拝啓、イヅナ・ビクトーリア様 ~心を込めた手紙とポッポの歪な愛情。そして、私の母親~
「拝啓 イヅナ・ビクトーリア様
湧き立つ入道雲に夕立を待ちわびる今日この頃、相変わらずお健やかにお過ごしのことと存じます。
隆盛を迎える透き通った夏空に、聳えるように入道雲が浮かんでいるのを見ていると、あなた様の姿が思い浮かびます。
いつも活力に満ちて、まるで背中に翼が生えているかのように、どこまでも飛んでいくあなたの姿を思うと、日々の生きる活力が沸いてきます。
夏空のようなあなたの顔を瞳の裏に浮かべると、いつも活力に満ちた笑顔が浮かびます。
その笑顔が見れる日を、今日も待ち遠しく思います。
先日は、突然の誘いに困惑されたかと思いますが、それは魅力あふれるあなた様ともっとお話ししたいとの想いからでした。
想いだけが先走り、結果、困惑させてしまったことは、一人の人間として未熟を感じて大変申し訳なく思います。
不躾ではございましたが、ご容赦頂ければと思います。
改めまして、あなた様とデートさせて頂きたく、この手紙を差し上げます。
日時は明日の正午前に。
集合場所は、あなた様と初めて出会った、あの噴水の前でお待ちしております。
暑い日々が続きますが、どうぞお体に気を付けて。
あなた様と会える日を楽しみにしております。
敬愛の念を込めて、モリー」
こんな素敵な手紙を貰えるような日が来るなんて思わなかった。
私みたいな、がさつな女にこんな日が来るなんて……。
夢みたいだ!
この手紙は今朝早くに届いた。
そこから身支度して、ドクダミちゃんの家に行くまでに、もう何十回も手紙を開いてしまっている。
手紙を開くたびに私はいろいろな思いが心の底からあふれて来る。
明日はどこに連れてってくれるのかな?どんな格好で来るんだろう?きっとお昼も……普通じゃないよね!
デートってことは……もしかして手とかつなぐのかな?
手……どころか、もしかしてもしかしちゃって、その先もあるのかも?
ということは……もしかしてモリー様は私のことが……?!
なんて、妄想が止まらなくなって、すごくドキドキして……たまらなくなっていた。
でも、時間が経つにつれて、不安も少しずつ出てきた。
そもそも、モリー様は私に何の話があるんだろう。
デートって言っても、モリー様は大人だし……私なんかが隣に歩いてたら迷惑じゃないかな。
かわいい格好とかできないし……。
それにデートなんてしたことないから、作法違いがあったらどうしよう。
そんな不安がどんどんおなかの底から湧いて出てきた。
そうなると嫌な記憶も蘇ってくる。
あの時、あのキラースズメを前に私は無力だった。
それに、いざ戦闘となったら……私は完全に怖気づいていた。
どうすればいいんだろうって、思った。
今まではいつも何をするにも一人だった。
誰かと何かをしたことがないから……私は前しか見えなくて……それでいつも注意されて……。
なんて考えていたら……万が一にも、死ぬんだって思ったら……。
私はうまく動くことも……何か考えることもできなかった。
ドクダミちゃんが言っていた、覚悟が私もできていなかったんだ。
それを自覚した……。
けど、私はきっとまだ……。
私の心の中は今ぐっちゃぐちゃだ。
でも、この手紙を開いて花の香りを嗅ぐと、やっぱりどうしても……ワクワクの方が勝ってしまう。
きっと恋ってこんな感じなんだろうなと思う。
モリー様への気持ちはそれとは違うとは分かるけど、とても近いものだと思う。
モリー様は私にとっては大きすぎる。
そんな感情を持てないくらいは、目上の人で恐れ多い……。
まだまだ、遠くてあこがれの人。
私達を守ってくれて、導いてくれて……。
きっとモリー様は大げさだって言うかもだけど。
間違いなく、私達の救世主だと思う。
私はぐちゃぐちゃの心を逸らせて……ドクダミちゃんのお家まで夢中で駆けて行った。
「ほぁあ~!」
「おお~これは……もう……!もうやでこれは!」
