報告されてて、今年度まで悪魔パワーの使用を封じられたって訳。
マジ上の連中って融通効かなくて嫌いだ。
はぁ……早く終わらないかなー……
「ふぅ……」
「大丈夫ですかサリー様? 私のお手製栄養満点ドリンクでも飲みますか?」
「う、ううん大丈夫だよ? ありがとうね?」
「どぅっふ。も、勿体なきお言」
「あ!?」
別のモブ女子が急に、私を見ながら大声を上げやがった。
肌滴る汗でも舐りたいってか?お断りだね。
「サリー様の荷物がお猿さんに!?」
「へぇ?」
背後に下ろしてたリュックが無ぇ!?
だがモブ女子の言う通り、数m先に下等生物がリュックを持ち逃げしやがろうとしてた。
人間より下等な猿なんぞ、絶対逃す訳ないだろうが!
「取り戻してくる! 皆は待ってて!」
「「さ、サリー様!?」」
たかが低脳な猿だ。
1分で取り戻してやる!
♢♢♢♢♢
そう意気込んで、猿を追いかけた結果が、この様だ……。
あと一歩って所で、足下が急斜面でずり落ち。
服はボロボロに汚れて、脚も立てないぐらいに負傷。
リュックも取り戻せんかったし、散々な有様だ。
連絡手段のスマホもリュックだし、外部との連絡は無理……。
ザァアアア
追い討ちで土砂降り……最悪だな。
ちゃんと万全な天候の日に、普通は登るもんだろうが……はぁ。
寒いな……震えが止まらない……。
尊さの通用しない環境だと、私は人間よりも無力なのか……。
悪魔らしくないドン底に打ちひしがれてる、そんな私の目の前に、天から光が射し込んだ。
そして視界を上げたその先にいたのは、悪魔と相反する天使が、私の下へと降りて来る光景だった。
どうして天使が……もしかして死んだ?
でも、悪魔に天使のお迎えはあり得ない筈……。
あまりに眩い光から降臨する天使を、呆然と眺めてる私は、天使の声を耳にし、思考が一瞬死んだ。
「サリーさん!」
天使から聞こえたのが、間違えようのない新田成幸の声だったんだ。
「あ、新田君……なの?」
「そうだけど、今は自分の心配をして!」
「う、うん……」
そうか……あまりにも新田成幸に会いたくて、こんなへんてこりんな夢を見てるんだな。
新田成幸から生えてる羽根に、優しく包まれて、寒さが解けてるのも錯覚だな……。
なんかあれだな……。
傘をくれたあの雨の日に似てるな……。
新田成幸をちゃんと意識するようになったのも、その時からだな……ふふ。
でも、今起きてる事は気のせいだ……だから……。
もう夢なら……言ってしまってもいいよな?
どうせ目が覚めたら、何も変わらないのだから。
「新田君……ありがとう。好きだよ」
「……ぬぇ!?」
「あはは……本当だよ」
「え? あ、ふ? はぃい?! えちょ!? ふぁ!?」
ふふふ……リアクションまで私の思い描いてた通りじゃないか……。
だったら、これも理想通りになるのかな?
チュ。
「?!?!?!?!?!?」
「えへへ……これで信じてくれた?」
初めての口付けって、意識がどんどん遠退いてくものなんだな……。
「新田成幸! 尊木サリー! ……お、遅かったか……」
あれ? もう1人急に出てきたな……しかも聞き覚えのある声……。
そうだ……狭間ミカエの声だ……。
あぁ……2人が何か言い合ってるけど、意識がもう……あっ……




