サリーちゃんの手作りハンバーグが一番美味しかった新田成幸
祝福の瞳の効果が途絶えて、早1週間以上経過。
今までじゃ考えられない程、クラスメイトと円滑にコミュニケーションを取れております。
サリーさんとは……以前と変わらずで、進展なんてもんは遥か先の事だ。
ただ今日は、調理実習の日で、サリーさんと同じ班なんですよ。
正直料理は苦手な方だし、味馬鹿なのかもしれんし、足を引っ張る可能性は大だ。
「エプロン姿もお似合いです♪ サリー様~♪」
「ありがとう♪」
「新田君も決まってる~!」
「ど、どうも……」
サリーさんのバンダナとエプロン姿……最高としか言えんし、写真だってバシャバシャ撮りまくりたいな……。
なんて考えてる自分がキモい……おえ。
もっと真っ向から距離を縮めればいいのに、やり方が分からない事を言い訳に、何も踏み出せないのが、何よりも悔しい。
俺がもっと、今みたいな俺じゃなかったら、サリーさんともっと仲良くなれたんだろうな……。
「じゃあ私と新田君とで、お肉をこねるから、野菜とかお願いね♪」
「ブヒィイ! やらせて頂きますぅ!」
「完璧なまでに遂行します!」
「あ、尊木さんと……」
さ、サリーさん自らのご指名で、ハンバーグの肉種こねの共同作業……マジ?
て、てっきり別作業になるかと思ってたのに……へぁ?
し、しっかりするんだ俺!せっかくご指名までしてくれたのだから、全身全霊で遂行しなければ!
心の高鳴りが隣に立つサリーさんに聞こえそうでも、必ず最高のハンバーグを作り上げる!
せっかくの2人きりの状態なんだし、いつもサリーさんの方から話し掛けて貰ってばかりじゃ、俺はきっと成長できない。
だからこの機を逃さず、今回は俺の方から話し掛けるんだ!
ドキドキが加速して行く中、いざ、サリーさんを見てみたら、微細な表情変化を繰り返してて、なんだか様子がおかしかった。
「だ、大丈夫?」
「……ふぇ? ……わ、私に言ったの?」
「う、うん」
か、顔を背けられた……指摘したのは間違いだったのか……くそ……。
そりゃ人様の顔を見て、いきなり大丈夫かって言われれば、そうなるよな……。
くっ……でも、いつまでも引き摺ってたら、ダサい男だって認識されかねないだろうし、気持ちを切り替えて作業に取り掛かろう。
「えっと……や、やろっか」
「ふぇ?! な、ナニを?!」
「え。肉こね……でしょ?」
さっきと違って、今回は普通に声を掛けただけなのに、サリーさんの美しい白肌が、珍しく紅潮した……。
もしかすると、祝福の瞳の効果がサリーさんだけ抜け切れてないのかも……。
そもそも祝福の瞳が、理由もなく効果が途切れるなんて、前例のない話だし、あり得なくもない……。
でも、クラスメイトは完全に効果が途切れてるし……なんでサリーさんだけが……んー……分からん。
はっ! そうだ!
天使の加護から生成可能な、エンジェルパウダーを使えばいいのでは?!
善なる人間にエンジェルパウダーを摂取させれば、余計な効果を消せるんだ!
回数こそ限られてるけど、留学ルールにもギリギリ引っ掛からない!素晴らしい!
ただ問題はどうやって接種させるかだ。
勝手に振りかけるのも無理だし、美味しい粉チーズだと言っても苦しいだろうな……んー……ん?
今、サリーさんが肉種に何か入れた様な……ハッ!
スパイスと偽って、入れてしまえばいいんだ!
見た目は白胡椒と差異なし!問題ない!
もう時間が無いんだし、入れてしまえ!
♢♢♢♢
「わぁ~♪ 皆のお陰で、とても美味しそうに出来上がったね♪」
「プギィイ! も、勿体ないお言葉ですぅう!」
「皿まで食べてしまいたい!」
「……た、食べようか」
エンジェルパウダーを入れた時、サリーさん達には何もツッコまれなかったから、良かったけど……ちゃんと食べられるものになってるのか?
俺は自ら先陣を切り、恐る恐るハンバーグを一口、パクッと噛み締めた。
「……ん、美味しい……」
「……え?」
エンジェルパウダー云々じゃなくて、単純にハンバーグが滅茶苦茶に美味しい!
きっと一緒に作ってくれたサリーさんがいたからに違いない!
「サリーさんの入れたスパイスのお陰かな? 今まで食べたハンバーグの中で、一番だよ」
ここまで完成されたハンバーグを調理実習で味わえるなんて、全然想像し得なかった!
サリーさんも小さなお口で、ハンバーグを上品に食べ、ニコニコ幸せそうな顔になってる。
思わず見惚れていたら、サリーさんが俺の目を見つめてきた。
「新田君達が手伝ってくれたからだよ♪」
「そ、そうなのかな……」
ハッ……グッ……ス!
決して自分を棚に上げず、俺達を労ってくれる……。
既にハートを射抜かれてるのに、まだまだ射抜かれ足りない!
照れ臭い顔を背ける俺って、本当にちょろいわ……。