レイシーちゃんとドクダミちゃんに手紙を見せると、二人とも目を輝かせていた。
「や、やっぱり……これもうやばいよね?!」
私達は興奮なのか何なのか、もう言葉がなんにも出なかった。
「おっおあああ~」
ドクダミちゃんが両手をわなわなさせながら天井を見ている。
それを見たレイシーちゃんがドクダミちゃんに抱き着いた。
「やばいなぁ?やばいなードクダミちゃん?!」
「ああ、う……あーうー!」
二人は目の前でいちゃいちゃし始めた。
この二人は独特の世界があって、私は良く置いて行かれる。
「ね、ねぇ?こ、これさ。どうすればいいと思う?」
私は恐る恐るそう尋ねた。
「え?どうするって!?行くしかないやん!」
「い……行くって……。いいのかなぁ?」
「どないしたん!?えらい弱気やん!」
「だ……だってぇ……」
「イヅナちゃんはモリー様のことになったら弱気なんやから!ドンと言って、落とし足ればええねん!」
「お……落とすって……。でも私お洋服もボロしかないし……お化粧なんかも……」
「大丈夫やって!いつも通りのイヅナちゃんで十分魅力的やって!」
「で、でもぉ……モリー様の事だから大人なお店とかにも連れてってもらえるかも……ならこんな格好じゃ……」
「ええい!じれったい!!こっちこぉい!」
レイシーちゃんはそう言うと、おもむろに立ち上がった。
「あそこに連れてくで!ええね?ドクダミちゃん!」
「うっ?うへぇえい!」
ドクダミちゃんは空想の世界からの帰還と同時に立ち上がった。
「行こう!今こそその時ぃ!」
ドクダミちゃんは大きく右手の拳を上げた。
そして二人は私の両腕を掴むと、困惑する私を部屋から引きずり出した。
「ここやで!」
ドクダミちゃんの部屋を出て向こう正面の端の部屋。
階段の真横で、入ったり開けたりしてるところを一度も見たことない開かずの部屋がある。
わたしは二人に引きずられて、その部屋の前まで連れてこられた。
「こ、ここは?!」
「イヅナちゃん……気になってたやろ?この部屋」
レイシーちゃんはそう言った。
確かに……気にはなっていた。
私がドクダミちゃんの家に居候させていただいてた頃。
そのころから目には入っていたけど、聞くに聞けなかった部屋だ。
「イヅナちゃん……ここはね……」
ドクダミちゃんが神妙な面持ちで話し始めた。
「ここは……私の衣裳部屋だよ」
ドクダミちゃんが今まで見たことないくらい真剣な顔でそう言った。
「い、衣裳部屋?」
「そうや……。奥様亡き後……旦那様が阿保ほど買って溜めた、ドクダミちゃんのお洋服がここに全部あるねん……」
「え?それって……」
「うん。小さい頃の話……でもね」
「旦那様のドクダミちゃんへの愛情は……過剰やねん。まさに暴走というか、そう言う感じ」
「うん。ここにある服は……お母さんがいなくなってからの10年間……。必ず3か月に一度の頻度で大量に送られてくる服を封印しているんだ」
「さ……三か月に一度?」
「そう」
「10年間ずっと?その頻度で?」
「そうやねん」
「ちなみに……それって、何着ぐらい?」
あたしがそう聞くと、二人はつばを飲み込んだ。
「一度のプレゼントで送られてくる洋服の数は……」
「約50着」
「ご……ごじゅう?」
「言わんでも、分かるよ。イヅナちゃん」
「正直私もめいわ……、困惑してるけど……悪くて、言い出せないんだ」
「そうやねん。だからこの部屋には年々、いろんな趣向の服が蓄積していっとる……。そして……」
「私はこの10年でこの部屋の服を着たのは……マジで0!」
「つまりは……ここに眠るは、旦那様の愛の自己顕示欲!その残骸!」
「覚悟してね……イヅナちゃん。正直私も……その物量には圧倒されるから……」
二人はそう言うと、大きく深呼吸した。
「な、なんで?着ないの?」
私は疑問を口にした。
二人は私の方を見なかった。
「見れば、分かる」
その横顔は……あまりにも凛々しくって……覚悟を決めた顔だった。
