サリーちゃんと文化祭と新田成幸の妹
新田成幸との関係性が進展する訳もなく、10月半ばの文化祭本祭になってしまった……。
時が経つのが早すぎるぞ!くきききっぃいいい!
絶好のチャンスだった文化祭準備期間中も、作業別々で空振り!
自由時間も被り無し!
文化祭特有の結ばれるジンクスも無い!
どうして人間界の行事はクソ仕様が多いんじゃ!ボケナスがぁあああ!
せっかく自クラスがコスプレ喫茶に決まって、公の場でも悪魔姿が通用するってのにさ!意味ねぇじゃんか!
角の手入れも、尻尾のブラッシングも、羽のパックとかも、一生懸命やってたのにぃいい!
尊さ爆発の悪魔姿で、客席が常に満席なのは当たり前! 廊下まで長蛇の列が伸びてるのも当たり前!
のに……一番に見て欲しい、ありゃたなりゆきが居なきゃ、どうでもいい!
ぐすん……いいもん。いいもんだぁ!
新田成幸には一生見せないもん! ふん!
「おい……あれ……」
「うびゃああああ?! かわいすぎりゅうううう!?」
モブの豚声なんてどうでも……ん?待て。
私に向けられてる声じゃないぞ……なんか廊下が騒がしいな……。
やけに色めき立ってやがるが、只事じゃなさそうだ。
まさか狭間ミカエの奴がなにかしやがったのか?アイツならあり得る!
私の許可なく新田成幸に近付いたんだ!絶対あの雌豚で間違いない!
可憐な動きで、きっちり仕事をしながら、廊下へとさり気なく顔を出した私は、目を無意識にかっぴらいてた。
「な……?!」
な、なんじゃぁあ!? あ、あの、私にも引けを取らない黒髪美少女はぁああ?!
か、辛うじて身体ステータスは上回ってるが、悩殺級の愛嬌で相殺しに掛かってる!?
狭間ミカエの妹にしちゃ、毛色が違うと言うべきか……いやいやいや、問題はそこじゃない!
あ、あの超絶美少女小娘が文化祭にいるという事は……新田成幸の視界にも入り兼ねないじゃないか!?
まずいまずいまずい……!
マラソン大会以降、ろくにコミュニケーションを取れてない以上、新田成幸が私に対するイメージは、少なくとも良くは思われていない!
そ、そんな付け入る隙のない奴に、小娘が接触してみろ……はっぁあああああああ!
無理! どうにかなってしまう! 世界を滅ぼすかもしれん!
ど、どうか……どうか新田成幸との接触だけは、しないでく。
「さ、先に行くなって! 円!」
「だったらリードしなさいよ」
「たく……」
え。
今、新田成幸が小娘と親しそうに、円って呼んだ?
嘘嘘嘘……そんなのって……あり得な。
「ほら、手」
「しょ、しょうがないわね! 繋いであげるわ!」
「いや、いつもそっちがして来るじゃん」
「ふ、ふん!」
手手手手手手手手手手手手手を、お握りしてらっしゃいませんか?
しししかも新田成幸の方からの、恋人握り!?
名前呼び+親しい関係+恋人繋ぎ=TheEND。
あは……あはははははは。
夏休み中、帰省と称してやがったが、小娘とイチャコラチュッチュクしてたんだな。
夏休みデビューも小娘の影響……そうだったんだな。
もはや、新田成幸を虜に出来ないのなら、人間界も必要ない。
もう、全部壊して、私諸共消えちゃえばいいんだぁああああ!
ありったけの悪魔パワーを凝縮した、滅玉を放つ直前、新田成幸達に女子クラスメイトが話し掛けていた。
「新田君の彼女さん?」
「どうなのどうなの?」
「い、妹です」
「……ふん!」
へ?
「照れ隠しじゃなくてー?」
「マジの妹です。大体、円は好みのタイプじゃないんで」
「な!?」
あ、新田成幸の妹……さん?
あ、あー!だ、だよね!だよね!分かってた分かってた!
大体、あんな超絶美少女が彼女になる訳ないじゃんか!
もう私ったら♪早とちり♪人間界を滅ぼすところだった♪キャ♪
「あ、サリー様!新田君の妹さん!物凄く可愛いですよー!」
おぅおぅ!随分と気の利くモブ女子だな!
義妹さんとの初挨拶を今の内済ませ、好印象を残しておけば、将来安泰間違いなし♪
本命の新田成幸に悪魔姿も見て貰える、まさに一石二鳥♪
視界がお花畑になる程、スーパー上機嫌な私は、新田成幸達の前に立った。
「新田君の妹さん! こんにちは♪ 尊木サリーです♪」
「!?」
な、なんだ。
私の頭のてっぺんからつま先まで、何度も視線を泳がせて来やがる。
特にボディーラインを見られてるが、流石に美少女としていただけない表情だぞ。
「ど、どうしたの?」
「す、すみません……コイツ、身内以外とほぼ口利かなくて……」
「そうなんだ……それでもいいから、これから仲良くして欲しいな♪」
いずれ義妹となる者を、このまま終わらせる訳ないだろう!
さぁ!差し伸べる手を握り返し、お姉ちゃんと呼ぶんだ!
「……帰る」
「え」
「は、はぁ!? 来たばっかりだろ!」
「帰る!」
「ちょ! 待てって! あ、ご、ごめんなさいサリーさん! アイツにビシッと言っておくんで!」
「あ、き、気にしないでいいよー!」
あっという間に行っちまったな……新田成幸と同様に、距離を縮められんかったか……ん?
さっき……サリーさんって言われたような……。
き、気のせいか?




