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蛍灯の前夜祭

おしゃれなドレスを着て、ピンク色の花を飾った女の子と手をつないで歩く。

他人から見たら、どうみても仲のいい親子って感じだろうが、俺達は紛れもなくデート中だ。


「うわ!なんですか?あれ!」

イヅナは通りを彩る、提灯の明りを指さした。

「昨日まではこんなの……ありませんでしたよ!」

中央広場から門をくぐり観光通りに出た。

通りは中央の十字路から、魔術通りや冒険者通りに至るまで色とりどりに飾られていた。

側道には、これまたいろいろな出店が並んでいた。

「ああ、祭りが始まるんだ。今日からその前夜祭だ」

「前夜祭……」

「といっても、五日間続く、そして本祭は……駅と周辺のガリアダンジョンで行われる」

「ほえ……きれいですねぇ」

そう言ったイヅナの瞳を覗くと赤青白色とりどりの光が飛びかっていた。

まるで何百という蛍が飛んでいるかのようだった。

「たしか、蛍灯祭でしたっけ?何をするんですか?」

「冒険者たちのお祭りだ。勇者クレッドの誕生日だとか、クレッドが帰ってきた日だとかいわれてる」

「へー」

「まぁ興りなんてどうでもいいさ。この祭りは冒険者達のお祭りなんだ。それが重要さ」


「本当はな、毎年7月の終わりにやるんだ。でも、まぁいろいろあってな。今年は八月十日になったみたいだ」

俺がそう言うと、イヅナは俺の顔を見た。

「そういえば……その時のお話聞かせてもらえませんか?」

「ああ、いいさ。今日は一日ずっと一緒だ」

「ありがとうございます!あと、お祭りのことも聞きたいです」

そう言った、イヅナの顔は明るかった。

目の前にある光景が全部新鮮で、輝いているように見えているのだろう。

まぶしいくらいの笑顔だった。

俺はその顔に懐かしさを感じていた。

俺も田舎から出て中央に来たばかりの頃はきっとこんな顔をしていたに違いない。

いつからかな……こんな冴えない顔しかしなくなったのは。

いつからだろうかな……。

「イヅナ、お祭りを楽しもう」

俺はそう言うと、イヅナの手を引いて冒険者通りに向かった。



冒険者通りにはいくつかの舞台が特設されていた。

正直ここの催し物はデートにはよくないかもしれないが……。

蛍灯祭といえば、これは避けて通れない。

「うわぁ、人がいっぱい……」

「はぐれるなよ」

俺はそう言うと、困惑するイヅナの手を強く引いた。

人込みを俺は体でかき分けて進むと、開けた場所に出た。

「あっ、ここは!」

イヅナが声を上げた。

「ああ、そうさ。来たことあるだろ?」

そこはすべての冒険者の登竜門である冒険者アカデミー、その入り口だった。

冒険者アカデミーの校門には広く大きなスペースがある。

武器を運んだりするから、大型の馬車が通れるように広くとっているらしい。

ここに通う冒険者の卵たちからはこの場所は、そのまんまだがアカデミー広場と呼ばれていた。

祭りやイベントがあった際にはこの広場が拠点とされる。



イヅナは様変わりした、懐かしき広場を見回した。

「懐かしいです……て、言っても、ついこの間まで通ってましたけど」

「そうか」

通ってはいたんだっけか。

「で、でも……こんな舞台とか……それにあんなものはありませんでした。あれなんですか?」

イヅナはそういうとアカデミー広場に特設された謎の掲示板を指さした。

「ああ、あれはな……オッズ表だ」

「オッズ……?」

「見ればわかる」

俺はそう言うと、イヅナの手を引いてメインステージの前に行った。



俺とイヅナは一番大きなメインステージの前にきた。

メインステージの上には、今、2人の男が神妙な面持ちで鎮座していた。

