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サリーちゃんのいない夏休みを過ごす新田成幸と、その妹

 人間界で毎年学生だけに訪れる長期休暇、夏休みがやって来てしまったぜ。

 一ヶ月弱の24時間引き篭もりニートライフを謳歌したいのは山々なんだけど、実現出来ないのが現実なんだよな……世知辛い。


 天使の様な尊いサリーさんにも会えないし、夏休みは毎年、妹に人間界で連れ回されるのが恒例だしさ?


 もう夏休みに俺の自由はないよね、あー悲しいかな、悲しいかな……。


 心の愚痴も程々にしてっと……妹様からの連絡通り、待ち合わせ場所に到着したはいいけど、あの人集りの中心だからな……。


「素敵な貴方をエスコートさせてくれませんか?」

「貴方モデルに興味無い? 絶対トップになるわ!」

「是非君の主演映画を撮りたい! 200億! いや300億を叩き出せる!」


 ナンパにスカウト、エトセトラ……されてる人物が正に、我が妹である一個下の新田(まどか)だ。

 お察しの通り、円は滅茶苦茶に綺麗で可愛いので、人間界でも天界でもあんな感じだ。


 ま、サリーさんという不動の存在が現れたし、そもそも実兄の俺からすりゃ、わがままで面倒臭い妹なんだよな。


 そんな1年遅れで人間界に留学して来た妹様は、夏休みやら冬休みやら、ゴールデンウィークにあれやこれやと理由付けて俺を連れ回すんだ。

 しかも毎日、宿泊先も同じ、部屋も同じ、布団やベッドまでもことごとく一緒の、まさに妹ヘルさ。

 幸い天界ルールのお陰で、留学先は完全別々だし、長期休暇以外で会う事は無いからいいけどさ?


 毎日はマジで勘弁して欲しいっす。


 とまぁ、そんな最愛の妹さんは、外野の声に一切ガン無視を続け、スマホをジーッと齧り付いて眺めてらっしゃる。


 勿論妹様は俺が来るのを待ってる訳で、今来ましたのスタンプを送る流れが、毎回恒例の流れだ。


「今来ましたよ……っと」


 コンマ数秒の既読と一緒に、キョロキョロ周囲を見渡す妹様は、俺を視界に入れた瞬間、不機嫌な形相でズカズカ距離を縮めてきた。

 毎度毎度、怖い面で再会される身にもなって欲しいですよ。


「おっそ! 20秒遅刻とかあり得ないから!」

「ごめんなさい。何か驕るのでお許しを」

「しょ、しょうがないわね! ちょ、丁度ペア限定のパフェが近くにあるから、そこに行くわよ! ……た、たまたま見つけただけだから!」

「あ、はい」


 ツンケン気味な妹様は、この様に毎回何かしらをリサーチしてらっしゃるんですわ。

 俺と違ってしっかりしてるのは評価出来るけどさ、もう少し優しい態度で接して欲しいよ。


 例えば理想のお手本になる、サリーさんを見習って欲しいものですな!


「何ニヤついてんのよ……ま、まさか、私と会えるのが楽しみでニヤついてんの!? し、仕方がないお兄ね! そ、そんなに楽しみなら、手繋いでやっても良いわよ!」

「もうしてんじゃん」

「お、お兄の方からして来たんでしょ!」

「ソウデスネ」


 俺と同じ様に素直になってくれない妹様がおる、顔も知らぬ長男長女よ。

 いつの日か妹様は素直になれる事を信じて、毎日を乗り切りましょうby新田成幸。


 自分に素直になれない妹様は、握った手を離さまいと、恋人握りに切り替え、パフェのあるだろう方へ足を進めてる。


 とりあえず機嫌はよろしい様だから、いつも通りツンケンを乗り切れば解放される。


 ざっと心構えを決め込んでる真っただ中、妹様の鼻がスンスン動いてた。


「スンスン……お兄。私以外の女と最近会った?」

「へ? あー……最近って言っても、2、3日前にあった終業式以来だぞ?」

「へぇー残り香がこびり付いてる。普通にあり得ないんですけど」

「わ?! ちょ?!」


 害虫抹殺の如くフレグランスを噴き掛けてきやがってるんですけど!?

 た、確かに最後に会った女子はサリーさんだけれども、べ、別にサリーさんの匂いとかしないのに、どんだけ鼻が良いんだよ!


 結局フレグランスがスッカラカンになるまで掛けられ、妹様と同じ匂いとなった俺は、いつも以上に妹様のわがままに付き合う羽目になったとさ。

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