「行こう、イヅナちゃん。私には無理だけど……。イヅナちゃんが勝負できる服があるはず」
そう言うと、ドクダミちゃんは力強くドアノブを掴んだ。
その部屋の中は暗かった。
何とも言えない雰囲気がその部屋にはあった。
私は扉の前で息をのんだ。
二人もその部屋の雰囲気に気おされているようだった。
扉の近くにはいろとりどりの布が見える。きれいに透明なカバーをされて並ぶ布……。
それが果てしなく遠くまで並んでいるのが見えた。
ここからは、向こう側の壁が見えない……。
二人が言ったように……この部屋には何かがある。
そう思える雰囲気だった。
「なんか……ひんやりするね?」
私は扉から漏れる独特の空気を感じていた。
「この部屋はいつもそうだよ」
「妖気が……充満してんねん」
「よ……妖気?!」
「うん。多分……怨念のひとつやふたつはあるかも」
「まぁ……そう言う部屋やから、覚悟してね」
そう言うと二人は部屋に足を踏み入れた。
私も覚悟を決めて、中に入った。
部屋の中は圧巻だった。
明かりを付けて見ると、部屋の中に並ぶ大小色とりどりの……服、服、服、服、服!
その数は私の人生何十人分にも匹敵するほどの数だと推察された。
「やばいね……これ」
私は絶句していた。
「手前から古い順やったね、確か?」
「う、うん。確かにそうだったと思う」
二人の言う通り、手前の服は全部女児用の物だった。
その中に赤い洋服が一着あるのを私は見つけた。
私は思わずそれを手に取った。
「あっ……これ」
それは私の田舎の近所のブティックで店先のショーケースに飾られていた服だ。
そのショーケースの前で、私はお母さんにこの服が欲しいって駄々こねたことがある。
いい子にしてたらねって言ってもらって、そこからは家のことも手伝って、わがままも言わずに頑張った。
そして誕生日になったら……買ってもらうんだって思ってたけど……。
直前にショーケースから消えてて……あの年はすごく落ち込んだ記憶がある。
「どうしたの?」
ドクダミちゃんがその服を見て、呆けている私に声をかけてきた。
「うん。ちょっとね……」
私はそう返すと、その服をそっと戻した。
でも、レイシーちゃんはそれを見逃さなかった。
「なんなん?それ気に入ったん?」
「え?いや……そう言うことじゃ……」
「イヅナちゃん!隠し事は無しやで!私達も覚悟してここに来てんねんから!」
レイシーちゃんが私の肩を掴んで真剣なまなざしでそう言った。
その目には……確かに決死の覚悟が見て取れた。
その瞳は、私にはない……覚悟の火が見て取れた。
私はその瞳に……応えることにした。
「うん……。実はね……」
そして私は昔話を二人に話した。
「そ……そんな!」
ドクダミちゃんが悲鳴のような声を上げた。
「わ……私が……イヅナちゃんの夢を……!」
ドクダミちゃんは生まれたての小鹿のようにプルプル震え出した。
「ははは、でも、もう子供の頃の話だし。それにそのあとお母さんが服を作ってくれたんだよ。それがこの服」
私は苦笑いでそう言うと、今着ている服をつまんだ。
「え?!」
二人は同時に驚いていた。
「今も着てるの?当時の服を?」
「い、いやぁさすがにそれはないよ……。でもねデザインは同じ。子供のころから、大きくなるにつれて誕生日プレゼントは必ずこの服なの」
「ええ……なにそのええ話……」
「うん。だからね。懐かしいし、あの時は傷ついたけど……でも今はもっと好きな服ができたから……なんていうか。うーん、いい思い出かな?」
「ほえ~」
「素敵やん……」
「へへへ……」
私は照れ笑いで返した。
「そんな言われたら……」
レイシーちゃんがドクダミちゃんを見た。
「う、うん。ここの服なんて……いらないね!」
ドクダミちゃんはうんうんと頷いた。
「その服で行こう、イヅナちゃん。それが一番だよ」
「え?そうかな?」
「服は身に着けるその人の内面!イヅナちゃんはその服が一番イヅナちゃんらしいで!」
