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夏影、一服

三度目の正直か、さすがに頭がぐわんぐわんしてきた。

だけど、そのおかげか痛みはさほどなかった。

倒れこんだ地面は冷たく、その冷たさが妙に心地が良かった。

「あーお前らね。突然タックルかますんじゃないよ」

俺は言った。

「モリー様ぁ!やりましたよぉ!」

イヅナが泣いていた。

顔面からはいろいろな汁がだだ漏れになっていた。

「わたしぃ……自信がなくて!でもぉやりましたよぉ!」

「ああ、そうだなわかるよ。でもこれからだからな。頼りにしてるぞリーダー」

イヅナは頷くといろいろな汁を俺に擦り付けてきた。

「よかったー!私ももうだめかと思ってましたぁー!」

レイシーも涙ぐんでいた。

「正直旦那さんに怒られる思ってたー!」

「ああ、よかったな。ただお前、後で話があるからな?」

俺がそういうと、レイシーはへへへと笑った。


俺は最後にさっきからずっとすごい量の液体をなすりつけてきているドクダミちゃんの頭を撫でた。

「ぐぅあぐぅああああー」

ドクダミちゃんは顔を上げて何か言っていた。

「うん、落ち着け」

「ううぼぅああうぅうおおおあううう……こっこぉぉぉー」

「うん、とりあえずな、息を吸え?」

俺がそう言うとドクダミちゃんはこーほー言いながらじたばたした。

三人は三人とも何か今日に込めていたものがあったらしい。

合格を聞いて堰が切れたのだろう。

俺は三人が落ち着くまでただ黙って天井を見ていることにした。



冷たい床に倒れ、三人娘を腹に乗せて、天井をただぼーと見ていた。


正直言うと、俺もすでに限界を迎えていた。



今、理解できたがやはり俺の内側には火がついていたようだ。

飲み込んだ記憶はないし、昨夜からなら持続時間が長すぎる。

今、効果が切れたとするなら......点火したのはおそらく、走り出したときだろう。


と、いうことは……。


俺は自分の手を見た。

そして手を擦り合わせた。

道具を使わずに火が出せるようになったのなら、俺は冒険者としてレベルアップしたことになる。

それも……数段飛ばしで。


俺は手を擦り合わせながら集中した。

そして深く呼吸をして、目を閉じた。

瞼の裏に火を映す。

心臓からエネルギーを引っ張るイメージを浮かべる。

それを血流にのせて指先へ流す。

指先の毛細血管から、マグマの噴火をさせるイメージだ。


集中していると指先に熱を感じた。

いける。

そう感じた瞬間……俺は目を開くと同時に掌を天に掲げた。


掌からは赤く輝く火が放たれ……なかった。

うんともすんとも、言わなかった。

……だめか。

まぁそうだよな。

でも……俺は確かに仄かだが、掌に残った熱を感じていた。


俺は確かな手応えを逃さないように、拳を握った。


「何やってるんですか?」

拳を見ているとイヅナが腹の上から話しかけてきた。

「え?」

「今なんかパワーを放ってませんでしたか?天井に向かって」

イヅナが言った。

「見たよね?」

「見たねぇ」

話をふられたレイシーがにやりと笑った。

「ドクダミちゃんもねぇ?」

「う、うん……見た」

三人はそう言うと俺の方を見た。

こいつらいつの間に冷静になってたんだ?