「も、モリー様!何が始まるんですか?」

「ああ、見てれば分かるよ」

俺がそう言うと、イヅナは人混みの中で必死に背伸びしながら舞台を覗こうとしていた。

「見えるか?」

「う……あ、あの……」

「イヅナ、こっちにおいで」

俺はそう言うと人込みを分けて屈んだ。

イヅナは「はい」と返事すると、こっちに身を寄せた。

「よし、肩に乗れ」

俺はそう言うと背中をイヅナに向けた。

イヅナは再び返事すると、勢いよく俺の肩に乗った。

「うわぁ!すごい!」

俺の頭の上でイヅナが声を上げた。

「こんなに人がいたんですね!掲示板いっぱいある!それに奥の校舎の方見てください向こうにもなにか灯りが!それにそれに!」

「ああ、わかったわかった。全部行こう。俺と一緒なら大丈夫さ。全部見れるさ」

「あっ見てください!モリー様!キラースズメの焼き物がありますよ!ぜひあれも食べましょう!」

「ああ、そうだな」

一向に興奮が冷めやらないイヅナに、俺は苦笑いした。



「紳士淑女の皆様!おまたせしましたー!」

しばらくして、派手な服を着た、シルクハットの男が舞台に上がった。

「本日二戦目が今から行われます!選手はこの二人!」

司会者が叫ぶと、舞台上に座っていた一人が立ち上がった。

「ビーガーの炭鉱夫!岩盤砕きのビートル!」

「うおおおおお」

ビートルと紹介された男が叫ぶと、群衆が沸いた。

「ビートル!」

「やっちまえ!」

「頼んだぞー!飲み代はお前にかかってるんだー!」

ビートルが椅子に着くと、その隣にいた男が席を立った。

「続きましては、荒波の吹き荒れるバルトの男!荒波渡りのシーガー!」

「いいやああああ」

今度はシーガーが叫んだ。

そしてまた群衆が沸いた。

「OK!二人とも気合は十分だ!次はオッズを見てみよう!」

司会の男はそう言うと舞台の後ろにある掲示板を指さした。

掲示板の方を見ると、そこに高梯子の上に座った男が指を振ってサインを送った。

「なんとぉー?!意外や意外!ビートルが2.0倍!シーガーは1.1倍だー!人気ではシーガーの方が有利かー?!」

司会者の言葉にまた、群衆が沸いた。

「みんな、予想はどうだ?!ベットは勝負の準備が整うまでは受け付けているぞ!さぁみんなはったはったー!」

司会者がそう叫ぶとイヅナが俺の頭をぽんぽんと叩いた。

「モリー様!これってもしかして賭け事やってるんですか?」

「ああ、そうだ」

「ええ?!でもそれって違法なんじゃないんですか?こんな白昼堂々とやってもいいんですか?」

「いや、ダメだけど。祭りの間だけは、黙認されてるんだ」

「そうなんですか?!」

「ああ、ほらあそこ見てみろ」

「あっ!あの人!双子の憲兵さんだ!」

そこには、ドクダミちゃんの家に行く前に検問を張っていた憲兵の二人が白い紙を持ってつったっていた。

「そうだ。取り締まる側のあいつらもいるんだ。問題はないのさ。あとイヅナは知らないだろうが、あそこのおっさんもそうだぞ」

「へぇ~、でもなんで今日は大丈夫なんですか?」

「ああ、蛍灯祭は冒険者のお祭りだって言ったろ?」

「はい」

「昔はな。冒険者たちが決闘したんだ」

「け、決闘ですか?!」

「そうだ、自らの技を見せて最強の冒険者を決めるお祭りなんだ。祭りが続くうちに前哨戦でいろんな勝負が行われ始めたんだ」

「ほえ~」

「まぁ、そうなると自然に……な、始まるもんだろ?賭け事ってのはさ」

「ええ……?そんなものですか?」

「そうなんだよ。冒険者って奴らはそうなんだ」


そんな話をしているとステージ上の二人の男は用意されたテーブル越しに向き合っていた。

そこにいた群衆が固唾をのんでステージ上を見ているとステージの脇から、大量のホットドックが盛られた皿が運ばれてきた。

