表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/477

ハクビ・アーリアン・ド・デュトロノミー・デ・キャットジェルリー

イヅナのお家の近くまで来た。

長い一日が終わろうとしていた。

「すこし、待っててくれるか?」

目の前の通りを曲がると、イヅナの家だってところで俺はそう言った。

「え?はい」

「すまないな。すぐ戻る」

俺はそう言うと、目の前の酒屋へ入っていった。

酒屋には、丸い眼鏡をかけた爺さんが煙草をふかしながら新聞を読んでいた。

「すみません。モリーです」

俺は爺さんにそう告げると、爺さんがこっちをみた。

「ああ、用意してるよ」

爺さんはそう言うと飴色の瓶を持ってきた。

俺はそれを受け取ると、お礼を言い、店を出た。



「待たせたな」

俺は通りで一人星空を見ていたイヅナにそう言った。

「いえ……。それって?」

「バーボンだ。いいやつを頼んでいた」

「お酒ですか?どうして……」

「お土産さ。お父さんへのな」

「お父さんですか?!どうして?!」

「もしかして……お酒飲まなかったりする?」

「い……いいえ!バーボンはお父さんの大好物です」

「ははは、そうだろうな。東部の名産品だもんな。東部の男なら好きだろうなって思ったよ」

俺はバーボンの瓶を持って、イヅナと一緒に歩き始めた。

「なぁイヅナ。もう一個確認なんだけどさ」

俺はできるだけ何ともないって感じで話し始めた。

「はい。なんですか?」

「お前さ……親に魔界に行くって……言った?」



今日の本当の目的はそれだった。

責任って言葉から俺は逃げ続けてきたけど、今回は違う。

きちんとすべてを理解いただいたうえで……何の問題なく魔界へ行く必要がある。

「え?あ……うー」

イヅナは目を泳がせながら、言葉を詰まらせた。

やっぱりな……俺はため息をついた。

「お前ね。それでどうするつもりだったんだ?」

「ど、どうするとは?」

「友達と旅行に行くとでもいうつもりだったのか?」

「そ……それはぁ……」

「お前の悪いところだぞ。そういうのは、もうやめよう」

俺はイヅナにそう言ったが、それは俺に対しても言っていた。

「俺も、そう言う悪いところはやめようと思う。全部は無理だし急には無理だけど……できることは変えて行こう」

「……すみません」

「謝らなくていい。俺もそんな偉そうなこと言えないからな。たださ……」

俺はイヅナの方を見た。

ずっと目を伏せていたイヅナもそれに気が付いて俺の方に顔を向けた。

心配そうな、不安そうな顔をしているイヅナはひどく幼く見えた。

俺は安心させようと、できる限り優しい笑顔を見せた。

「今は一人じゃないだろ?仲間がいる。怖くてもいいし自信がなくてもいい。その時は……俺も一緒に分かってもらうまで話すからさ」

「う……」

「だからもう、一人で敵の基地に突っ込んでいくようなことはやめろよ。あと今日からは隠し事もなしだ」

「はい……。すみません。私が……」

申し訳なさそうに、目を潤ませるイヅナを見て、俺は目線を合わせた。

「人間は弱い。だからみんなで力を合わせるんだ。そうすれば……人間は魔物にも勝てる。だろ?」

俺はそう言ってイヅナの頭を撫でた。

イヅナは恥ずかしそうに、笑って見せた。



「でも、私のお父さん。怒ると、すっごい怖いですよ」

イヅナはそう言った。

俺は笑って返した。

「大丈夫さ。キラースズメに比べればなんだって平気さ!」

なんて言いながら、俺はイヅナの家に赴いたのだった。

そしてすぐに俺はそんな見得を切ったことを後悔した。



丸い眼鏡をかけた白髪で痩身の男が目の前にいた。

男はテーブルに両肘をついて腕を組んで、俺を真っすぐ凝視していた。

男の名前は「ハクビ・アーリアン・ド・デュトロノミー・デ・キャットジェルリー」。

イヅナの父親だった。

異様な迫力を持った男で、まるでその眼差しは刃のようだった。

俺は冷汗をだらだら流しながら、左手に抱き着いているイヅナのぬくもりだけを支えに、そこに座っていた。



イヅナの家は暗かった。

イヅナの家は二階建ての住宅だ。

親子二人と考えると、だいぶと広い家のように思えた。

二人なら……だが。

イヅナの父親が何を考えて東部からこっちに来て、そしてこの家に住んでいるのか。

それをはかることは今の俺にはできないが、何かしらの想いは感じていた。


イヅナの家の隣には小さな小屋があり、そこには灯りが見えた。

「あそこが、工房か?」

「はい。大昔にここに工房があったらしいです。その残りカスだって、この家を紹介してくれた方は言ってました」

「そうか。残りかすってことは、前は普通の工房があったんだな」

「結構大きな工房だったらしいです。詳しくは知りませんが……」

「そうか、結構運がよかったんだな」

「ですね。父もそう言ってました」

そんな話を軒先でしていると、家に明かりが灯った。

「あっお父さん」

イヅナがそう言うと、灯りは玄関に近づいてきた。

そして、すぐに玄関が開いた。


そこに立っていたのは片手にランタンを持った小柄で白髪の男だった。

第一印象は、小さいし……それに思ったよりも普通の人だ。だった。

丸い小さな眼鏡を鼻にかけて、チョッキに黒いズボン。

なんていうか本当にそこら辺にいる、おじさんって感じだった。

「ただいま」

イヅナがそう言うとおじさんはにこりと笑った。

娘を待つ心優しいお父さんって顔だった。

なんだ、すごくいい人そうだ。

俺はそう思った。

お父さんは、すぐに俺の方を見た。

