サリーちゃんと一生不覚の新田成幸
人間界の言葉に、一生の不覚というものがある。
生きてる上で、この言葉と合間見えない方が絶対いいのに、俺は自らの行動で合間見えてしまった。
それはマラソン大会前日の捻挫だ。
サリーさんに少しでも男としてみられたくて、夜な夜なコースの最適化検証と、体力作りを人間の身体能力でやってしまってたのが仇になったんだ。
万能移動手段の天使の羽さえ使えれば、こんな事にはならんかったのに……くそ。
折角やる気になれた行事なのに、こんなにも、退屈でつまらない行事は初めてだ……。
きっとサリーさんと一緒にいれば、退屈でつまらない行事も、見え方が変わるんだろうな……はぁ~……。
……でも、うじうじ心が腐ってても、仕方がないよな。
よし!走れん代わりに受け持った、水分補給係を全うしよう!
そろそろトップ集団が見えてくる頃合いだろうし、気を引き締めるぞい!
そんなこんな思ってる内に、遠くから集団が見え、急いで冷え冷えの水をコップに注いだ。
サリーさんが一番に来てくれたら、なんか嬉しいな……なんてキモい感じを出す俺の前に、顔を見せたのは、俺よりも驚くその人だった。
「あ、新田君?! ど、どうしてここに?!」
「あ、いや……足怪我しちゃって、出れない代わりに……」
捻挫自体、昨日の今日だったし、わざわざ誰かに言うのも変だったから、俺がここにいるのを知らなくて当然だ。
にしても、サリーさんの顔が明らかに赤い……ホカホカと身体中に湯気が出て、爽やかな汗も煌めいてるし、代謝が良いのかな。
と、とにかくショートパンツと体操服姿に見惚れてないで、早く渡さないと!
「あ、これ……」
「へ? あ、あー! お水ね! ありがとう!」
コップを渡そうと、ほんのちょびっと手が触れ合った瞬間、視界と意識がグラッと揺れ、反射的に手を離した。
い、いくらサリーさんの前で緊張してたにしても、急に何なんだ……俺よ。
夏休み明けにサリーさんと目が合って、意識がぷっつり途切れた時と、似た感じだったぞ……。
天界じゃこんな事を経験しなかったし、人間界特有のものなのか?
だとしたら、サリーさんにも……あ!
「あ、あへぇ……」
あ、アヘ顔まであと一歩の、一部の界隈に需要がある、大衆の面前でお披露目しちゃダメな顔になってる!
いくら危機的状況とはいえ、無暗に俺が触れてしまえば、状況が更に悪化する恐れがある!
ここは慎重に名前を呼んで、反応の有無をまず確かめよう!
「と、尊木さん?」
「は、はへぇ? ……ハッ! わ、私どうしちゃったんだろう?!」
ほっ……一時的な症状?って言えばいいのやら、さっぱりだが、正常な反応だ。
ただ、このままサリーさんを行かせて、途中で何か起きたら、俺の責任だ。
……サリーさんには大変に申し訳ないけど、棄権を勧めよう。
「だ、大丈夫? 棄権の連絡し」
「ら、らいじょうぶ! んっくんっくんっく……ぷふぇあ! じゃ、じゃあ行くね!」
「あ、が、頑張って!」
「う、うん!」
水を飲み干し、一目散に目の前から走り去ったサリーさんは、コースレコードを大幅に塗り替えて、ゴールをしたらしい。
そしてマラソン大会から1週間、サリーさんと目が合う度、身体ごと全力で背けられ続けたのが、辛かったのでした。
や、やっぱり手が触れ合ったのが原因だったんだぁああああ! ひぃいいいい!