俺は背筋に冷や汗をかいた。

「なにやってたんですかぁ?」

それを察知したかのように、イヅナが愉快そうにそう言った。

「いや、別に……いいだろ、そんなこと」

俺は、はぐらかした。

「ええー?気になりますよねぇ?」

イヅナは後方に向かってそう言った。

「ええ、そうですね。気になりますねぇ」

顔を上げてみると、ポッポがそこに立っていた。

ポッポもうれしそうな顔をしていた。

こいつら……いつもは抜けてるのに見てほしくないとこだけきちんと見やがって。

俺はため息をついた。


そして、俺は事実を話した。


「ほんとうですか?!」

「ほえーそれってすごそう」

「すごいですよ……それ」

三人は感心していた。

「すごいって、でもまぁそうかもだけど、ドクダミちゃんの方がすごいだろ」

俺がそう言った。

「確かに!」

「ドクダミちゃんはすごい!」

「う、ううん。魔法が使えるのは訓練もあるけど生まれつきが大抵なんだよ」

ドクダミちゃんがそう言った。

「そうなん?」

「う、うん。血縁に使える人がいないとまずは使えないよ。それも近い等親で」

「ほえー?」

「つ、つまりぃ?」

阿保二人が間抜けな声を出した。

「モリー様はすごいってとだよ!」

ドクダミちゃんがそう言うと、二人は俺を見た。

「すごい!」

「すごぉい!!」

「すごいぃぃぃぃ!」

三人は声を上げてまっすぐ俺を見てきた。

俺は顔をそむけた。



「さて、お嬢さん方……」

傍らに立っていたポッポが声をかけてきた。

「そろそろ、モリー様も息苦しくなってきた頃ですよ」

ポッポがそう言うと、三人は顔を見合わせた。

そして、そうですねと返事した後俺の腹からおりた。

俺は体を起こして、後頭部をさする。

あー、こぶになっているなこれは。

俺は思わずため息をついた。

「さて……お嬢さん方。せっかく駅に来たことですし……よろしければ私達の仕事場を見学していきませんか?」

ポッポはそう言った。

三人は上体を起こして後頭部をさすっている、俺の方を見た。

三人の目は……輝いていた。

「あーうん。俺は待ってるから、いいぞ。ご遠慮なく」

俺がそう言うと、三人はうれしそうな笑顔を見せた。

「いいんですか?!」

「興味ありますよぉ!」

「み、見たい!」

ポッポはそう言った三人の顔を見るとゆっくりと頷いた。

「では、アプリコットさん」

ポッポは受付でつまらなそうにしていたアッコに話しかけた。

「は、はい?」

アッコが答えた。

「聞いていたでしょう?この子達に駅構内を見学させてあげてください。案内は任せましたよ」

「ええ?!私ですかぁ?」

「そうです、これは新人駅員の登竜門です。駅構内の案内は駅員として重要な仕事です。要人の案内もありますしね。研修中にモノにできれば、あなたのためにもなりますよ」

ポッポがそう言うとアッコは一瞬眉をしかめて、むぅーと悩んでいた。

こいつこんな態度で新人だったのかよ。

「わかりましたぁ……」

しばらくして、アッコはつまらなそうに言った。

「私の娘もいますからね。丁重に案内してくださいね」

ポッポがそう言うと、アッコは、はぁーいと返事した。

そして受付から出てきて、三人を手招きした。

「あなた達!ではこのアプリコットお姉さんが丁寧に!駅構内を案内して差し上げますわ!」

アッコはそう言うと、変なポーズをとった。

「感謝するのですよ!」

アッコは堂々とそう言った。

「アプリコットさん……」

ポッポはその姿を見て言った。

「お客様を案内するんですよ。そう言うつもりで行ってくださいね!」

アッコはそれを聞くとはぁーい!と返事した。



「では、私達は……こっちで少しお話を……」

遠足気分で出て行った子供たちを見送って、ポッポが俺に手を差し伸べた。

俺はその手を取り、立ち上がった。

「ああ、全部話すよ」

「ありがとうございます」

ポッポはそう言うと制帽を取り会釈した。

そして玄関の方を指さした。

「そっちに待合のための椅子があります。そこで、お待ちください」

ポッポが指差した先の玄関口には、ぽつんとひとつだけ椅子が置かれてあった。

周りの物と比べると、なんていうか素朴な椅子だった。

「ああ、じゃ休ませてもらうよ」

「ええ、少し待っていてください。私は何か冷たい飲み物でも持ってきます」

ポッポはそう言うと、受付の奥に消えた。

俺は一人で駅の玄関に向かい、素朴な椅子に座った。

椅子は音をあげて軋んだ。

一瞬大丈夫か?と思ったが、座って見れば案外丈夫で座り心地のいい椅子だった。



俺は椅子に座り、空を見た。

風がそよいでいて、玄関はちょうど日陰で涼しかった。

こうやって落ち着いてみたら良く分かるが、今日の騒動は相当堪えていたようだ。

床に倒れている間は、全身を疲労感が支配していた。

立ち上がろうとしたが……ポッポの手を借りないと立ち上がれなかったほどだ。

そう言うとこも……あいつにはお見通しだったのかな?

