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試験場

朝が来た。希望の朝だ。

今日は戦闘試験、その日だ。


ばっちり起きた朝7時。

私は身支度を完了させて、食卓についた。

「おはようございます!お嬢さん!いよいよですね!」

シルアさんが私に話しかけてくれた。

「いっぱい作ってますので!いっぱい食べてくださいね!」

「はい!」

私は精一杯の元気で返事した。


「よーし!ほんなら勝負やな!ドクダミちゃん!」

私と一緒に起きだして来た、レイシーちゃんが突然勝負を仕掛けてきた。

「ま、まけないよ!」

私は勝負を受けて立った。

「い、いつもよりかはだけど……」

そうして始まった唐突な大食い勝負は、レイシーちゃんの圧勝で終わった。

「へ!まだまだやなぁ!」

レイシーちゃんはそんな感じで勝ち誇った。

「う、う、うううう~」

調子に乗りすぎちゃった……。

私は、おなかいっぱいで動けなかった。


「ク……クルシイ……」

私はふくれるおなかを抱えて、動けなくなっていた。

「まったく!調子乗りすぎですよお嬢さん!」

それを見た、シルアさんはあきれた感じで言った。

「もう!大事な試験の前や言うのに!」

シルアさんはぷりぷり怒っていた。

「す、ずみまぜん……」

「ま、ま、ま、ま、まぁ!気合十分!ゆうことでね!」

レイシーちゃんが良く分からないフォローを入れた。

「もともとはあんたのせいやろ!何、阿呆なことにつき合わせてんのよ!」

シルアさんはそう言うとレイシーちゃんの頭を締め上げた。

「い、い、い、いたいいたい!!暴力反対~!」



「ほい、じゃ、片づけておくので、レイシー!あんたはお嬢さんをお風呂に運んで!身支度してきい」

「ほい~」

レイシーちゃんはそう言うと、私を脇から抱え上げてお風呂場まで運搬した。


「ほいじゃ!着替え持ってきとくんでちゃっと入って、ちゃっとでてな!」

そう言うとレイシーちゃんはお風呂場から退散して、私の部屋に走っていった。

私は寝間着を脱いでシャワーを浴びた。

シャワーで私の体が、頭が温められていく。

まだすこしボーとしていた頭が、覚醒していくのが分かる。

なんだかおちつくなぁ……そう思った。

でも、なんだろう?どこかで似た感覚になった気がする。

どこだったろうか。

ごく最近のことだったと思うんだけど。


私は頭を洗って、顔を洗って、体を洗った。

修行に入る前に全身を清める聖職者のような心持で。

そして最後に目をつぶって息を止めて全身でシャワーを浴びた。

私は水が好きだ。

私の属性が水だからなのか、水に包まれていると落ち着く。

温かい薄い膜に包まれているかのようなこの感覚が好きだ。

とても、安らぐこの感覚……。


ああ、思い出した。

この感覚、モリー様のお腹の上だ。

イヅナちゃんに放り投げられたとき、後ろで受け止められたあの安心感。

その後に火をつけられた時にも感じた、独特の安心感。

それににている。

モリー様はシャワーみたいだ。

大きくて、温かい、安心感がある。

頼りになるし、何でも知ってる、すごい人だ。


そんなことを考えていると浴室の扉をノックする音がした。

「ドクダミちゃん!着替え持ってきたで~!」

レイシーちゃんの声だ。

私は返事を返すと、水を止めてお風呂から出た。


よし、ばっちりだ。


お風呂から上がると、レイシーちゃんがタオルを広げて待っていた。

「さぁ、ほら、おいで、ドクダミちゃん。隅々まで拭き取ってあげるよ」

「うん。ありがとう。でも、気持ちはうれしいけど恥ずかしいよ……自分で拭くから…」

「ええ~今更恥ずかしがらんでもええのに!まぁええわ!風邪ひいたらあかんし退散しますわ~」