「そ……そうだけど……」
でも、と私は思っていた。
「きっと多分だけど……でも、モリー様はきちんとしてくると思うんだよね」
私は言った。
「なのに、私がいつも通りだと……ほらだって特別な日だし……ダメかなって……」
「いやぁ?どうかなぁ?モリー様ってほらあんな感じやし……。いつも通りで来るかもよ?」
レイシーちゃんはそう言った。
「いや!でも、それならあの手紙は不自然だよ!あの手紙はモリー様っぽくないでしょ?」
ドクダミちゃんがそう言った。
「これはきっとブレーンがいるよ。ドーソンさんか……誰かは分からないけど。でも分かるのは、モリー様だっていつも通りじゃダメだって思ってるってことだよ!」
私がなんとなくで感じていた言葉にできない感情をドクダミちゃんは感じとって言葉にした。
私は思わず大きく頷いた。
「そ、そうだよ!わたしもそう思ってた!」
「ぬぬ!確かに……。普段通りならこんな手紙書かへんな。日時と場所だけ書いて寄越してくる……」
「そうだよ。それに便せんもおしゃれだし……それにあの筆跡……。書かれてる文字から推察するに、いいペンを使っているよ」
「つ、つまりぃ?!」
「あの部屋にそんな道具がそろってるはずない……。だからきっと文房具屋さんに行ってわざわざ買い物したに違いないよ!」
「あ、あの人がそんなことを?!マジやん!」
「そ、そうだよ!」
「と……言うことは?」
「ここは、イヅナちゃんの言う通り……いつもより気合を入れなきゃだめだよ!」
ドクダミちゃんはそう言うと私の手を強く握った。
「探そう。その服にはきっと敵わないけど……。でもここにある服だって、お父さんが私のことを思って買った服なんだ。きっと見つかるよ……ふさわしい服が!」
「う、うん!」
私はドクダミちゃんの手を握り返して、
「よっしゃ!そうと決まれば……」
レイシーちゃんの掛け声とともに私達は部屋の奥を見た。
「やるしかないね!」
「うん、やろう!」
「よっしゃー!やったるでー」
私達は固く手を握り合うと、10年間眠りにつく歪んでいると言えるくらいの愛情の山に向かって言った。
遠くの方から、夕方を知らせる鐘の音が聞こえてきた。
私達は大量の衣服の上に大の字になって倒れていた。
「もう……こんな時間……」
「うっ……うう……」
「あかん……」
私達は憔悴しきっていた。
途方もない数の試着の果てに……私達はまだ、デートに行く勝負服を決めかねていた。
こんなに大量の服を着たり脱いだりしたのは初めてだった。
そのためか、首元や袖口付近の皮膚がじんじんしている。
きっと真っ赤になってるんだと思う。
服というのは恐ろしいんので、着れば着るほど……なんだか分からなくなってくる。
最終的には似合ってるってなんなのか?服ってなんなのか分からなくなってきていた。
どんな服を着ても鏡の前に立つと、あれ?これさっきの奴と同じじゃない?って思えてきたかと思えば、次はどんな服も全部いまいちに見えてくる。
似合うってなんだ?と疑問に思い始めた辺りで、行き詰まりを感じた。
それの打破の為にドクダミちゃんが蔵書の中からかつて頑張ってみようと志したが、一瞬で挫折したというファッション書を持ちだして来た。
そこで、いろいろな知識を付けて再び試着したが……うまくいかなかった。
結局は、その本の最後の方に書かれていた、「一番のおしゃれは心の底からの笑顔」という言葉を信じ、表情が悪いんだと、笑顔を作ってみても……どれもいまいち。
かと思うと途端に全部よく見える周期もあって……私達はもう何が何だか分からなくなっていた。
「ど、どうしよう……」
わたしは途方に暮れていた。
「やっぱり私のぱーそなるからー?の服で行った方がいいのかなぁ?」
「うん……イヅナちゃん。もう考えるのはやめよう」
ドクダミちゃんは静かに言った。
「付け焼刃の知識に頼っても……空虚だよ。イヅナちゃん。静かに目をつぶって……そして思い起こしてみて……今日のことを」
