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アルガートンという人間

焦げ臭いにおいがして目が覚めた。

まさか、魔物の襲撃でキャンプが燃やされているのかと一瞬あせったが、どうやら違うようだ。


「ちょっと!そっち焦げてます。はやくあげてください」

「待って待って、今持ってくから」

「おう~がんばれー」

「あなたも!動いて!ください」

「お~怖い。ほら大将。皿はこっちだ」

「ああ、ありがとう。でもこれは、だいぶ薄いね。これにはサラダをよそおうか」

「皿だけにな。ははは」

「はは。そのとりだね。えーとそれならいったんこれはこっちに置いて……」

「ちょっと!だから!先に卵をどうにかしてください!!!」


外が何やら騒がしい。

はしゃぐ大男の声と、ステラの金切り声が聞こえてくる。

どうやらなにかしているらしいな。

俺はまだ起ききっていない、寝ぐせのついた頭でテントから出た。


「おはよう。なにをやってるんだ?」

「ああモリー。おはよう」

アルが振り返り、挨拶を返してきた。

この大騒ぎとは無関係って感じで、いつも通りさわやかだ。

騒ぎの原因はだいたいこいつだ。


「もしかして寝坊したかな。すまない」

「いやまだ時間じゃないよ。僕らが早起きしたんだ」

「それで……料理か?」

そんな話しながらフライパンを覗き込むと、そこには黒い炭が乗っかっていた。

おそらく元は目玉焼きだったと思われる。


「ああそうさ!少しばかり失敗してしまったようだけどね」

「まぁやるだけはやったさ!」

ウーティとアルはなんでだか嬉しそうだった。

ステラは頭を抱えてうつむいている。

「ああ、見事だな」

「案外、火加減というのは難しいものだね」

「なんでこうなっちまったかなぁ」

「火加減とかそういう……手際が、悪すぎますわ……」


キャンプを見回してみると、これは確かにひどい有様だった。

まず、まな板の代わりであろう木の板がウーティの膝の上においてある。

そこに卵の殻や、切った野菜の端材が乱雑に放置されている。

その状態で、近くの荷物に無理な姿勢で手を伸ばしているのだろう。

膝からこぼれたと思われる、クズが足元に散見された。

火の側には水の入ったバケツがあり、これからサラダになるのであろう草がぷかぷか浮いている。

アルを見たら手袋や、服の至るところに卵や跳ねた油がついている。


見るも無残だ。

ステラが手伝わなかった理由がわかる。


「まぁなんだ、その……OK。変わろう」

うまい言葉が出なかった。

「そうだね。残念だが、これ以上食材を無駄にするわけにもいかない」

「だな!頼んだぜ、旦那!」


この後、料理中の一挙手一投足をじろじろ見られて正直非常に邪魔くさかった。

だがまぁこんなに注目されたのは初めてかもしれないので悪い気はしなかった。

目玉焼きをパンの上に乗せだけで、羨望の眼差しを向けられる日が来るとはな……

そんな平和な朝だった。



簡単な朝食の後、俺たちは荷物を整えた。


そうして、ついに冒険の時を迎えた。


「準備ができたぞ」

俺は山のような荷物をまとめて見せた。

それを見て、アルが小さくうなずいた。


「さて、諸君。僕らはこれから冒険にでる。そこでまずは謝罪を。僕のわがままでこれから皆には危険を強いる事となってしまった。申し訳ない。しかしこれは無策な蛮行ない。それは頭に入れておいてくれ。僕は君たちの能力を信じているのだ。もちろん、客観的にこれまでの結果を鑑み、検討を重ねた帰結だと思ってもらって差し支えはない。まぁ、要は、僕等ならやれると思っている」


皆が小さくうなずいた。もちろん……俺もだ。


「僕はこれまでの2度の冒険はどれも挑戦だと思っていた。毎回必ず新しい事をやったし、今回もそれをする。今まで僕たちはそれで成果を上げた。だから今回もそれで成果を上げれると信じている」


そう言うと、アルが無言で俺たち一人一人に視線を送る。


「最後に、君たちに感謝を。今回この挑戦に賛同してくれてありがとう。僕への信頼と受け取る。リーダーとして僕はそれに応える義務がある。僕は最高の仕事を約束する」


アルが腕を振り上げた。力強く。太陽を掴むかのように。


「だから僕についてこい。後悔はさせない。笑って帰ろう」


「おう!」

ウーティが叫んだ。


「まぁ、期待はしてますわ」

ステラは微笑んでいた。


俺は、無言で火をつけ、それを飲み込んだ。


「よしでは、行こう!冒険の時間だ!」


アルの言葉には不思議な力があった。

それは彼の実力と実績から来るものなのか、見た目からなのか。

根拠はないけど俺はそんなちんけな物とは違うと思っている。

多分彼は昔っからこうだったに違いがない。

アルガートンには認められる人間の持つ独特の雰囲気がある。

そしてなにより本人が、心の底から自分の言葉を信用しているのだろう。

皆もそれを感じているから、根拠のない妙な信頼がそこにはあった。

こいつなら、まぁなんかできるんじゃないかって不思議にそう思うんだ。


アルガートンはきっと誰よりも自分を知っているのだ。


そんな彼だからこそ、成功すると言えば、どんな無謀でも、成功すると信じれる。

俺だけじゃないみんなそうだ。


だから、俺も全力で応えようと思う。


その気持ちは決して嘘じゃない。


その気持ちだけは今でも嘘じゃなかったと言える。

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