そう言うとレイシーちゃんはひらりと去っていった。

レイシーちゃんはいつも通りだけど最近おこられすぎたのか、しつこさはなくなってきた。

私はレイシーちゃんが置いて行ってくれたタオルで体をふき、下着をつけた。

「レイシーちゃん!もういいよ~」

私が声をかけるとレイシーちゃんが脱衣所に入ってきた。


「あいあい~それじゃ御髪をセットしましょうね~」

「お願いします」

そう言って私は鏡の前に座り、レイシーちゃんが私の髪を乾かし、セットし始めた。



着替えが終わって、身支度は完璧。

部屋に戻ってカバンを取り、実技用の魔法衣を持ち忘れ物もない。

時間は8時ピッタリ。

私は、玄関前にいた。

「それでは……行ってきます」

靴を履いて、見送りに来た二人にそう言った。

「無理はせんとってね」

レイシーちゃんが涙ぐみながらそう言った。

私はうんとうなづいた。

「どういう結果になろうとも、お昼ご飯は期待しといてくださいね。あとこれ、おなかすいたら食べてください」

シルアさんはそう言うと、私にクッキーの入った袋を渡してくれた。

「食べ過ぎはあきませんよ!お気をつけて」

シルアさんはやさしく笑いかけてくれた。


正直言うと、今生きた心地はしていない。

緊張しすぎて逆に心臓が止まっっちゃってるみたいに鼓動が弱いのを感じる。

でも、大丈夫。

昨日、モリー様に借りた攻略本の情報はすべて頭に入れた。

ステラ様から教わった、魔法もある。

すごく怖いけど、同時に自信はあった。

すごく奇妙な感覚だけど……でも大丈夫。

私は逃げないでいる。

怖いけど、でも向き合える。勝てるか分かんなえけど、でも戦える。

今日の私は今までとは違う。

これまでの人生の中で、今が一番強い私だ。

「はい!行ってきます」

私は元気に返事すると、玄関を出た。


玄関を出るとまぶしい陽光が私を照らした。

まだまだ登り切っていない太陽だけど、もう暑さが体をついてきた。

私は空を見て、一息ついた。

そして、家の門まで歩き始めた。

家の広い庭の片隅には犬小屋がある。

昔、寒い雨の日に震える子犬を拾った。

それがあそこでふやけた顔して寝ているフリンデルバルトだ。

私はフリンにも挨拶した。

フリンは私にちっとも気が付かなかった。

まぁそういう子だから私は気にしなかった。

私はため息をついて、通学路を目指した。



「あっドクダミちゃん!おはよう」

家の門を出ると、イヅナちゃんがいた。

「い、イヅナちゃん?!おはよう。来てくれたの?」

「うん。そのなんだかさ、いてもたってもいられなくってさ!来ちゃった。迷惑だったかな?」

「う、ううん!全然だよ。私も会えてうれしいよ」

私達は出会いを喜び、世間話しながら、途中まで歩いた。

十字路に差し掛かった時にイヅナちゃんは私の方を振り向き、手を握ってくれた。

そして……。

「ドクダミちゃん、これ!」

イヅナちゃんは私の手に何かを握らせた。

「これ、なぁに?」

私は掌の中を見た。

そこには花が付いた輪っか状の腕飾りだった。

「作ったの、お守り。今日の試験、がんばってね。信じてる」

「う、うん。ありがとう」

そうして、十字路で私は学校へ。

イヅナちゃんは中央へ向かって進んだ。



私は通学路を一人で進む。

歩きながら私は右手につけたお守りを見ていた。

ちらちらお守りを見てにやにやしたり、日にかざしてみてにやにやしたりしていた。

うれしい。

友達がいたことの無い私に、友達が会いに来てくれるなんてぇ。

しかも、プレゼントも貰えるなんてぇ。

これは、相当うれしい。

にやにやが止まらなかった。


頑張ろう。

ううん、これがあれば頑張れる。

きっと私の100%以上の力が出せると思う。

学校に向かう足取りは、入学以来一番軽かった。

