サリーちゃんと新田成幸を監視しない日のミカエ
夏休み初日、本日から尊木と新田の監視を、夏休み明けまで休止されている。
一時的に肩の荷を下ろせたのはいいが、今日はクラスメイトが約束を果たす為、私の家に遊びに来る日だ。
前は部屋に二郎系スメルが残っていたが、今は私の香りが広がってる。
片付けも掃除も日々行き届いているが、入念に抜かりなくチェックしなければ。
「よし……問題な……何をやってるんだ私は……」
たかが人間のクラスメイトを家に招くだけで、普段より気合の入れようが段違いじゃないか。
初めて誰かと遊ぶだけなのに、どうして胸の奥がドキドキと、嬉しそうに楽しそうになるんだ。
忘れるな私、相手は欲に塗れてる人間だ。
ピンコーン♪
私の用意した如何にも人間の食い付きそうな数々で、化けの皮を剥がし、本性を表すがいい。
ガチャ
「いらっしゃーい♪」
「おはよ! 今日はお招きありがとうね! ミカエちゃん!」
「んちゃー! ふほー! 美少女の匂いがするー! スンスンスーン!」
「ありがたやーありがたやー」
「こらー! 変態行為を優先すんじゃなーい!」
真面な花、嗅ぐ麗子、拝む小鞠、以上3名のクラスメイトと、普段は仲良く囲まれ……必要最低限の高校生活を送るのに利用してる相手になる。
どれだけ良人を演じようとも、私のテリトリーに入ってしまえば、もう逃げられない。
バタン
早速、興味津々に部屋を舐めまわす様に眺めてるが無理もない。
徹底的に調べ上げたありとあらゆる理想の女子部屋を、濃縮再現してるのだからな。
ただ、花だけが何か言いたげに、私へ視線を照れ臭そうに送ってる。
目論見らしい雰囲気ではないが、口に出しずらいなら私から聞くまでだ。
「どうしたの? 花さん?」
「あ。う、うんとね? み、ミカエちゃんの私服、可愛いって言いたかったの!」
ぐっ……。
た、確かに女子高生御用達の人気ブランドで見繕ってるが、真っ正面からの純粋な感想が、ここまで心に響くなんて……。
惑わされるな、ご機嫌取りの為にありふれた言葉を述べたまでだ。
だから、無意識に笑みを零すんじゃない、私。
「本当! 嬉しいよ♪ ありがとう♪」
「ぎゃわいい!」
「ミカエ様~ありがたや~」
高校でも頻繁に、私の事でぶっ倒れる麗子には、困ったものだ。
幸い、花の慣れ切ったフォローで、ケガをせずに済んでる。
呆れ混じれだが、信頼関係があってこその光景だ。
私もいつの日か……花達と同じ光景を共にでき……違うそうじゃない。
羨むんじゃない、しっかりしろ。
「ねぇミカっち! これ! Vtuberのセットでしょ!?」
はっ!
いつの間にか物色されてしまってたのか、だが問題ない。
言わずもがな、Vtuberセットはわざと、片したのを忘れた体だ。
登録者数60万人、数百万の見込みがあるだろう広告収入。
この事実を開示すれば、呆気なく欲に駆られ、詳細を聞き貪る筈だ。
さぁ、本性を包み隠さず出すんだ。
「えへへ……前から気になってて、思い切って奮発したの♪ 良かったら、やってみる?」
「め、滅相もねぇ! ミカエちゃんの大事な物じゃん!」
「よく言った! 麗子!」
「おみごと~」
な、何故食い下がるんだ? そもそも事実を開示をする前だぞ?
欲を欲し、欲に生きるのが人間なんじゃないのか?
でもそうでないなら、人間界学で学んだ事は、違ってたというのか?
「え、えっと……聞いたりしないの?」
「ん~興味はあるけど~目の前にいるミカエ様が好きだから、いいの~」
「そうそう! ナイス小鞠!」
「それにね? 私達ならきっと、どんなミカエちゃんでも見つけ出せるから大丈夫!」
……あぁ。
認めたくなかったのに、認めないといけないじゃないか。
私は花達みたいな友達が欲しかったんだと。
「そ、そっか! あ、お菓子と飲み物用意するね!」
花達に溢れそうな気持ちがバレる前に、私はキッチンに逃げ、流れる嬉し涙を拭ってた。
このまま人間界で役目を終えれば、花達とはもう会えない。
ただ、花達は人間だ。
数十年もすれば死に、天界か魔界に行き着く。
果てしない人数と広さを誇る世界だけれども、今度は私が必ず見つけ出すから、その時にまた友達になって欲しい。
やっと自分を認められたからか、心が嘘みたいに軽くなってる。
言葉にはまだできないけど、花達にはありがとうをちゃんと伝えたい。
「……よし。皆! お待たせー♪」
「わぁ! 焼き菓子だぁ!」
「女子力ぅ!」
「ありがたく~いただく~」
今は今だけの時間を花達と楽しめばいい、それが私が今やりたい事だ。




