大逆転V
「では!どうしましょうか?ボス!」
イヅナが元気に言った。
「元気があるのはいいけど、少し静かにな。気が付かれたらやばいから」
「はい!」
イヅナは元気に返事した。
分かってんのか……こいつ?
俺は怪しんだが今はそんな暇はない。
「よし。いいか、魔物と戦う上で最も重要なのは作戦だ」
俺は三人に向かって話し始めた。
「魔物との戦闘ってのはな、基本的には役割を決めてそれぞれが決められた動きで対処する」
「そうなんですか?!」
「ほえ~なんかイメージと違うなぁ~」
イヅナとレイシーが声を上げた。
「まぁそうだな。それぞれがアドリブで動くとか、派手な動きをして目で会話して動きを合わせて戦うなんてことはほとんどない」
俺は言った。
「詳しく説明してる暇はないから、そこは割愛するぞ。それで、俺たちの作戦だが」
俺の言葉に三人は息をのんだ。
「まず攻撃の威力から察するに敵は普通のキラースズメだ。普段と違う点があるとすれば……ご存じの通り透明なことだ」
「ですね!」
「だが、正直言うとそれはあんまり問題じゃない」
「え?そうなんですか?!」
「そうだ。何故なら攻撃するときは近くに集まっているからだ。それに攻撃力自体も普通だ」
「キラースズメは攻撃するとき、近くに三体寄っていなきゃいけないから……」
「そうだ。見えてなくても風が吹いてきてる方向に確実にいる。そこを気持ち広範囲に攻撃すれば一網打尽にできる。結局、普通のキラースズメの対処法とほぼ同じだ」
「なるほど……」
三人は顔を見合わせていた。
そして俺の方を向いて言った。
「流れはわかりました!で、具体的にはどうするんですか?」
「うん、そうだな。シンプルに行こう。まず俺が囮になって攻撃を受けるから、その隙に後ろからドクダミちゃんが仕留める。これで行こう」
俺は言った。
「ドクダミちゃん、やれるな?」
「は、はい……」
「頼んだぞ」
返事を聞いて俺は頷いた。
「はい!ボス!私達は何をすればいいですか?!」
イヅナが手を上げた。
「そうだな。ドクダミちゃんを守ってくれ」
「ええ?!」
イヅナが不満そうな顔で叫んだ。
「私も戦いたいです!」
イヅナはそう言うと思いっきり拳を上げた。
何とも言えない空気が流れた。
「気持ちはわからんでもない。普通のキラースズメならまぁそういう作戦で行ってもいいと思う。しかし今回の奴は、まだ正体が完全にわかってはいないんだ。念を入れて安全に行こう」
「で、でもぉ……」
「イヅナ。お前の悪い癖が出ているぞ。前にも言ったろ?目的を見失うな」
俺はイヅナに目線を合わせた。
「イヅナ、俺たちの目的はなんだ?」
「そ、それは、キラースズメを討伐することです!」
「違う。俺たちの今日の目的は試験に受かることだ。そうだろ?ここで無茶して、お前が怪我したらどうする?」
「う、そ、それは……」
「さすがにケガした子供を連れてはいけないよ。心証が悪くなる。なんにしても危険な目に合うなら経験のある俺だ」
「そ、そうですね……」
イヅナはそう言うと、しゅんとしてしまった。
「今は我慢してくれ、また冒険に出れれば機会があるさ。頼りにはしているんだ」
空気が少し重くなった気がした。
だが、先達としては無謀を許す分けにはいけなかった。
「よしじゃあ……」
俺は気を取り直し、行こうかと、言おうとした時だった。
目の前にいた、ドクダミちゃんが静かに手を上げた。
「あ、あ、あの、モリー様……」
「うん?どうしたドクダミちゃん」
「あの、イヅナちゃんも戦えるようにした方がいいと思います」
「え?」
意外な一言だった。
「私、今、世界がぐるぐる回ってます。正直うまくいくか分かりません」
ドクダミちゃんが言った。
「そ、それでぇ……この状態から、この木の裏から道を挟んだ向こうまで魔法を飛ばす自信がありません……」
ドクダミちゃんの目は確かに若干ぐるぐるしているように見えた。
「だから、イヅナちゃんが近くから撃つ方がいいと思います」
「体調が悪いのか?」
「モリー様……ドクダミちゃんさっき家に帰って来たんですよ」
レイシーがドクダミちゃんの肩に手を置いて、言った。
「試験で全力出しすぎて、丸一日眠ってたんです。でも今日が試験の日やから無理して帰ってきて……。本当は今すぐにでもベッドで寝かせてあげたいくらいなんです」
「す、すいません……」
「いや、謝ることじゃない。俺こそすまない、気が利かなかった」
俺は悩んだ。
イヅナは特攻隊長だ。
俺らがサポートするから暴れてくれっていう相手にはいいだろうが今回のような対処しないといけない相手にはあまり向いてない気がする。
俺が悩んでいる間、人の気も知らずにイヅナは目を輝かせていた。
