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ステーキとプリンパフェ

イヅナが目の前に置かれた、熱々の鉄板にくぎ付けになっていた。

ほあああーっと気の抜けた声を漏らし、目をキラキラ輝かせて、口からよだれをだらだら垂らしていた。

餌を前に待てをする犬みたいだなと思った。

「おお……思ったよりもすげぇのが来たな」

今、俺達の目の前には熱々の鉄板があり、その上には油滴る霜降り肉がレアに焼き上がっていた。



試合の後、観客たちの興奮はなかなか冷めなかった。

ウーティは床に転がるチャンピオンに手を差し伸べると、お互いの健闘を称えた。

それを見た観客が舞台上に物を投げ始めた。

持ってたゴミから、コインから、ぬいぐるみや、お菓子や、いろいろな物が宙を舞った。

投げ込まれた物資は勝者のおひねりになる。

ウーティはそれに応えて、舞台上で次々ポーズを決めていた。

「ありがとー!」「破産だ!バカやろー!次は儲けさせろよ!」

いろいろな歓声と物が飛び交う中、俺はこっそりと賭け金の換金所に向かい賞金を手にすると、さっと逃げた。

「おいおい、兄さん。そんだけ勝っといて勝ち逃げする気かよー!もういっちょ大きく賭けてけよー!」

仕切りの男の追いすがる言葉を背中に俺達は人混みからさっと逃げた。



「お待たせしました。付け合わせのサラダとスープです」

きれいなウェイトレスのお姉さんが、サラダとスープを運んできた。

ここは、冒険者通りの路地裏にあるステーキハウスだ。

二階建ての肉屋の上に構えるレストランで、最高級のステーキが食えるともっぱらの噂だ。

名物は、霜降りサーロインステーキ400g。

お値段驚きの銀貨一枚。

俺とイヅナのを合わせたら……俺の家賃の一か月分だ。


噂通り、ここはセレブ達御用達の店らしい。

どの席を見ても、雰囲気から上品な連中しかいなかった。

こぎれいな恰好していてよかった。

ぎりぎりだがここにいても不自然じゃない……と思う。

だが、やはり纏う雰囲気からなのか、若干浮いているのは感じていた。


ウェイトレスが持ってきた、小さなサラダボウルとオニオンスープがテーブルに置かれた。

これで、やっとすべての料理がそろった。

テーブルの上には、コーヒーとオレンジジュース、山盛りのライスにスープとサラダ……それに噂の一人前銀貨一枚という最高級ステーキ、400gが乗っていた。

「それじゃ……そろったようだし……」

「はい!はい!はい!」

「手は洗ったな?」

「もちろんです!」

「そんじゃ、手を合わせて……」

「いっただきまーす!」

イヅナが手を合わせて大声でそう言った。

気のせいか、周りの客に見られてる気がするし、なんなら微笑まれている気がした。

なんとなく、気恥ずかしくて俺はできるかぎりほかの席の方を見ないようにしていた。

イヅナはナイフとフォークを素早く持つと肉に切りかかり……そしてあっという間に口に運んだ。

「ほうぅああ~。頬がおっこちそうでふぅ~」

肉をほおばりながらイヅナがとろけていた。

俺は苦笑いしながら、肉を口に運んだ。

おお、確かにこれはうまい。

「口に入れた瞬間……肉がもうとろけてます。これはもうプリンですよぉ……。油も甘くて、ソースはスパイスが効いてて……もうこれはプリンですぅ~」

イヅナは良く分からない感想を述べた。

なんだこいつ?プリンの方が好きなのか?

「そうだな、さすがにうまいな。じゃ、デザートはプリン・ア・ラ・モードにするか」

「みゅりんあにゃもぉうろぉ?!」

「うん。口に物入れながらしゃべるのはやめような」

俺は夢中で肉をほおばるイヅナを見て、ほほえましく思った。

こいつは、すごいな。

なんでも、夢中になれる才能があるみたいだ。

楽しそうな人生だ。

なんて、考えて俺は首を振った。

なに言ってんだ俺は……。

俺だってまだまだこれからじゃないか。

冷めてる暇はないぞ、お前は火の魔術師だろ?