「あっどうも、初めまして、俺はモリーって言います」

俺はそう言ってお父さんに頭を下げた。

その時に違和感に気が付いた。

何の音もしない。

返事も、こっちに近寄る足音も、何も聞こえなかった。

俺は恐る恐る顔を上げると……目の前にお父さんがいた。

「どうも……」

急に目の前にいたので俺はビビったのだが、お父さんは静かにそう言った。

「ど……どうも」

俺は苦笑いした。

どうやら歓迎はされていないようだった。



「イヅナ、この人は?今日はお友達とお祭りに行くんじゃなかったのか?」

お父さんはイヅナにそう尋ねた。

「この方はモリー様!今日一日付き合ってもらってたの」

「付き……合う?」

お父さんは眼光を鋭くし、俺を睨んだ。

「そうか。お祭りは楽しかったようだね」

お父さんは俺からイヅナに目を移し、そう言った。

「うん!いろいろなこと見せてもらったし、教えてもらったの!私あんなすごいの……初めてだった!」

イヅナがそう言うと、お父さんの眼鏡にひびが入った。

「ははは、そうか。楽しかったんならよかった」

お父さんはそう言うと、イヅナの頭を撫でて、そして俺の方を睨んだ。

「お祭りに連れて行ってくれたん……ですね?」

お父さんは俺にそう確認してきた。

俺は、はいと返事した。

「失礼ですが、あなたは?娘とはどういうご関係で?」

お父さんは当然の疑問を口にした。

「ええ、娘さんとの関係につきまして……そのお父さんにお話がありまして……」

俺はしずしずとそう言った。

その言葉にお父さんは反応し、眼力を強めた。

その目線が……鋭く俺に突き刺さった。

「あなたにお父さんと呼ばれる筋合いはありませんが……」

お父さんはきっぱりとそう言った。

「ああ、すいません……。えっと……」

「ハクビです。ハクビ・アーリアン・ド・デュトロノミー・デ・キャットジェルリー」

「あっ僕はモリーです。モリー・コウタ。こう見えて冒険者です」

俺は苦笑いしながら、改めて自己紹介をした。

ハクビさんはそれを聞いて、不審者を見るような眼をしていた。

「そうですか。それでお話とは?」

「ああ、はい。実は今度……娘さんと魔界へ行きたいと思いまして……」

俺がそう言うとハクビさんは驚いたような顔をした。

そして、イヅナの方を見た。

「あの、こんな夜分に失礼なのは分かってます。でも、重要なお話なんです。ご都合が悪いようでしたら後日でも……」

「ああ、そうですね……。いえ、大丈夫ですよ。とりあえず、ここでは迷惑にもなりますし、詳しいお話は中で……」

ハクビさんはそう言うと、イヅナの背中を押して俺に背を向けた。

「さぁイヅナ。とりあえず……お家に入ろう」

イヅナはうんと答えて、ハクビさんと共に玄関に向かった。

俺みたいなのが入り込む隙なんて無い……幸せな親子って感じだった。

俺はその後を、若干の申し訳なさを抱きつつ、無言でついて行った。



お家にお邪魔してすぐに、俺はリビングに通され、テーブルに着いた。

俺の正面にハクビさんが座っていた。

イヅナは荷物を部屋に起きに行っていた。

その間……俺達に言葉はなかった。

しばらくすると、イヅナが帰ってきた。

無言で対面している俺達を見てイヅナが俺の左隣に座った。

ハクビさんは両肘をついて、腕を組み、俺を黙って見ていた。

「これ、どうぞ……」

俺は独特の空気を打開しようと、バーボンの瓶をハクビさんに手渡した。

すると、一瞬ハクビさんの顔が緩んだような気がした。

どうやら、酒が好きなようだった。

「ありがとうございます」

ハクビさんはそれを受け取って、ラベルを見た。

このバーボンは思い付きで入って買ったものじゃない事前に話を通して一番いいのを頼んでいた。

だから……勝機があった。

「わざわざこんな……ありがとうございます」

ハクビさんは表情こそ変えなかったが空気が柔らかくなっているのを感じた。

今しかない。

俺はそう思った。


「あの、実は僕たち冒険者PTを組むことになったんです」

俺はハクビさんに切り出した。

「そうですか。冒険者PTというならほかにもメンバーがいるのですか?」

ハクビさんは落ち着いてそう言った。

俺はこういう時は頭で考えるタイプじゃない。

真っすぐ事実だけ言おうと思う。

「僕と、ここにいるイヅナとあと、彼女の友達で、ドクダミちゃんとその従者のレイシーという四人です」

「ドクダミちゃんとレイシーちゃん……」

ハクビさんはどうやらその二人とも面識があるようだった。

「何度か、話したことあるよね!あの二人だよ!」

イヅナが横から援護してきた。

「そうか……」

ハクビさんはそれだけ言って、また黙ってしまった。

その後はまた気まずい空気になり、しばらくしてハクビさんが眼鏡をかけなおした。

「モリーさん、あなたが娘を誘ったんですか?」

ハクビさんはゆっくりとそう言った。

「私がモリー様を誘ったんだよ」

イヅナがそう言った。

「行きたいところがあるの。そのために、モリー様に付き合ってもらうことになったの」

「付き……合う?」

ハクビさんはその言葉に反応した。

それを見てイヅナは何を思ったのか俺の腕に手を回して来た。

俺は思わずイヅナを見た。

その瞬間ハクビさんの方から物音がした。

見ると、さっき渡したバーボンの瓶が倒れていた。


ハクビさんはゆっくり手を伸ばし、バーボンの瓶を立て直した。

コロナワクチン二回目の接種で死んでましたが、回復しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