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サリーちゃんが初めて見る新田成幸の眼

 ひたすらに鬱憤晴らしに明け暮れた夏休みが、ようやく終わった。


 ついつい新田成幸を虜にさせたいあまり、高校では悪魔らしく振る舞えなかったが、思う存分悪魔ライフを謳歌してやったわ!

 その甲斐あって、存在感の薄れ気味だった悪魔パワーは、今まで以上にパワーアップ!


 前までは尊さで群がられてたが、今は私を視界に入れただけで、精神や肉体に影響を及ぼす程だ。

 快楽成分を強制分泌させ、失神寸前に陥りさせる、まさに悪の所業!


 現在登校する私の通った道には、幸福の死屍累々が広がってる有様だ。


 くっふっふ……今日こそ新田成幸を虜にしてやるんだからな!


 ♢♢♢♢


 教室前まで来たが、中がやけにざわめき散らしてるが、私の悪魔パワーが先走りしたのかもしれんな。ふふん♪

 だとすれば流石の新田成幸も、コロッと虜になっててもおかしくはないな♪

 罪な女だな、私ってば♪ 


 えーっと♪ まず虜にしたらー♪ 一緒にお弁当食べるでしょー? 勿論私の手作りね?

 で♪ 休み時間は他愛もないお話♪ いっぱい新田成幸の事を知って、私の事も知って貰わないとね♪

 で!で!放課後は仲良く隣を歩きながら帰るの♪ て、手が触れ合っちゃたりして!きゃー♪


 さてさて♪ 実現まで残り数秒♪ 景気良く入っちゃえ♪


 ガラガラ


「皆おはよー♪」

「さ、サリー様! おはようございます!」

「サリー様よ! ハァハァハァ!」


 私を見るなり、わんさわんさ集い、あっという間に取り囲まれてしまった。

 相も変わらず、変態染みた声を上げる人間達だな。ふふ。


 ……まて……おかしいぞ。


 どうしてこいつらは平常通りなんだ? 

 悪魔パワー絶好調な今、例外なく幸福の死屍累々となる筈だぞ?

 のに、こいつらの言動行動が夏休み前と変わってない!


 免疫が出来るなんて事は無いだろうし、可能性があるとすれば、教室に入った際に映った光景か。


 夏休み前まで、私以外誰しも空気として扱っていた新田成幸に、何故かクラスメイトの視線が向いてた光景だ。


 場所的に後ろ姿しか見えんが……な、夏休みデビューでもしたんか?!

 で、でも、見た目はほとんど変わってないし、強いて言うなら毛量のあった癖毛が、軽くなって爽やかになってるぐらい……だ。


 会えなかった夏休みの間、奴は何をしたと言うんだ……ゴクリ。


 ま、まさか私と会えるから、散髪を……な、なーんてね!

 奴が私を意識しているのなら、とうの昔に虜になってるっての♪ きゃ♪


 はっ! いかんいかん、妄想に耽ってる場合じゃないだろうが!

 クソ……新田成幸め……休み明け早々の、挨拶一発で今度こそ虜にしてやる!


 群がり共に道を開けて貰い、いざ隣席の新田成幸に挨拶をぶちかました。


「おはよう新田君♪ 新学期もよろし」


 ♢♢♢♢


「はっ! ……ここは……」


 私を囲う布仕切りと薬品の香り……そして、私の体に掛かっている布団……保健室か。


 場所は把握したが、新田成幸の挨拶途中で、急に記憶が無くなってるな。


 一体私の身に何が起きたんだ? 過剰な悪魔パワーによる、体調不良なんて聞いたことがないぞ。

 身に降り掛かった原因不明な珍事を、必ず解き明かさなくては。


 ジャー


「あ、起きたのね。大丈夫?」

「あ、はい……」

「なら良かった。念の為、熱測ろっか」


 物静かな室内で声を上げれば、流石に気付くか。

 せっかくだ、私がここにいる理由を聞いてみるか。


「あの、保栖(ほずみ)先生」

「ん?」

「私、どうして保健室にいるんでしょうか?」

「急に教室で倒れて、狭間さん達に運ばれてきたのよ」


 な、何? 

 他クラスである雌豚が、何故に私をわざわざ助けたんだ?


 雌豚の介入も気になるが、私が倒れた理由が分から……あ。

 そうだ……。

 新田成幸の顔を見ながら挨拶してたら、初めてアイツがチラッと私の方を見たんだ。

 鬱蒼としてた前髪が消えてて、初めて目元が見えたんだ……。


 青空を閉じ込めた様な、綺麗な眼と合った瞬間、私の脳髄が震えて、そのまま倒れた……。


 はぁ~……いくら悪魔パワーがパワーアップしても、無駄だったという訳か……。


 てか……も、もう……あんだけ目が合ったら、意識しないほうが無理じゃんか~……ん~!


「はい、体温け……どうしたの、そんな見悶えて?」

「へ? はっ! な、何でもないです!」


 く、クソ……新田成幸のせいで、いつもより体温が高かくなったじゃないか!

 悔しいぃいいいいい!

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