こうして日陰で涼んでいると、徐々に体力が回復していくのが分かった。

このまま昼寝したら、最高だろうな。

そう思っていた。

「いいでしょう?」

まどろんでいると突然声をかけられた。

声の方向を見るとポッポが冷えたボトルが乗ったおぼんを持って立っていた。

「ああ、危うく眠りそうだった」

俺がそう言うと、ポッポは笑顔で俺に水の入ったボトルを手渡した。

ポッポは片手に持っていた椅子を置き、少し離れた位置に座った。

「座り心地はいかがですか?」

椅子に腰かけ、ポッポはそう言った。

「ああ、意外に……悪くない」

「お気に召しましたか?それ私が作ったんです」

ポッポはそう言うと恥ずかしそうに笑った。

「そうか、道理でな……」

「え?どういう意味ですか?!」

「いや、素朴なつくりだけどさ。妙に頑丈だから、既製品ぽくはないなって思ってな」

「そうですか」

「いい椅子だよ」

俺はそう言うと手渡されたボトルの蓋を開けた。

そしてそれをポッポの方に向けた。

ポッポもそれに応えて、ボトルを向けた。


「何にします?」

「頑張った今日に、でどうだ?」

俺がそう言うとポッポは頷いた。

「では、今日という素晴らしき日に」

「ああ、乾杯」

俺達はボトルを打ち付けて、口に運んだ。



「一本いかがですか?」

乾杯が終わって一息つくと、ポッポは懐から煙草を出した。

「いいのか?そんな高級品」

「ええ、特別ですよ?」

ポッポはそう言うと口元をゆがませて、俺に煙草を一本差し出した。

俺はそれを手に取り口に運んだ。

ポッポは懐からマッチを取り出して、火をつけた。

「ああ、ちょうどよかった」

俺はその火をマッチから奪った。

そして、ポッポと俺の煙草に火を飛ばし、俺は自分にも火をつけた。

「おお、便利ですねぇ」

「まぁこれくらいしか、特技ないからな」

「あの、こういうのは何ですけども、私にも火をつけてくれませんか?」

「うん?どうした急に」

俺がそう言うとポッポは恥ずかしそうに言った。

「いや、モリーさんの魔術を見ていて、実は一度私も火だるまになってみたいと思いましてね」

「変わってるね。まぁそうか、わかったよ」

俺はそう言うとポッポに火をおすそ分けした。

「おお!これはすごい!」

ポッポは嬉しそうな声を上げた。

「本当にすごいですね!燃えているのに全然熱くはないんですね」

「そりゃな。熱かったらさすがにきついからな」

「しかも夏なのに逆に涼しく感じますねぇ」

「それは不思議だけどなんでか冬ならあったかいし夏ならいい感じになるんだよな」

「ほー予想以上に便利ですね。これは人気なわけだ」

ポッポがそう言った。

「人気?」

俺は首を傾げた。

「ええ、違うんですか?なにせ、あなた以上にいろんなPTに誘われる人なんて見たことないですから」

「ああ、そりゃ、俺が安上がりだからだろ?いつでも暇だし……な」

俺はそう言うと加えていた煙草をふかした。

「そうですか……」

ポッポは顎をさすって空を見ていた。



「にしてもなぁ。ドクダミちゃんの父親があんただったとはな……」

「聞いてなかったんですか?」

「ポッポとは聞いてないな。鉄道員とは聞いてたけどさ」

「そうですか。まあ、あの子は母親似ですからね」

「そうなのか。にしても、水属性で触手状か……そんな特徴的なのそうはいないのにな」

「案外そいうのって気が付きにくいですよね。でも、この狭い世界ですからね。身近な者とそうでもない人が意外にもつながってたりするんですよね」



「にしても、ポッポ・ポルンカーってどこから来たんだ?」

「呼び名ですか?ポッポは鉄道員って意味ですよ。ポッポ屋のポートマルリンカーって呼ばれてて……気が付いたらポッポ・ポルンカーでしたね」

「そうだったのか」

「まぁ、気に入ってますよ」



「鉄道員と言えば……あいつはどうなんだ?」

「あいつとは?」

「アッコだよ。俺が言えたもんじゃないが正直接客態度はよろしくないように見えたな」

「そうですか……。まぁ分かります。ああいう子でありますからね」

「駅員としては大変なんじゃないか?ああいうのがいると」

「そうですね。でもあの子は駅員に向いてますからね。少なくとも私なんかよりも。期待はしておりますよ」

「ええ?向いてるのか?あれで」

「なぜ向いていないと思うのです?」

「なぜって……態度がいちいち高圧的だしやる気があるようには見えないしな……。トラブルメーカーって気がする。ってかそうだろ?」

「そうですね。あの子が来てから、毎日大変ですね」

「そうだろうな……」

