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天を仰ぎ、天命を待つ

「お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありません」

しばらくしてポッポがそう言った。

「少々驚いてしまいましたが……みなさんの気持ちはわかりました」

ポッポは大きく息を吐いて言った。

「ですが、それとこれは別ですからね……」

ポッポの顔つきが変わった。

「今回のこの作業は人命に係ることも十分に考えられます。確実な仕事が要求されます」

「ああ」

俺は首を縦に振った。

「承知の上だ」

「そうですか。心構えはわかりました。では、ライセンスを確認いたします」

俺達はそれぞれのライセンスを見せた。

ポッポはその一つ一つを確認した。

意外だったのはレイシーも冒険者ライセンスを持っていたことだった。

そんな話は……聞いていなかったが……。

なんて思っていたら、案の定ポッポの顔が曇った。

「えー、あー、うん……」

ポッポは顔面の筋肉をぴくぴく痙攣させていた。

心の中で何かが戦っているようだな雰囲気だった。

「ど、どうした?」

俺は恐る恐る尋ねた。

「い、いや、あー大丈夫です。ありがとうございます」

そう言ってポッポは一旦俺に全部のライセンスを返却した。

俺は返却されたみんなのライセンスを見た。

俺とドクダミちゃんの物は問題なし。

イヅナのも……依然見たものだ。

しかし……レイシーの渡したライセンスには確かにレイシーの名前が書いてあった。

「レイリシア・モーキンス」

確かに間違いがない、そう書いてあった。

しかし明らかにこの顔は……シルアさんだった。

今よりもだいぶと若いように見えるがどう見ても、シルアさんだった。

俺はレイシーを見た。

「なはははははー、よぉ言われるんですよぉ?実物と比べたら、別人見たいやな~って、実物の方が美人でしょぉ~?」

レイシーは冗談めかしてそう言った。

俺はポッポを見た。

ポッポは冷汗をかきながら目線を外していた。

俺は思わずつばを飲み込んだ。

俺の心の中ではいろいろなモノが戦っていた。

きっと他人から見れば、俺もさっきのポッポと同じ顔面をぴくぴくさせていたのだろうと思う。

「問題は……ないか?」

俺はポッポに念押しした。

「ええ……ええ?えー、ええ」

ポッポは喉の奥に何かがつっかえているような感じだった。

「えっと……まぁあの、“今回は”これでいいよな?」

俺はいろいろ含ませてそう言った。

「ええ、はい、それで大丈夫です」

ポッポはとりあえず受け入れた。



「ええーそれでは……PTのメンバーはこの四人でいいですね?」

「ああ、そうだ」

「PT名等はありますか」

「イナホという」

「イナホ……ですか?」

「ああ」

「では、PTリーダーはあなたということでいいですか?」

ポッポは俺に向かってそう言った。

俺は首を横に振った。

「リーダーはこいつです」

俺はそう言うと、ポッポの前にイヅナを抱え上げた。

「え?ええ?!」

イヅナは困惑していた。

「わ、私ですかぁ?!」

「お前以外誰がいるんだよ。いいだしっぺ」

俺は言った。

「反対意見あるか?」

俺は他の二人を見た。

「異議なし!」

「異議なーし!」

二人は手を上げて元気にそう言った。

「俺も異議はない。決定だ」

「そ、そんな……モリー様がやるもんだと……」

「俺は補助魔術師だぞ?先導するのは役目じゃない」

俺は言った。

「いやか?」

イヅナは俺の言葉を聞いて、深呼吸した。

覚悟を決めたようだった。

「いえ、やります。私が“イナホ”のリーダーのイヅナです」

イヅナはまっすぐポッポを見てそう言った。



ポッポは首を縦に振った。

「そうですね、募集要項には適合していると考えます。まぁ一旦は問題はありませんね」

ポッポは苦しそうにそう言った。

「では……えー冒険の経験などは?」

「ありません!」

イヅナが答えた。

「えー戦闘経験などは?」

「ありませーん!」

レイシーが答えた。

「このPTで何か実績などは……」

「あ……ありませぇん」

ドクダミちゃんが言った。

「なるほど……では、自信はありますか?」

三人は顔を見合わせた。

そして、元気に手を上げて……身を乗り出した。

「それは!」

「もっちろーん!」

「あっ……あります!でっ、できまーす!」

ポッポの目と鼻の先にみんなの手が伸びていた。

ポッポはそれを見て……吐息をこぼした。

笑っているようにも見えるし、呆れているようにも見えた。


「大丈夫だと思いますか?」

ポッポは俺を見て言った。

「ああ」

俺は答えた。

「信じても……いいんですか?」

「もちろんだ」