「ボス!私やれます!」
「そうか……」
「ダメですか?」
「いや、そうか……うーん、そうかぁ?」
俺は頭を抱えた。
確かにドクダミちゃんの指摘もわかる。
なんだろうか、だが、何か違和感がある。
不自然というか、なんだか……言葉に力を感じない。
出会った日に感じたあの勢いが、今日のイヅナには無い。
でももう、考えている暇もない。
もうこうなりゃ、なるようになれだ。
「わかった。よし、作戦変更だ」
俺は覚悟を決めた。
「行くぞ」
俺はイヅナを肩に乗せて中腰の姿勢で木の裏から道に出た。
手にはドクダミちゃん謹製の氷の盾を持っている。
氷の盾は縦長の形状をしており、俺の体は横からはみ出ているが、肩に乗せたイヅナを防護できるようになっていた。
俺たちの作戦はこうだ。
俺が近づいて、イヅナが電気を放つ。
以上だ。
もう作戦なんて呼べたものじゃないが、こうするよりほかなかった。
「いいか?強風に物怖じするな。冷静によく見ろ。空間のゆがみみたいなのが見えるはずだ。そこを狙え」
「はい」
「脅威は全部俺が受ける。とにかく外すな」
「は、はい」
イヅナの声が震えていた。
「リラックスしろ。大丈夫だ、何回かは耐えれるし、別に倒さなくても退散させるだけでもいいからな」
俺はゆっくりキラースズメのいるであろう茂みに近づく。
出来るだけ音をたてないように、ゆっくりと。
キラースズメは驚かせれば反射的に攻撃してくることが多い。
これはキラースズメは気に入った場所を見つけると、そこを縄張りとして一定期間そこに留まる性質があるかららしい。
なので、逃げるというよりは敵に危険を察知させて退ける方をとる。
その性質を逆手にとって、攻撃させて返り討ちにする作戦だ。
俺は茂みの前まで身を寄せると深呼吸した。
「準備しろ。行くぞ」
俺はイヅナに向けて言った。
「はい!」
イヅナは両足に力を入れて、魔力を両手に集め始めた。
「準備OKです!いつでもどうぞ!」
イヅナの号令と共に俺は勢いよく立ち上がった。
「うううう、おおおおおおあああ!」
俺は渾身の力で叫んだ。
すると、姿の見えない何かが目の前の茂みを揺らした。
そして周囲からスズメの鳴き声が聞こえてきた。
いた。来る。
俺は再び姿勢を低くして全身に力を入れた。
「来るぞ」
俺がそう言うと同時に、突風が俺達を襲った。
襲い来た、突風は心なしか威力が弱かった。
恐らく先の二回で疲れたのだろう。
これは好機だ。
「イヅナ!やれ」
俺が叫ぶ。
「は、はい!」
イヅナはそれに応え、電撃を放った。
電撃はまっすぐゆがみのところに飛んでいった。
ピギィと鳥の悲鳴なようなものが聞こえた。
すると、すぐに風が止んだ。
鳥の鳴き声が茂みの中に響き、木の葉が揺れた。
どうやら、全員を倒せたようではなかったようだ。
まぁだが問題はない。
キラースズメは三体いないと……脅威はない。
俺は肩の上のイヅナの脚を軽く二回叩いた。
「やったな」
俺は言った。
「思った以上にうまくいった」
「あ、あ、はい」
そう言う、イヅナの脚が震えていた。
「緊張したか?」
「いえ、でも、なんだろうわかりませんけど、震えがぁ……」
思えばこいつは初めて魔物に挑んだんだよな。
そりゃ怖いというか、興奮するよな。
「まぁそういうもんだ。落ち着くまで、しばらくしがみついてな」
「はい~」
俺が一息つくと、今度は後ろからタックルされた。
「やった!流石やでイヅナちゃん!」
「う、う、う、すごいよぉ~」
二人が木の裏からたまらず飛び出してきた。
「あ、あ、あ、ありがとう~」
イヅナが震えながら俺の方から降りた。
そして三人は抱擁を交わし、おしゃべりを始めた。
俺はその美しき友情劇を背に、一人茂みの奥に入る。
茂みの奥には、不自然に倒れる雑草が二か所あった。
俺はそこに行き、何も見えないそこを探った。
目には何も見えない。
しかし、俺の手には確かに生き物の感触があった。
俺はもう一か所の方も探ってみた。
結果は一緒だった。
どうやら、二体やれていたようだ。
俺はその二体を拾い上げた。
「さて、どうしたもんかな?」
俺は思案した。
今の俺は手ぶらだ。
マッチすら持っていない。
もちろんこいつらを入れるケージもないし縛る物もない。
と、いってもこんな危険な奴をこのまま放置もできない。
俺はとりあえずそれをポケットに詰め込んだ。
見えないから、生死も判然としない。
もし生きててもポケットの中ならすぐわかるし、というか、それしか方法がない。
俺は念のため周囲を再度確認する。
さっきまで確かに感じていた気配は消えている。
もう一体はもうはるか遠くに消えたようだ。
じゃ、ひとまず安全だな。