「でも、それでいいんですよ。一つ勘違いしておるようですので、お伝えしますが……冒険者は我々のお客様ではありません」

「え?」

「我々は管理する側ですからね。冒険に出たければ身分を証明しろ。真摯に仕事をすることを誓えってのが本来なんですよ」

「ああ、そう言われればそうか」

「そうなんですよ。でも、私はそう言う態度が取れませんから……だからあんまり向いていないなとは思うんです」

「確かにな……でもそのおかげで俺達は助かってるよ」

「ええ、どうしても……甘くなってしまいますねぇ。よくないとは思っているんですけどね」

「そうか」

「問題が起きていないのは幸いです。いや露呈していないだけかもしれません。もう、もしかしたら何かの悪さに利用されているかもしれません……」

「ああ」

「そう言う現状ですから、ゆくゆくはアプリコットさんのような人に、この駅を任せたいと思っています」

ポッポはそう言うとはははと笑った。

「まぁ私がそう思おうとも、すべては上が決めるんですけどね。でも、現場に必要なのは確実にアプリコットさんのような人ですよ」




「クビになった理由をお聞きしても?」

「なんだい、急に」

「いえ、外から見ていた感じ……悪いPTではないと思っていました。とてもバランスが良くて、安定していると」

「そうかい?」

「そうです。しかもあなたは主要人物のように見えました。なのにどうして?」

「ずいぶん買ってくれてるんだな。ありがたいが、俺はそんなできる奴じゃないよ」

「そんなことありませんよ!数多くの冒険者を見てきましたが……モリーさん以上に成果を持って帰る人はいません」

「まぁ、それが俺の売りだからな。ただ、ま、あのPTはほら期待のPTだろ?それくらいできたくらいじゃダメだったってことさ」

「そう、言われたんですか?アルガートンさんに?」

「いや、補助魔術師を変えて見ようと思うとだけ言っていたな」

「他には?」

「いや、何も。それ以上は何も聞いてないしな」

「なんで聞かなかったんですか?」

「え?」

「気になりませんか?自分じゃダメだった理由とか、ほかの補助魔術師ってどんなのを考えているのかとか」

「……あーそうだな。その時はそんな事考えなかったな」

「では、それだけ言われて?」

「ああ、わかったって言って、帰ったな」



「そんな……もったいないですねぇ」

ポッポはしみじみそう言った。

こいつはどうして俺をそんなに買ってくれているんだろう?

「そうかもな。クビにされた時はショックだったけどな」

俺はそう言うと煙草の灰を落とした。

俺は地面に落ちた灰を見ながら言った。

「でも、正直言うと、いまならクビにされてよかったって思ってるよ」

ポッポが俺の方を見た。

「そうですか……」



「そういえば、今日はどちらから?走ってきたとは言ってましたが……」

「ああ、家から来た」

「家というのは……もしかして、私の?」

ポッポはそう言った。

「ああ、いや、家ってのは俺の家だ。ビーガーからだな」

そう言うと、ポッポが体を乗り出して来た。

「え?ビーガーから走ってきたんですか?!」

「うん?ああ、まぁな」

「それは大変でしたね……で、でもどうしてそんな無茶を?」

ポッポの当然の疑問に俺は困った。

「え?あーうーん。まぁなんだ……その方が速かったからかな?」

「そんなに急いでいたんですか?」

「そうなんだ。実を言うとドクダミちゃんの家に着いたのが14時だった」

「え?それじゃ……普通に遅刻じゃないですか!」

「そうなんだ、すまない。キラースズメを言い訳に使わせてもらった」

俺がそう言うとポッポは笑った。

「ははは。転んでもただでは起きない。その根性はさすがですね」



「すこし、安心しました」

ポッポは地面に落とした灰を見ながら言った。

「モリーさんってこういうお話はあんまりしない印象でしたから」

「そうだな」

「少し驚いています」

「ドクダミちゃんのおかげですよ」

「え?ドクダミのですか?」

「それだけじゃない。レイシーも、イヅナも。あの子たちのおかげで……少しは愛想よくしようって思えましてね」

「そうですか」

「ああ、いい子達だ」

そう言うと俺は空を見た。

ポッポは遠く、道の先を見ていた。

「無事に帰ってくるよ」

俺が言った。

「はい」

ポッポは頷いた。


「帰り道は私が用意しておきます」

ポッポが言った。

「安心して帰ってきてください」

「ああ、頼りにしているよ」


俺達は煙草の残りをふかしながら、各々の視線の先をただ、見ていた。

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