サリーちゃんに電撃が走る
残暑が消えつつある9月末、今日は高校のマラソン大会だ。
校外周辺10kmを一周するシンプルコースらしいが、何の為に、理由も明確でないのが、疑問だ。
全く意味を見出せんが、所詮人間の考えた事だ。
昔、素足で地面を駆け抜けた時の、名残りが未だに続いてるのだろうな。
ふっ……人間共は過去にすがり続ければいい。
私は遥か先を行くのだからな!
「しょ、ショートパンツに体操服姿……ハァハァ……」
「永久保存版だぁぁあああ! うぉおおおお!」
外野モブらの声援が、耳を劈く勢いで向けられてるな……体力を使い果たさなければいいがな。
そ、そういえば……あ、新田成幸は……ど、どこにいる? そ、そもそも参加してるのか?
んー……んー……? んー! モブが邪魔で見えないぃ! もう!
今すぐ消し去りたい!
「位置について……よーい……ドン!」
チッ! クソ程空気が読めないな! まだ探してる途中だっただろうが!
だが、そんなクソスタート合図如きで、完璧な私がスタートをミスる訳がない!
ぶっちぎりの一位を捥ぎ取って、優秀賞の1か月学食無料パスを手に入れるんだ!
そ、それを切っ掛けに、新田成幸を学食に誘うなんて……しちゃっていいのかな~♪うふふ♪
とは言え、人間の身体能力に合わせなければならんのが、面倒くさいな。
悪魔本来の身体能力を持ってすれば、涼しい顔であらゆる世界記録すらも、ぶっちぎりで更新できるからな。
とりま、トップ集団の先頭を走り続ければ、問題ないだろう。
勿論、必要のない息遣い、肌を艶めかす汗を、適度に交えてな! はっ!
♢♢♢♢
……ただただ人間ペースで走ること、10分弱……。
こんなにも、退屈でつまらない行事は初めてだな……。
同行するトップ集団の連中も、色めいた興奮交じりの息遣いが、絶えない有様。
まるで、変態軍団を率いる大将と言ったところだな……全然嬉しくない!
新田成幸と一緒にいれば、退屈でつまらない行事も、見え方が変わるんだろうな……はぁ~……。
そういや、そろそろ水分補給エリアが見えてくる頃合いか。
水分を一滴も欲してはないが、人間らしさを見せるには立ち寄らないとだ。
爽やかな汗水を流す私を見繕い、補給エリアに顔を見せた私は、思いもよらぬ光景を目に焼き付けていた。
「あ、新田君?! ど、どうしてここに?!」
「あ、いや……足怪我しちゃって、出れない代わりに……」
松葉杖が奴の横に立て掛けてあるから、嘘ではない様だが……しゃ、しゃぷらいじゅ過ぎん?!
「あ、これ……」
「へ? あ、あー! お水ね! ありがとう!」
コップを受け取ろうと、ほんのちょびっと手が触れ合った瞬間、私の全身に電撃が走った。
物理的では無い、精神的な意味での味わったことのない衝撃に、濃厚な脳内快楽物質が溢れ出して、放心が止まらない!
「あ、あへぇ……」
「と、尊木さん?」
「は、はへぇ? ……ハッ! わ、私どうしちゃったんだろう?!」
や、やっべぇ……新田成幸の声を聞き入れるまで、一歩も動けんくなるところだった!
さ、サプライズは滅茶苦茶嬉しかったが、これ以上滞在するのは、私にとって毒!
「だ、大丈夫? 棄権の連絡し」
「ら、らいじょうぶ! んっくんっくんっく……ぷふぇあ! じゃ、じゃあ行くね!」
「あ、が、頑張って!」
「う、うん!」
やびゃいやびゃいやびゃい!
新田成幸の声が脳内ループして、お、おかしくなっちゃいそうだぁああああ!
それからの私は、おかしくなる前に無我夢中で走り、コースレコードを大幅に塗り替え、ゴールをしたのだった。
それでも、1週間は新田成幸の声がループし続け、悶々と身体を熱らせる結果になった。
こ、こんなの私じゃなーい!!ふぇえ……。