そうさ……大人ぶるにはまだ早い。

俺は自分にそう言い聞かせると、イヅナに負けじと熱々の鉄板に向かい、肉を思いっきりほおばった。



「もう私……死んでもいいですぅ……」

きれいなカフェのテラス席で、イヅナはしみじみとそう言った。

「そんなにうまいか。そのプリンパフェ」

「はいぃぃぃ……もう口の中がよだれの大洪水ですぅ」

「汚いな……」

俺達はステーキを食った後、魔術通りに向かい、おしゃれなカフェに入った。

魔術通りには学者が集っているからなのか、デザートやスイーツの有名店が多い。

俺達はプリンを求めて、魔術通りを腹ごなしついでに散策していた。

本通りを歩いていると、イヅナが突然立ち止まり、横道の先にある、きれいな看板を指さした。

魔術通りの本通りからは少し外れていて、ちょうど建物の陰になっていた。

その店の周囲は驚くほどに静かで、涼しかった。

ちょうどいい雰囲気だなと思い、店の前まで行って、看板を見るとそこには「特性プリンパフェ」と書かれていた。

プリンかパフェか悩んでいたイヅナは天啓を得たというような表情を見せた。

俺は苦笑いしながら、目を輝かせるイヅナを連れてその店に入ったのだった。

「確かに、うまいな。過度に甘すぎず俺でも食べやすい」

「もふれふねぇ」

「口に物を入れてしゃべるな」

「ふあい」


「それにしても……おいしいステーキでしたねぇ……」

デザートを平らげたイヅナが満足げにバナナジュースを飲みながら、しみじみそう言った。

「ステーキソースってあれはもう、魔法ですよねぇ……。あれを付けたら何もかもがおいしく頂けちゃいますねぇ……」

「なら人参もきちんと食えよ」

イヅナはステーキハウスでも、同じことを言っていた。

つけあわせのブロッコリーや刻まれた玉ねぎに感動しながらそう言ったのだ。

俺が残さず食えよというと元気にはい!と返事した。

その直後に、ぶつ切りの人参をつまみ、俺の鉄板に乗せてきたのだ。

「おい?」

「え?てへへ!」

イヅナは下をぺろっとだしておどけて見せていた。


「いやぁ、なんででしょうね?人参だけはちょっとぉ……」

「冒険に出たら好き嫌いは受け付けないからな?」

「ええー!人参だけは勘弁して下さいよぉ……」

「ああいう、根菜類は日持ちするから重宝するんだけどなぁ」

アフタヌーンティーを飲みながらゆったりしていると、なんだか気怠くなってしまった。

いろいろ行こうと思っていたが……最後までこうしててもいいかな、なんて思った。

イヅナもそう思っていたのだろう、俺達は少なくなった飲み物をちびちびやりながら……雑談をつづけた。



15時を知らせる鐘が鳴った。

真夏の陽射しが少しずつ傾き始めていた。

「もう、こんな時間なんですねぇ」

「そうだなぁ」

俺達はぼーと宙を眺めながら日影の静かなテラス席で涼んでいた。

「そろそろ行くか?」

「ですねぇ……」

「いろいろ行こうと思ってたが……こう休んじまうとどこにも行く気おきないな」

「はは……ですねぇ」

「ま、そろそろ夜店が出始める頃だから少し遊んで……帰るか」

「はい!」

イヅナはそう言うとわずかに残っていた飲み物を飲み干した。

「よし、行こう」

俺達は席をたつと、支払いを済ませて店を出た。

「いいお店でしたね」

「そうだな。今度はみんなで来よう」

「みんなで……ですか?!」

「ああ、いつまでもドクダミちゃんのお宅に世話になりっぱなしってのは悪いしな。それに話し合いするにはいいロケーションだ」

「確かに!それいいですねぇ!会議が楽しみになりますね!」

「そうだな……」

いい場所を見つけたな、なんて考えていたら、腕にあたたかな温度を感じた。

イヅナが自然に俺の手を握っていた。

視線をイヅナに移すと、イヅナが大きな瞳で俺を見つめ返して……にっこりと笑顔を見せた。

その笑顔がなんとも小悪魔的だった。

多分、こいつ……その内、モテるようになるんだろうな。

「どうしたんですか?」

「うん?別に?」

「そうですか」

「イヅナ……何かやりたいこととかあるか?」

「えー実は、私……縁日とかお祭りって初めてで……」

「そうなのか?」

「え、ええ。憧れてたんです!お母さんから……話は聞いてて、楽しそうだなって……」

そう言ったイヅナは寂しそうに目を伏せた。

「今日いけるなんて……楽しみです」

「そうか」

俺はイヅナの頭を撫でた。

「そうだな。うん。ま、来年はみんなで一緒に行こう。お母さんも一緒にな」

俺がそう言うと、イヅナは顔を上げた。

俺はイヅナに向かって、にやりと笑って見せた。

「そうですね!今度は……みんなできましょう!」

イヅナは顔を上げて、元気いっぱいに答えた。



「私、銃が撃ちたいです!」

イヅナが射的の夜店の前でそう言った。

お祭りの前夜祭中は夕方になると、通り中に様々な露店が並ぶ。

出店は一般的なお祭り的な軽食から飲み屋、フリーマーケット的な物まで様々だ。

特に、シャリオン校の生徒たちが作る魔道具市場は人気の夜店の一つだったりもする。

俺も例年、その市場を見るだけは見ている。

俺達はドクダミちゃんの学校が見てみたいという興味もあって、そこに行こうとしていた。

途中で見つけた射的の屋台でイヅナが足を止めたのだった。

「おう、じゃやるか」

「いいんですか!?」

「まぁな、まだ銀貨7枚は使えるからな」

「そんなに!遊び放題じゃないですか!」

「余った分は冒険費用にするから、あんまり使いすぎないようにな」

「はい!」


イヅナの射撃の腕は絶望的にへたくそだった。

何度撃っても的にカスりもしなかった。

「もう一度!」

5度のリベンジの末、俺はイヅナを静止した。

「あきらめろ。現実を受け入れるんだ」

俺は駄々をこねるイヅナを店から引きはがすと、シャリオン校の方に向かった。

「あの屋台のおじさん絶対何かやってましたよ!」

イヅナはぷりぷり怒っていた。

「ずっと、にやにやしてましたもん!銃に弾丸がぶれる細工がしてあったんですよ!」

こいつ、案外負けず嫌いというか……熱くなる性格なんだな。

俺はそれを見て、はははと乾いた笑いがでた。

「あっ!あれ見てください!」

まぁ、またやろうと言おうとした時だった、イヅナが別の店を指さした。

「きらきら輝く風鈴が売ってますよ!」

「ああきれいだな」

「あれは魔除けの効果があるんでしょうか?」

「うーん、いやどうだろうな発光する塗料をぬってるだけっぽくみえるがなぁ」

俺がそう言って、風鈴に目を凝らしていると、袖をひっぱられた。

「モリー様!あっちの赤いのは何ですか?!」

「おう?ああ、あれはリンゴ飴だな」

「リンゴ……飴?!」

イヅナが大きく瞳を見開いた。

「ああ、リンゴ飴だ」

「リンゴ……飴!」

イヅナは目を燦燦と輝かせながら言った。

あんだけ食った後だろ……。


俺は、ため息をつくと……黙って、リンゴ飴を一つ、買いに行った。

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