サリーちゃんと新田成幸の裏で、色々としていた新田円
私、新田円が存在し始めてから今まで、誰しもの心を鷲掴みして来たわ。
何もかもが手に入り、どんなわがままも思い通り、まさに私の思いのまま。
ただ、お兄だけは違った。
如何なる手段を持ってしても、うんともすんとも心動かされず、兄として接してくるのよ!
最初こそ思い通りに行かず、ムシャクシャしまくってたけど、とある日に気付いたのよ。
一切揺るがないお兄こそ、私の求めてた唯一無二な存在なんだって。
そんな自覚が芽生え始めてからは、お兄色にどんどん染まって、お兄無しじゃもう何も考えられなくなったわ。
お兄が人間界に留学後も、後を追うように私も一年遅れて留学したわ。
留学の中身こそ、心底どうでも良かったけど、長期休暇になれば毎日お兄を独占出来るのが、唯一の心の拠り所だったわ。
のに……この前の夏休み、お兄から得体の知れない異性の残り香が、匂ったのよ。
今までリアル異性にうんともすんとも靡かず、無関心を貫いて来た、あのお兄がよ?
いきなりあり得ないでしょ。
だから私はこう思ったわ。
お兄を誑かそうとする異性が、身近に存在し始めたんだと。
私のお兄に近寄る存在は許されない。
お兄の良さは私だけ知ってればいい。
お兄を見るのは私だけでいい。
だから私は思い付いたわ。
お兄の祝福の瞳を曝け出せばいいんだって。
イメチェンと称し、無効化付与された前髪をバッサリ行けば、祝福の瞳が野生に放たれるわ。
そうなれば陰キャなお兄にとって、第三者から夢中になられるのは、精神肉体諸共に拷問も同然!
人間界で縋りどころのないお兄には、私は安息の地そのもの。
つまり、私はお兄をもっと独占出来るって訳よ!
そうと決めた私の行動は、もう誰にも止められなかったわ。
♢♢♢♢
作戦実行から早一ヶ月以上、お兄が私の下へと縋ってくる事は無かった。
お、おかしい……どうなってるのよ!
祝福の瞳を曝け出して日常を送れてるなんて、お兄には絶対無理なのに!
クソ……一応保険の為に、お兄の文化祭に行ける許可届で、直接会って確かめるしかないわね!
本祭は明日らしいから、前日の今日に連絡すれば、流石のお兄も断ることも出来ないわ!
早速ビデオ通話を掛け、早まる鼓動を抑制しながら、お兄の応答を待った。
プッ
「もし。明日早いから、もう寝るんだけど」
『明日、お兄の文化祭に行くから』
んっく……お兄の声と顔を見ただけで、身体が疼いちゃう……。
ぽ、ポーカーフェイスを維持するのよ!私!
「会えないルー」
『ついさっき許可届が受理されたのよ。お分かり?』
正真正銘天界から受理された、許可届を突きつけた以上、もう何があろうとも行ってやるんだから!
♢♢♢♢
文化祭当日、お兄の自由時間に合わせて、校門に来たはいいけど……。
いつも通り、無駄な人間共に群がられてるわ。
本当に邪魔なんだから、さっさと消えて欲しいわ。
「おーい、迎えに来たぞー」
何百何千何万もの声があろうとも聞き取れる、愛しの肉声が聞こえたわ!
周囲の人間がゴミカスに見える中、宝石の様に輝くお兄にズイズイと接近。
文化祭服のお兄……ラフさがありながらも、かっこよさを兼ね備えてて好き♪
じゃなくて!
祝福の瞳の効果が、限りなく皆無に近い状態になってるじゃない!
一体どうなってるのよ……。
と、兎に角!
い、いつも通りの対応をしないと、ボロが出ちゃうわ!
「……3分早いじゃないの」
「遅れるよりいいだろ? あ、ギリカップラーメン出来るな!」
「つまんな」
嘘嘘嘘!つまんなくないわ!
小粋な微笑みを誘う、最高のジョークよ!
ハッ!
お、お兄が私の身体を、じっくり見てる気が……だ、ダメ……まだ心の準備がぁ……。
と思ったら、別の事を考えてそうな上の空顔になってる。
まさか……例の異性と、私を妄想で比べてたのでは!?
こうしちゃいられない……奴がいるだろう、お兄の学年教室まで行ってやるわ!
♢♢♢♢
ここがお兄が普段通ってるエリアね……。
微かに私と似た、特別な存在が1つ……いや、2つ存在してるわね。
危険因子共には、私の方がお兄に相応しいと、分からせてあげるんだから!
「さ、先に行くなって! 円!」
んっきゅ……すぐに追い掛けてくれただけで、顔が熱くなっちゃう……ぴゃー!
ぽ、ポーカーフェイス、ポーカーフェイス!
「だったらリードしなさいよ」
「たく……ほら、手」
「しょ、しょうがないわね! 繋いであげるわ!」
「いや、いつもそっちがして来るじゃん」
「ふ、ふん!」
はい、これで私の勝ち確間違い無しー。
何百何千何万回やって来た手繋ぎで、私の握り手が形状記憶されてるんだから、他の奴はもう異物よ、い・ぶ・つ♪
「新田君の彼女さん?」
「どうなのどうなの?」
はん。誰かと思えば、見るからに低レベルな人間達の女ね。
きっとお兄のクラスメイトだろうけど、こんな連中如きに口を開くなんて片腹痛いわ。
「い、妹です」
「……ふん!」
どうや?
完全無欠の妹様ぞ?
私と対等の地位に立てるなんて、絶対にあり得ないと、これで分かっただろう!
「照れ隠しじゃなくてー?」
「マジの妹です。大体、円は好みのタイプじゃないんで」
「な!?」
お、お兄の好みのタイプ……じゃない?
こ、この私が?
し、視界が一気に揺れて、立っているのがやっとなぐらい、滅茶苦茶ショックなんですけどぉ?!
「あ、サリー様! 新田君の妹さん! 物凄く可愛いですよー!」
な、何だ……サリーっ……ほわぁあああっつ?!
か、確実に何者かが接近してるのは分かってるのに、訳も分からん後光で何も見えん!
「新田君の妹さん! こんにちは♪ 尊木サリーです♪」
「!?」
突然に声を掛けてきたそれは、私が存在し始めてから今までの中で、遥か高みを行く存在だと、一瞬で知らしめてきた。
頭のてっぺんからつま先まで、何度視線を泳がせても、私が勝るものがなかった。
「ど、どうしたの?」
「す、すみません……コイツ、身内以外とほぼ口利かなくて……」
「そうなんだ……それでもいいから、これから仲良くして欲しいな♪」
な、何なんのよコイツ……容姿も良ければ、中身まで良いって言うの?
天使の私よりも天使じゃないの……。
こ、こんなの屈辱よぉおおお!
「……帰る」
「え」
「は、はぁ!? 来たばっかりだろ!」
「帰る!」
「ちょ! 待てって! あ、ご、ごめんなさいサリーさん! アイツにビシッと言っておくんで!」
「あ、き、気にしないでいいよー!」
ごめんお兄……尊木サリーを超える目的ができた以上、1秒たりとも時間が勿体無いの!
だから待ってって……お兄の好みのタイプになるその日まで!




