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やる気満々(若干一名除く)

 


 鮮やかな紅玉を見据えて、好戦的に唇の端を引いた。






「ゼロス様、わたくしも是非お相手して下さいません?」


 突然対戦を申し出たクローディアに指名したゼロスよりも周りがどよめいた。





「クローディアっ!いきなり何を・・・!?」


 止めようとするジルベルトを一瞥だけして、ゼロスへと視線を戻す。



「如何かしら?以前、わたくしの能力(チカラ)を見たいと仰っていたでしょう。丁度よい機会でなくて?」


「別に構わないケド。でもキミの元の力量を知らないから効果わかんなくナイ?」


「勿論一対一で挑む気はありませんわ。旦那さまに助太刀を頼もうと思いますの。彼の力量ならよくご存じでしょうし、それなら威力の違いも一目瞭然でしょう?」




 勝手に巻き込まれたジルベルトが傍で驚いてるがスルーで。



 彼を巻き込む事はクローディアの中で決定事項だ。


 却下は聞かない。



 何せ一対一で敵うわけがない。本職の彼の部下達でさえ多い時には十対一で勝てない相手だ。


 諦めて欲しい。



「面白そうだね。でもジルベルトは一定位置から動くのは禁止ね。他に何人でも助っ人入れてもいいよ」


 好奇心に紅玉がキラキラと輝く。


 了承を得られた事にクローディもにっこりと笑った。


「いつもゼロス様がなさっているようにもし勝てた場合はわたくしのお願いを聞いて下さいな。わたくしおねだりしたい事がありますの」


「別にいーよ。何?」


「まだ内緒です。条件・禁止事項は?」


「待ってください。勝手に話を勧められても」


「余興だと思えばいーじゃん。別に部外者の参加が禁止されてるわけじゃナイんだし」


「酷いですわ。わたくし一人で戦えと仰いますの?」



 止めに入ったジルベルトの言葉は自由な二人に遮られる。セオから同情の視線が飛んだ。



「禁止は、そうだな。ジルベルトは描いた円からでないコト!!これは絶対!ボクも円から動かないし。あとは好きにしていーよ。クローディアは助っ人なり魔道具なり何でもアリで。ルールはシンプルに相手が敗北を認めるか、膝を着かせれば勝ち」


 楽し気な瞳が待ちきれないとばかりに輝き、彼が場内の真ん中へと向かおうとするのを止めた。



「やる気満々な所申し訳ないのですが、わたくし着替えないと無理ですわ」













 やる気満々だったゼロスの気を削いで、数刻後。



 同じくやる気に満ちて、今日は最初からゼロスに挑むつもりで持参していた鍛錬時に使っている服に着替えて戻ったクローディアは若干遠い眼をした。



「何故ギャラリーがこんなに?」




 クローディアの恰好を見て眼を丸くしたジルベルトがまじまじと全身を見た後で、戸惑ったように答える。


「貴女が着替えに行っている間に噂を聞いた野次馬が集まりまして・・・。それより、その恰好は一体?」


 クローディアの恰好は躰に沿った黒い上下。乗馬服や、色から受ける印象としては眼の前の彼が着ている団服にも近いものがあるかも知れない。下は勿論ズボン。長い髪は高い位置で一つに括った。



 やたらと驚いている彼に、女性の騎士や魔術師もいるのだから男性的な恰好の女性も見慣れていないわけではないだろうにと思うが、確かに普段ドレス姿しか見てない相手の恰好は意外なのかも知れないと思い直す。




「似合わないかしら?」


「いえ、とても似合ってはいますが」


 人前でした事のない恰好なので不安になったが、似合っているならいいかと流す。


「何故急にあんな事を言い出したのですか?」


「別に急ではないのですけど。手合わせを偶に拝見してて、わたくしも相手をして頂きたいなと思ってましたの」






 ゼロスはよく大多数の部下を相手にしている。


 負ける事がないからだろう。相手のやる気をあげる為にか、自分に勝てたなら何でも一つお願いを聞いてあげる。そんな条件をつけて。


 クローディアも前々から相手をしてもらいたいと思っていた。



 ゼロスがいる方へと向かいながら、クローディアは真剣な顔で隣のジルベルトを見上げた。



「わたくし、やるからには勝つ気でいますの」


「それは・・・」


 言葉を濁す彼は無理だと言いたいのだろう。実力差は百も承知だ。


「わたくしが合図をしたら全力でゼロス様へ向かって魔術を放って。貴方が得意な炎がいいですわ。何があろうと決して円から動かないで、絶対に魔術を止めないで。わたくしの為に隙を作って下さいな」





 それでも、負ける訳にはいかないのだ。




 紺碧を強く見つめる。


 真っすぐに向けられるアメジストの視線の強さにジルベルトは頷いた。






「無茶はしないで下さいね」


「無茶はしますわ。そうしないととても勝てない相手ですもの」




 颯爽と歩くその背で、長い髪が静かに揺れた。








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