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一悶着

バケツを持って、川に下り、持っていた布袋を広げた。

布袋の中には綿毛が詰まっていて、空気を入れると膨らむようにできている。

俺は自分に火をつけ、深呼吸をした。


「わがままの為とは言えしんどいんだよな、これ」


すうっと大きく息を吸い思いっきり布袋に空気を入れる。

空気を入れると、中の綿毛が膨らむ。

しばらくふーふーやっているとバスタブのような形になった。

と言ってもほぼ正方形で大人が膝を抱えれば浸かれるの大きさだ。


それにバケツで水を入れ、火をつけた。

火の魔術には活性の力が宿る。

魔力を持った俺の火は、調整すればいろんな使い方ができる。

水は温まるし同時に布袋には耐久性を持たせることもできる。

両得だ。


少し待つと、いい具合の湯加減になっている。

それを確認し、俺は一旦キャンプに戻ることにした。


「風呂の準備ができたぞ」

俺がキャンプに戻るとまだ雑談が続いていた。


彼等はなんとも熱心だ。情熱があり、仕事に真摯で勤勉で、そしてなによりも若い。

自分の可能性を、信じているのだ。

大人からすれば青すぎるのかもしれないが、夢を持って挑戦する彼等を、俺は尊敬している。


「ありがとう。では、諸君、順番に入ることとしよう。まずはレディからかな?」

「ええ、お言葉に甘えて、そうさせていただきます」

ステラはそう言うとすっと立ち上がり、川に向かった。


「残った者は、各自攻略本を読んでおこう」


「攻略本」かつての冒険者たちがその冒険の記録をまとめたものだ。

皮張りの表紙と、1000ページにも及ぶ紙が挟まった、無骨で分厚く重い本だ。

内容は主に魔界を冒険するための知識が載っている。

魔界の地図や、魔物の生息域、そしてその魔物への対処法等だ。


魔物は皆、魔力を持つ。またその魔力により変移した身体や性質を持つ。

それを魔性と呼ぶ。魔性によりデスウサギですらその跳躍力は5mに昇る。

この魔性というものは非常に厄介だ。

知識が無ければなんの手出しできずにあっけなく全滅なんてこともあり得る。

冒険者たちは冒険に出る前にこの本を読み、ルートと獲物を決める。


準備を怠った者はこの魔界では生きてはいけないのだ。


かつては各PTがそれぞれに攻略法を持っていた時代もあったそうだ。

彼等は情報を隠し自分たちだけの技術として知識を独占していた。


それにより歴史的悲劇が起こる。


その昔、未開地域の大規模開拓を国が計画した。

方々のスペシャリストを集め、最強の大隊を作り上げた。

その人数は50人にも、上ったそうだ。

結果は、不運にも新種の魔物と出会い、あっさり全滅。

独占技術を持っていたPTも無くなり、魔界攻略は20年は後退したと言われた。


これでは一生魔界の開拓は進まないとして、とある冒険者が立ち上がった。

彼等は徒党を組み攻略情報を共有した。

今や全冒険者が知る伝説のPT……


“攻略者”「明日の帳」


現代の冒険者見習いたちが通う、冒険者アカデミーの基となった組織である。

彼等の活躍は目覚ましく、多大な成果をクレッドにもたらした。

その集大成と言えるのがこの攻略本。というか、それを構成する仕組みである。


彼等の噂はまたたく間に広がることとなる。

次々と賛同者が集まり、その成果は一年で一生分とまで言われた。


元は、民間の彼等だったが、今は政府の一部となり、新マップの情報や新しい魔物の情報などを公募し広く一般公開している。

もちろん有益な情報を提供した者には報奨金が払われる。

上級の冒険者達の中には攻略情報を集めるのを目的としたPTもいる。

彼等は、伝説になぞり「開拓者」と言われる。


攻略本は冒険者免許を取った時、一緒に配布される。

冒険において荷物を減らすというのは重要事項なのだが、誰一人としてこの無駄に分厚い本を持たない者はいない。


「今回も西地域でいいんだな」

俺が確認する。北部西地域は過去二回の冒険で訪れた地だ。

今回の冒険の目的はランクの昇格。

文字通りの冒険をするより安定を狙う。


「いや今回は地域を変えようと思う」

アルがいきなりそう言った。当然、初耳だ。

「どこにだ?というか、なんのためにだ?」

目的が見えない。俺はたまらず疑問を口にした。


「うん。今回はレアドロップを狙ってみようと思う」


「レアドロップ」全冒険者が狙う超高額アイテムのことだ。

冒険者の収入源は基本魔物の皮や牙、肉、又は魔界にしかない魔力を持ったアイテム等だ。

それを街まで持ち帰り業者に卸す。


基本は需要の高い消耗品系の油や肉などが主になる。

ステラが凍らせ、俺が大量に運ぶ。

初めの冒険はその手法で冷凍したデスウサギの肉や魔獣の羊毛を持ち帰り一儲けした。


二度目はそれを元手に魔石の沸くダンジョンに入り大量の魔石を運んだ。

魔力を持った石は魔石と言われクレッドの重要なエネルギー源になる。

船や列車も今やほとんどその魔石で動いている。

大量の魔石を政府機関に卸した事により「リカオン」は異例の速さで昇格することとなった。


それもそのはずだ。数的に見れば……その戦果は他PTの二倍近くになっていたはずだ。



「いきなりそんなことを言われても困る」

「うん?言ってなかったかな?」

