サリーちゃんと目が合い、気持ちを認める新田成幸
拝啓、妹様の円さん。
夏休み中、貴方が俺を強行イメチェンしたお陰で、新学期早々に注目の的になってます。
いや、本当にマジで、何でこんな事しちゃった訳?
俺が天界の者でも稀な、祝福の瞳の持ち主だったのを、知っての上でしょ?
祝福の瞳持ちはただでさえ、第三者を夢中にさせる仕様なのよ?
プラス、目が合えば祝福がもたらされる、言わば幸福製造機な訳。
しかも際限ない上、祝福をもたらせばもたらす程、より夢中にさせてしまうのよ?
つまり、陰キャ引きニートとして生まれた俺には、全く不必要も同然なもんなんだ。
だから、邪魔くささMAXの前髪に、一番安い無効化の付与を留学前にしたのよ。
付与のお値段、なんと日本円で1憶! お陰で天界貯金スッカラカン!
勿論、付与された眼鏡とかコンタクトとかあるけど、なんせ稀で需要が限られてる訳で……数十倍もするんだよ?
払えるわけないし、泣く泣く一番安い付与しか出来なかったのよ。
一番高額な瞳自体の無効化付与は、一般天界人には夢のまた夢なのさ……ははは。
でも、留学で天界から仕送りがあるから、十分なニートライフを送れるのが、唯一の救いかな。
とまぁ、そんな有難迷惑な瞳と、妹様の凶行によって、留学して初めて注目の的になってるんですよ。
寝たふりを貫き、一切存在を無かった事にされてたのに、針山の如く突き刺さる視線が痛過ぎる……。
残りの高校生活……平和に過ごせる自信が全くない!
ガラガラ
「皆おはよー♪」
「さ、サリー様! おはようございます!」
「サリー様よ! ハァハァハァ!」
さ、サリーさんが来てしまった……。
このままだと他のクラスメイトと同じで、俺に夢中になってしまう!
ただ……夏休み前とは比べ物にならない程、サリーさんの尊さがパワーアップしてるのが、空気感だけでも分かる。
きっとサリーさんの事だ、夏休みを謳歌してたに違いない。
もう……本当にさ……サリーさんと夏休みを、ちょっとだけでも良かったから過ごしたかったわ……。
そんなこんな思ってる内に、サリーさんの足音が自分の席に接近してる。
「おはよう新田君♪」
サリーさんの変わらない挨拶で、俺はあろうことか、頑なに振り向かなかった顔を、無意識に向けてしまってた。
「新学期もよろし」
♢♢♢♢
「……はっ」
……俺は一体どうしたんだ?
……場所は教室……俺の席……時間的に1時限目が始まったばかり……。
そこまで時間は経ってないみたいだが……どうしてこうなってんだ?
えっと……確かサリーさんとバッチリ目が合った瞬間、視界がブラックアウトして……そうだ。
目の前で、壮大にぶっ倒れる音が聞こえて……それからは分からん。
祝福の瞳と目が合った際、自身に何か起きるなんて前例は聞いた事ないし、本当にどうなってるんだ?
「で、あるからして……」
……ん? そういえば、滅茶苦茶突き刺さってた視線が、嘘みたいに消えた様な……はっ!
夢中だったクラスメイトが、真面目に授業を受けるてるじゃないか!
いや、授業風景としては当たり前なんだけど、祝福の瞳の俺がいる以上、授業どころじゃなくなる筈……。
「では、ここを答えて貰おうかな、新田君」
「へ?」
「たく……まず、教科書とノートを出して」
「は、はい!」
クスクス……
ど、どうなってるんだ?
今まで先生に当てられても、誰もノーリアクションだったのに、今は温かくて優しい笑い声が……。
まるでクラスの皆と変わらないじゃないか……。
一体自分自身に何が起きてるか分からないまま、慌てて教科書とノートを出す俺は、ふと隣の席に視線を向けてた。
いるはずのサリーさんの姿が、どこにもない……。
ただサリーさんがいないだけなのに、どうしようもなく今は、サリーさんを目に焼き付けていたい気持ちになってる……。
多分……いや、きっと最初から俺は、サリーさんの事が、一目で好きになってたんだ。
相手が人間だから認めたくなくて、叶わない恋だと知ってたから、気付きたくなかったんだ。
でも、もう俺はこの気持ちから目を逸らさない。
どんな結末になろうとも、俺は留学中にサリーさんに気持ちを伝えたい。