俺はできる限り胸を張り、まっすぐポッポを見てそう言った。

できるだけ自信があるかのように見せた。

もちろん虚勢だ。

心配事しかない。

でも、その気持ちに嘘はない。

ポッポは俺を見つめ返した。

見たこともない真剣な顔だった。

その顔に俺は殺気すら感じた。

「覚悟はありますか?」

「もとより、命を賭けるつもりだ」

「死ぬ気ですか?」

「死んでも……生きて帰る」

意味不明だった。

自分でも何言ってんだって感じだった。

でも……その気持ちに嘘はなかった。


「わかりました」

ポッポはそう言うと大きなため息をついた。

そして、天を仰いで、言った。

「経験はなく、活動実績もない。ライセンスはありますが……経験者が一名のみの新興PTなんて聞いたことがありません」

ポッポはため息をついて首を横に振った。

「あまりにも危険すぎます。個人の技量は認めますが……それが魔物に通用するかは別です。それにPTでの戦闘経験は個人の経験とは勝手が違います」

ポッポの言うことは真実だ。

優れた個人が集まっても連携が取れなきゃ意味がない。

なまじ個々が強いゆえに……逆効果にもなりえる。

実際俺も……たった一人の暴走で死にかけたことがある。

それも二回も、な。

「なのであなた達を今の段階で冒険者PTと認めるのは難しいでしょう」

ポッポは、真剣な顔で三人を見た。

「実力は認めます。しかしそれであったとしてもあまりにも危険が大きすぎる。魔界とはそう言う場所です」

ポッポは少し苦しそうな顔をした。

「冒険者を管理する責任者として……それは到底認められません」

三人は黙っている。

俺からは後姿しか見えないが、どんな顔をしているかは分かった。

ま、しょうがないさ。

ポッポはあえて言わなかったが……俺が逆の立場でもそうする。

どんだけ許可証があろうと……ポッポはこいつらの嘘を知っている。

その事実がある以上、認められないのは当然だ。

でも、お前らのせいじゃないさ。

俺のせいでもある。

大人として……俺は信用に足る男じゃなかった。

これがもし……あいつなら……。

あいつだったら……。

なんて、言ってもしょうがないか……。

俺は俺として、モリーとして、やるだけの事はやったさ。

俺は目をつぶり、諦めのため息をついた。



その時だった、突然瞼の裏にいけ好かない奴の顔が浮かんだ。

「“僕たち”ならできるさ。だろ?」

あ?何言ってんだ?そう思った時、背後から風が吹いた。

俺は咄嗟に顔を上げた。

初めに目に飛び込んだのは、ドクダミちゃんの顔だった。

他の二人は顔を伏せていた。

だけど、ドクダミちゃんだけは……顔を上げていた。

その横顔が俺のところから見えた。

ドクダミちゃんは不思議と笑っているように見えた。


「ですが……ねぇ」

ポッポが言った。

「透明なキラースズメを撃退した。その実績は認めないといけませんね」

ポッポは帽子を取り、後頭部を掻きながら言った。

なんだか……やけっぱちになっているように見えた。

「それだけでなく、ブロンソンさんを助けてくださったのは……全駅員を代表してお礼を言わねばなりません。もしも、本当に荷物が届かなかったら明日は暴動か……ストライキか……とにかく通常運営はあきらめなければいけない状況でした」

「そ、そんなにか……」

「ここ数日の激務でみんな疲弊してますからね。食事というのは皆さんが思っている以上に重要なのです。それこそ生命線と言って過言でありません」

ポッポは大きく息を吸った。

「その危機を救っていただいたのです。実績は認めねばなりませんね」

うなだれていた三人娘も顔を上げて、再び身を乗り出した。

ポッポはレイシーを見て言った。

「レイシー、あなたがランデルを助けたのは事実ですか?」

「はい!旦那さん。私がランデルの脚を荷物から救い上げました!」

ポッポはよろしいと小さく行った。

「イヅナちゃん。あなたがキラースズメを倒したのですね?」

「は、はい!おじさん、そうです!私とそれに……モリー様の二人で倒しました」

イヅナがそう言うと、ポッポは俺を見た。

「ああ、俺が攻撃を受けて、イヅナが倒した」

ポッポはそれを聞くとゆっくりと頷いた。

「ドクダミ」

ポッポはドクダミちゃんに目線を合わせて言った。

「あなたが乗り越えた試験の内容を教えてくれますか?」

ドクダミちゃんはまっすぐポッポの顔を見た。

「学科試験と、魔法の実技試験。あとは魔物との戦闘試験です」

「そうですか。魔物は何と戦いましたか?」

「キラースズメの強個体の爆裂キラースズメと……オークレイマンゴーレム」

ドクダミちゃんがそう言うと、ポッポが再び固まった。



「え?爆裂キラースズメ?」

「う、うん」

「それに……オークレイマンゴーレム?」

「う、うん」

「一人で倒したのですか?」.