私はドクダミちゃんの言葉に耳を傾けた。
「そして、思い浮かんだ服があったら……それにしよう。もう、私達には……その直感を信じることしかできないよ」
弱弱しいくドクダミちゃんがそう言った。
私は「うん」と返事すると、瞼を閉じた。
目をつぶって、耳を澄ますと、気のせいかレイシーちゃんの方から寝息が聞こえる。
うん、そうだよね。
疲れたよね。
私は一人心の中で頷いた。
そして大きく深呼吸して、今日のことを思い返した。
終わらせるんだ……。
そう思って私は頭を空っぽにして、漫然と今日のハイライトを脳裏に映した。
自然と、力むことなく……。
波間に漂う流木のように、風に揺れる蠟燭の火のように……。
ただあるがままその身をこの空間に投げ出すイメージで。
全身から力を抜き……、今日のことを思い返した。
しばらくそうやって自分の意識の奥底にもぐっていると、突然温かい光のようなものを感じた。
とても心地よく、そして少しだけ寂しいような光。
私はそこに意識を集中させる。
そして見えたのは……お母さんの顔だった。
そして、その瞳に映る……私の顔が見えた。
「どうしてダメなの?」
「どうしてもよ」
「なんで?!こんなに欲しいのに!」
「ほしいって言ってもね……、お母さんだってほしい物は山ほどあるわ」
「どうしてお母さんは欲しい物を買わないの?」
「そんな余裕家にはないわ」
「そんな……。それじゃあお母さんも悲しいの?」
「え?」
「私、あの服買ってもらえなくて……悲しいもの。お母さんもそうなの?お父さんに腹を立ててるの?」
「いえ?そうじゃないわ」
「なんで?」
「そうねぇ。ほしいものより大切な物があるからかしら」
「大切な物?」
「そうよ。お父さんと、おじいちゃんと、おばあちゃんと……あなたよ」
そう言うと、お母さんは私を撫でてくれた。
「私も……お母さんがいなくなるなら……この服はいらない。そうおもうことにする」
「あなた……いい子ね。そのままいい子でいてくれたら……私は何もいらないわ」
お母さんはそう言うとにっこりと笑った。
「そうしたら……あなたの欲しいもの……。一つくらいは買えるかもね?」
「え?いいの!?」
「そうねぇ……でも、今だけいい子のフリしてるかもしれないし……ずっといい子にしてたら……その時は、ね」
「うん。わたしいい子にしてる!」
お母さんはそう言う私をぎゅっと抱きしめてくれた。
「いい子ね」
私は抱きしめられながら……ショーケースの中の赤い服を見上げていた。
「お母さん」
私は頬に熱いものを感じていた。
そして鼓動が速くなっているのを……感じていた。
「やっぱり、そうなんだね……」
ドクダミちゃんが私のつぶやきを聞いて言った。
「うん……」
私はそう言うと、自然に涙があふれてきた。
ドクダミちゃんはそんな私の頭を撫でてくれた。
私が泣き止むまでずっと……。
すごく暖かくて、優しい手だった。
「話は聞かせてもらいました」
突然薄暗い部屋に明瞭な声が響いた。
「そ、その声は!」
私は目を開いた。
「ま、まさか……!」
ドクダミちゃんが驚愕の声を上げた。
「お、おねぃちゃん!」
レイシーちゃんがそう叫んで……飛び起きた。
「ちゃうねん!これは、イヅナちゃんの一大事で!」
レイシーちゃんが咄嗟に言い訳を始めた。
「例えそうやとしても、一着来たら一着片づけたらええでしょうが!こんなに広げて!どうするつもりやの!」
シルアさんの説教に私達は身をすくめた。
これは長くなる!そう覚悟した時だった。
「って、そうやなくてですね。私が言いたいのはですね……」
シルアさんの雰囲気が何だか変だった。
私達は体を起こして、シルアさんの方を見た。
「ないのなら……作ればいいんですよ」
そう言うとシルアさんはドアの入り口の方につかつか歩いて行った。
そして、あの赤い洋服を取り出すとカバーを外して持ってきた。
「はい。イヅナちゃん、背筋ピン!」
「は、はい!」