「え?え?あれ……もしかして?」

「予想の通りだ」

話していると、司会が小さなゴングを持って現れた。

「さぁー!ここに用意したのは20個の特大ホットドッグ。ルールは簡単、先に半分食った方が勝利だ!ゴングが鳴ったら勝負は開始!勝った方は……賞金銀貨5枚だ!」

司会がそう言うと会場中から拍手が響いた。

「準備はいいな?それでは……」

司会は手に持ったゴングに向かって小さなハンマーを振りかざした。

「レディ……ゴー!」

司会の叫びと共に、ゴングが高らかに鳴った。


ゴングと共に周囲は熱狂に包まれた。

舞台の周辺からは、怒号のような声援が舞台上の二人に浴びせられていた。

「う、うわぁ!」

イヅナがそのあまりの熱気に気圧されていた。

振り落とされないように、俺は無言でイヅナの足を掴んだ。

イヅナも俺の頭に抱き着いた。

舞台の男どもは、必死でホットドッグを喰っていた。

一人はホットドックを両手で丸めて口に運ぶ。

もう一人は天に向かって口を大きく開けて、飲み込むかのようにホットドックを喰っていた。

俺達は夢中で二人を見ていた。

そして、決着の時はすぐに訪れた。

異変は誰の目から見ても明らかだった。

軽快にホットドックを丸めて飲み込んでいた、シーガーの顔が突然みるみる赤くなっていった。

シーガーの顔が苦痛にゆがむ。

「あっあれ……」

「詰まらせたな」

ルール上飲み物はない。

周囲の男たちがざわつき始めた。

「お、おいまじかよ」

「飯代が……」

「かあちゃんにおこられる!」

悲壮感漂う男たちの悲鳴が聞こえる。

「やれ!シーガー!気合で飲み込めー!」

はげあたまの親父が叫んだ時だった。

シーガーは力なく椅子から崩れ落ちるように倒れた。


再びゴングが鳴り響く。

司会者が勝者の片腕を高らかに挙げると、広場中に白い紙が舞い散った。

「うわぁ!これって……」

「負け券だな。勝負の最後はこうなる」

周囲からは悲鳴と歓喜の声が響いていた。

「こ、こんな勝負がずっと行われるんですか?」

「そうさ。いろんな種目でこれを5日間続ける」

「た、大変だぁ……」

「ちなみに言うとな、これは予選だ」

「よ……予選?」

「そうだ。ここで勝った奴は決勝に行く。それがガリアダンジョンで行われる本祭のメインイベントだ」

「へー」

「その最後の最後は……腕に覚えのある冒険者同士が決闘する。そこで最強の冒険者が決まるんだ」

「最強の冒険者……」

「その決勝大会はものすごい人数だぞ。ここなんて非じゃないくらいな。それこそ国中から人がやってくる」

「そんなすごいお祭りがあったんですね……」

「見に来たことないのか?」

「はい。私、東部からはほとんど出なかったので……」

「そうか。このお祭りの風景が冒険者って奴なんだ。俺が……生きていた世界さ。それを見せたかった」

「モリー様……」

「ま、女の子とデートに来るとこじゃないけどな。別のところに行こうか?」

「いえ!私もう少し……この光景が見たいです!」

「疲れないか?」

「私……こういうの好きかもしれません!それに……」

「それに?」

「い……いえ……そのぉ……」

イヅナは言いよどむと俺の頭にしがみついた。


「お。おい?」

「もう少し……こうしてたいです」

「え?」

イヅナが何か言ったようだったが、周囲の歓声でよく聞こえなかった。

「なんでもありません」

「え?なんだって?」

「何でも!ありませーん!」


イヅナは歓声に紛れるのをいいことに、腹の底から天に向かって……気持ちよさそうに叫んだ。

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