俺はそれを確認すると、そのまま茂みを出た。
「あっ!モリー様戻ってきた」
イヅナが俺を指さした。
「ああ、待たせたな」
「ど、ど、ど、どうでした?何かありましたか?」
「ああ、透明な奴が二体落ちてたから拾ってきた」
俺はそう言うと自分のポケットをぽんと叩いた
「ええ?!その中に入ってるんですか?」
「ポケットって!危ないんちゃいますのん?!」
「まぁ二体なら大丈夫だろう。それに放っておくわけにもいかないしな」
「もしかして、それ持って帰って調教したら最強の偵察兵の完成しちゃったりしますぅ?!」
「見えない鳥って確かに強そう!」
「それは無理だろ」
「ええ?!なんでですか?」
「なんでって……んーそんな話、聞いたことないしな」
「でも、可能なんですよね?!」
「いや、無理だよ。魔物は手なずけれないって結論が出てるんだ」
ドクダミちゃんが言った。
「昔、そう言う研究もあったんだけど、結果は無理ってことになったんだ。協力することはあっても共生は無理だってなったんだ」
「そうなの?なんで?」
「分からないけど……人間に対する敵意はどうしても消えないみたい」
「そうなんだ……残念だね」
イヅナがそう言った。
残念、か……。
そんなこと考えたことなかったな。
「お嬢さん方」
俺はぽんと手を叩いて言った。
「談笑もいいが、今はそんな暇はないぞ。ポケットのこいつらもその内、目を覚ますかもしれないしな」
「ですね!」
「ああ!時間がもう15時まわりますよ!」
「急がなきゃな……」
俺はそう言って一歩踏み出した。
瞬間、俺は全身から力が抜けて、膝から崩れてしまった。
俺は地面に突っ伏した。
「だ、大丈夫ですか?!」
「も、も、も、も、も、モリー様ぁ!」
「急にどないしたんですか?!」
三人娘が俺に駆け寄ってきた。
「ああ、大丈夫だ。少しめまいが……しただけだから」
俺はそう言うと、何事もないって感じで、立ち上がった。
流石に、無茶しすぎたな。
クソ……情けない。
冒険に出るかもしれないとなった時から、普段の生活から意識して体力を落とさないように気を付けていたんだがな。
日雇いの仕事も肉体労働系を中心にしていた。
それがこの体たらくか……。
俺は心臓をおさえながらゆっくりと深呼吸した。
心臓は早鐘を打っている。
そして汗が全身から出てきた。
体が活性されすぎている。
落ち着け。
クールダウンするんだ。
俺は自分に言い聞かせていた。
落ち着いて、二、三回深呼吸をするとだんだん動悸も収まってきた。
いける……けど、もうしばらくは火には頼れないな。
「すまないな、心配かけた。行こう」
「はい!でも、無理はしないでくださいね」
「ああ、お言葉に甘えるよ。じゃここからはご自身の脚で歩いてもらってもいいかな?」
俺はそう言って、再びポケットを叩いた。
「立派な遅刻の言い訳もできたし、焦らずにゆっくり行こう」
俺がそう言うと、三人は目をぱちくりさせた。
そして少しして……笑った。
「ほんまや!大逆転Vですね!」
「ピンチを逆に利用するなんて!」
「す、す、す、スマートですぅぅぅ」
俺はため息をついた。
「あのな、これくらいしないと、魔界じゃ生きてけないぞ」
俺はそう言うと、すぐに三人に背を向けた。
自分で言っといてなんだが、あまりにも可笑しくって噴き出してしまったからだ。
一体、本当に何言ってんだ、俺。
まるで肩で風切って練り歩く若造みたいな事を言ってしまった。
でもよかった。ここが、誰もいない所で本当によかった。
例え、赤の他人だとしても、こんなこと言ってる場面見られたらさすがに恥ずかしすぎて憤死するところだった。
「い……いくぞ……」
俺は笑いを堪えながら言った。
「は、はい!」
三人はそう言うと俺の後について歩き出した。
後ろの三人は、「やっぱりモリー様はかっこええな~」みたいな感じで話し始めた。
俺は内心本当にやめてくれと思った。
「私達もスマートにならなきゃ……魔界じゃ生きてけないね」
ドクダミちゃんがそう言っているのが聞こえた。
あれ?これって俺もしかして、バカにされてる?
そんな疑念が浮かんだが……その後もいろいろ盛り上がっていたから、気のせいだろうと思う。
俺は少し安心した。
しかしその後も話題はヒートアップしていく一方だった。
俺は焦りが出始めた。
こいつら……試験の時に余計なこと言わないよな?
どうにか、駅に着くまでに忘れてくれ。
俺は心底そう思った。
若者の興味の移り変わりは早い。
今はこの話題がホットなだけだ。
すぐ冷めるさ。
駅に着くまでには、終わるさ。
そんな俺の気持ちと裏腹に白熱するお嬢様方。
この三人の興味が、他の何かに移ることを……俺は一人祈った。