シルアさんにそう言われ私は姿勢を正して、まっすぐに立ち上がった。
シルアさんは私に持っていた赤い服を重ねてまじまじと見ていた。
「うん……まぁこれなら何とかなるでしょ」
シルアさんはそう言うと、何かに納得したみたいに、うんうんと頷いた。
「あ、あの?」
私は恐る恐るシルアさんに尋ねた。
「こ、これは……一体どうゆう事でしょうか?」
それを聞いたシルアさんは私の方を見て答えた。
「うん?そうですねぇ……。お答えする前に一つ聞いときたいんですけど……」
「あ、はい。なんですかぁ?」
「その今着てるお洋服って……替えとかありますよね?」
「え?は、はい。入院する前に母が作ってくれた物がまだ……。確かお家に3着ほどは……」
「そうですか!それならいいですね!」
シルアさんは私の答えを聞くと飛び跳ねた。
「イヅナちゃん。今日は泊っていってくださいな。その間に……私はこの服と、今イヅナちゃんが着てる服で、一張羅を作り上げますので」
「え?!」
シルアさんがそう言うと私はたまらず声を上げた。
「そ、そんな事!」
ドクダミちゃんが声を上げた。
「で、できんの?!おねぇちゃん!」
レイシーちゃんが飛び跳ねた。
「できますとも。得意ですよ。なんせレイシーの服はほとんど私の手作りですからね」
シルアさんはそう言うと胸を張った。
「あ、確かに。このメイド服もそうやっけ?」
「そうよ。あんた骨格が普通やないから、作る以外なかったからねぇ」
「あーそう言えばそうやねぇ……」
確かにレイシーちゃんは、ぱっと見は普通の女の子だけど……よく見たらなんていうかしっかりしていた。
「この服をお嬢さんが着なかったのは今日のためですよ。これはイヅナちゃんの服やから。お母さまとの思い出と、愛情のこもった服を合わせれば……きっとふさわしい服になりますよ」
シルアさんのその言葉に、私はまた泣きそうになっていた。
「まぁ突貫工事になるのでね。もしかしたら……気に入らないものになるかもしれませんけど……しっかり作りますから。信じてください」
シルアさんがそう言った。
私はその言葉に首を振ってこたえた。
「う、ううん。きっとどんな服でも、私、気に入ります。だってドクダミちゃんもレイシーちゃんも、シルアさんもそれにポッポおじさんも……。みんなの気持ちが宿った服だから……」
私は涙を拭って、答えた。
「たとえ明日が、私の人生で一番大切な日になったとしても、きっと私胸を張ってその服を着てよかったって答えます。だって、もう二度と着れないと思ってた服を……着れるんですから!」
私がまっすぐそう言うとシルアさんも涙ぐんでいた。
シルアさんはその涙を拭って姿勢を正した。
「そんなこと言われたら……私も気合入れるしかないですね。今日は朝までかけて最高の物を作ります!」
シルアさんがそう言うと、二人がシルアさんに抱き着いた。
「シルアさん!」
「おねぃちゃん。最高!」
それを見て……私もシルアさんに飛びついた。
「ありがとうございます!」
「はいはい。もうわかりましたから……」
シルアさんは私達の頭をなでると静かに言った。
「ほんなら、イヅナちゃん、私の部屋に来てくれますか?採寸とかいろいろしたいので」
「はい!」
「で、お嬢さんとレイシーはここの片づけお願いしますね」
「え?!」
「うげっ!」
「ちなみに、終わるまでは晩御飯抜きやからね」
「うえええええええ!」
「はい。手を動かす!文句言ってても、終わらんよ!」
それを聞いて二人は絶句していた。
私はちょっと悪いなーなんて思いながらシルアさんに連れられて、ドアに向かった。
「ああ、ちなみに採寸とか終わったらイヅナちゃんもこっちね」
そう言うとシルアさんのにっこりと笑った。
さっきまでは天使に見えたのに……今は悪魔に見えた。
「うう……はい……」
私は力なく返事すると……絶望に暮れる友人二人を残し……部屋を出た。
ごめんね。二人とも、すぐに戻るから!
私は心の中で……叫んだ。