「俺は聞いてない。ウーティは聞いていたのか?」

「いや、俺も初耳だな」

「そうだったか……困ったな」

困った?何を暢気に……アルは時々こういうところがある。

「で、大将、今回はどの地域に行く気だ?」

「東地域だ」

それを聞いて力が抜けた。北部魔界で一番危険な地域だ。


「無理だ。西に行こう」俺がそう提案する。

「僕達ならいけると思うんだ」

「まってくれ目的が分からない。今回の目的はBランク昇格が一番だろ?」

「そうだ、そのためにレアドロップを狙う」

「この冒険を成功させれば昇格は確実だ。安全に行くのが無難だろ?」

「確かにね。でもね、上を目指さないといけないんだ」

「さっき、皆の安全の帰還を願っていたがあれは嘘か?」

「それは本当さ、当然だろ」

「やってることと言ってることが違うぞ。東は最近新種の報告もあった。危険度は段違いだ」

「僕達なら大丈夫さ」


確かに過去二回の冒険は余裕であったと言える。

全員、良くて5割ほどの力しか出していな印象だった。

不完全燃焼というか、もっとやれるという実感は確かにあった。

と、言ってもそれとこれとは話が別だ。


「どうしたんだアルガートン、準備ができていない地域に挑むなんて。そんな軽率なことを」

「準備はできていると思うよ。僕たちは“対応力”には自信がある」


俺は頭を抱えた。確かに俺たちのPTは何が来ても大方は対処できるだろう。

恐らくアルもそのことは計算できているし、そういう目的で俺たちを集めたのだろうと思っている。

アルは俺達なら北部魔界、すべての魔物を対処できるという“自信”があるのだ。


「ウーティは、どう思うんだ?」

俺だけでは、もうこの頑固者を動かせないと踏んだ。


「俺は、大将に乗るぜ。行けると思うし、金が欲しい」

まじか……正直裏切られた気分だ。

「まってくれ、本気か?新種が出たらどうする?」

「まぁ俺が守るよ。その間に倒し方見つけてくれよ。大将ならできるだろ?」

「ああ、大丈夫だ。任せてくれ」

「まてまて、ちょっと待て。それで対処できない奴が出てきたらどうする?」

「まぁ、その時は……」

「その時だな」

アルとウーティが声を合わせた。

こいつらは本気だ。

下手すれば死ぬんだぞ?正気か?

俺は再び頭を抱えた。


「どうする、モリー。無理強いはしない」

「どういうことだ」

「賃金は払うよ」

「ステラの意見を聞こう」

「それはそうだね、僕等だけで決めることじゃない」

勝手に決めたくせに何言ってるだこいつは……

何度目かわからないため息をついた。

「あとな。帰る気は毛頭ない」

俺は言い切った。

アルは心なしかうれしそうな表情を見せた。ような気がした。



俺達はその後、何も喋らなかった。

各々が東地域の攻略情報を黙々と読んだ。


北部魔界東地域。

北部魔界は平原が多い地域だが、東地域は森が広がる。

なだらかな山となっており、川や泉もあり自然豊かだ。

それ故、多種多様の果物や魔獣がいる。

また山肌には横穴が散見される。

横穴……つまりは魔物の巣である、通称「ダンジョン」である。

魔物は地の底から湧く種族もあり、その近辺から新種が発見されることが多い。


しかし、その危険に見合ったアイテムがある。

魔物が多いということはそれだけ魔力が籠っているということだ。

長期間霧が充満したことにより、魔界は人間界であるクレッドに比べ数千倍もの魔力源がある。


病魔を退ける果物や、超硬度の木材……物によってその価値は天井知らずだ。



少ししたらステラが戻ってきた。

帽子を取りきらきら輝く髪をタオルで入念に拭いている。


「水は抜いておいたので、よろしくお願いしますね」

ステラがそう言う。髪にご執心でこちらには全く興味が無いといった感じだ。


「やぁ、ステラ。今回は東地域に行こうと思う」

アルが切り出した。単刀直入はステラと話すときには有効な手段だ。

「そうですか。わかりました」

あっけらかんと、ステラがそう言った。

「おいおい、本当に良いのか?」

俺は思わず喰いかかってしまった。

「この人は決めたら譲りませんから。昔っからそうですよ」

そう言うとステラがはっとした。

「勘違いしないでくださいね。アカデミー時代にグループワークで何度かご一緒しただけですから」

「そうだったのか……っていうかいや、そういうことじゃなくて!危険地域だぞ?」

「そうですね。では、足に油を塗っておくので、あなたが危険だと思ったらすぐに燃やしてくださいね。私は全力で逃げますので」

「はぁ……」

声にもならない声が出た。あきれを通り越して驚嘆する。

俺の次じゃなく、「私を最初に」って当然のごとく言いきった。

一瞬の迷いも無かった。

こいつは本気で俺たちを見捨てて一人で逃げる気だ。


「決まりだな!この冒険が僕らの正念場だ。頑張ろうではないか!」


アルが意気揚々と言う。

ウーティがおうっと呼応する。

ステラは無視して寝床に向かう。


そうして、俺は考えるのをやめた。


こうして「リカオン」は危険地域に足を踏み入れることになった。

一緒にゲームやる友達がいなくなったので更新ペース速くなるかもしれません。

ならないかもしれません。

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