「うん」

ポッポは俺の顔を見た。

俺は頭を横に振った。

俺だって初耳だった。

「本当ですか?」

「う、うん」

「勝ったんですか?一人で?」

「うん……でも……オークレイマンゴーレムは倒せなかった」

ドクダミちゃんがそう言うとポッポは、ほっと溜息をついた。

「そ、そうですよね?一人ではないですよね?途中で先生に助けてもらったんですね?」

ポッポは優しい笑顔でそう聞いた。

子供が失敗しても落ち込まないように優しく呼びかけるそう言うふうだった。

「う、ううん」

ドクダミちゃんは首を横に振った。

「こ……殺しちゃったの……全力を出すしか……私にはできなくて。私がもう少し強かったら拘束して捕まえれたけど……キラースズメにやられすぎちゃって……」

ドクダミちゃんはそう言うと頭を下げた。

ポッポはそれを聞いて再び固まっていた。

「こ……ころ?」

「ごめんなさい。でももう、あんなことにならないように……強くなるって約束したの」

ドクダミちゃんは顔を上げてポッポを見た。

「ここにいるみんなに……殺してしまったゴーレムに……それに、お母さんに約束したから」

ドクダミちゃんはそう言っていた。

なんだか覚悟を感じる言葉だったがあんまり入ってこなかった。

オークレイマンをタイマンで倒せるってそれもう……並の冒険者じゃないじゃないぞ。

ポッポも目をぱちくりしていた。


「そ、そうですか。ドクダミ、あなたいつの間にそんなに……」

そして大きくため息をついた。

その後はあーうー言いながらすこし悩んでいた。

「良く分かりました」

そしてポッポがついに覚悟を決めたようだった。

「今回はあなた達を信じます」


「冒険者PTイナホの皆さん。合格です。あなたたちを冒険者と認めます」

ポッポは三人娘の顔を見て言った。

「あなた達に北部魔界への渡航を許可します」


三人は顔を見合わせた。

そして……。

「やったー!」

大きく叫ぶと三人は抱き合って喜んだ。

例のごとく真ん中に挟まれたドクダミちゃんが苦しそうだった。

「ただし!」

ポッポが咳払いし、語気を強めた。

「それは特例中の特例ですよ。今回の作業は危険性が低いこと。そして簡単な事なので許可したまでです」

三人は姿勢を正しポッポを見た。

「いいですか?あなた達には信頼がありません。この後も冒険者として活動したいのなら……今回の作業を……」

ポッポは語尾を伸ばし溜めを作った。

「安全に!正確に!行う事!やむを得ない場合を除いてあなた方PTは魔物との戦闘を許可しません」

「ええ?!」

イヅナが声を上げた。

「ええ?!じゃありません。これは特例を認める最低条件です。デスウサギ以外の魔物と戦闘を行ったことが判明した場合は罰しますからね!以後冒険には出れないものと考えてください」

そういうポッポはまるで生徒を怒る先生のようだった。

そして三人はそのまま怒られてしゅんとする生徒のように見えた。

ほほえましい光景だったので、俺は思わず笑ってしまった。

「笑い事ではありませんよ!」

ポッポが今度は俺の方を見た。

「あなたも当事者なのですからね。もちろん罰則はあなたにも適用します。きちんと監督してくださいね」

俺は頷いた。

「ああ、分かってるよ。もとより……そのつもりだ」



ポッポはため息をついた。

「私からは以上です」

ポッポは再び天を仰いだ。

三人はこちらを振り向く。

「モリー様……」

「私達ぃ……」

「ご、ご、ご、ごうきゃくぅぅ……」

三人が力を溜め始めた。

「やったー!」

そう言うと三人は俺に向かってダイブしてきた。

「おっおわあ!」


俺は三人に押しつぶされて……固い床に後頭部を打った。

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