羽が生えたようにすいすい進めた。

イヅナちゃんは魔法使いだ。

イヅナちゃんは背中に羽を持ってると思うことが何度かあった。

何事も迷わず進むし、誰よりも早く進む。

そんな姿を見ているみんなも気が付けば進んでいる。

きっと、そういう特別な力を持ってるんだと思う。

みんなを前向きにさせる力。

みんなを歩ませる力。

導くんじゃなくて、みんなを引っ張る、そんな力。


思えば、今の自分は嘘みたいだ。

それこそ一昔前の自分と比べれば別人だと思う。

イヅナちゃんに初めて会った時、私は自殺しようとしていた。

あの時は、外に出ることもできなかった。

夏休みとはいえ、学校に行くなんて……そんなこと考えるだけでもうだめだった。



気が付いたら、私は校門の前にいた。

流石にここまでくると……少し手が震えた。

学校はダメだ。

いじめられていた記憶がどうしてもよみがえってくる。

私は大きく深呼吸し、意を決した。

私は右手のお守りを見る。

心の炉に絆を焚べる。

心を燃やして、私は校門と向き合った。

「負けない。逃げないから」

私はそうつぶやくと全身に力を込めて……裏口に回った。



裏口にから校内に入ると、今日も遠くの方からクリケットの音が聞こえてくる。

でも校内は静かで、私の心は少しだけ安心した。

今日の試験会場は、前回とは違い本校舎から少し離れたところにある、戦闘試験場だ。

試験場とは、名ばかりでどちらかというと実験場だ。

生徒が自分の実力を試すための試験場。

魔法の威力を存分に出せる場所として使われていた。

安全性や騒音や光なども考慮してだいぶ離れたところにある。

というか、たぶん敷地で言うと一番端っこだと思う。

さっき時間を確認したけど、まだ試験開始まで30分はあった。

だいぶ早く到着しちゃったようだ。

「まぁいいか……試験場は初めて行くし、下見しておこう」

仮想的にキラースズメだと思ってるけど、それなら環境はすごく重要だ。

対策のためにも先に見ておこうと思ったので私はまっすぐ試験場に向かった。



試験場は大きかった。

ドーム型になっていて、何かの競技場のようだった。

中はさらにすごくて、一面は広くトラックになっている。

両側は高い壁になっていて、観客席はないけど、上から中を見れるようになっているようだった。

試験場の中心は地面だった。

上を見上げると、天井がなくって青空が広がっていた。

入り口は一つで、この空間だけが世界から切り取られた……まるで結界のように感じた。



私は初めて見る広大な試験場に圧倒されていた。

「あらぁ?早いのね~」

ほえ~っと上を向きながら、初めて見る広大な試験場に圧倒されていたら声をかけられた。

「あっはい!すいません。試験場を確認しておきたくて……」

私は反射的に頭を下げた。

そしてすぐに顔を上げた。

試験場の中央に背の高い女性が一人立っていた。

「別にいいのよ~。ふふふ、まじめなのね、ポートマルリンカーさん」

女性はそう言ってこちらに近づいてきた。

「あ、あ、あ、あ……」

私は言葉を失った。

この人は……。

「あ、あ、あ、こ、こ、こ、こここ校長先生!」

「ええ、校長先生ですよぉ~。こんにちは」

「こ、こ、こ、こんにちはぁ~」



魔の前にいるこの背の高いほんわかした女性は、このシャリオン校の校長先生だ。

「第44代校長」オーロレリア・ホウル・ハーティス先生だ。

ハーティス先生はこの学校の超有名人。

各所にファンもいっぱいいる大先生だ。

その魔法の実力も実績もすごい。

魔法界にも名が通っている、遠隔魔法の権威だ。

身長も高くて、直立したら優に2メートルは超える。

モリー様と同じかもしかしたらそれ以上かも……。

園芸た声楽が趣味でそっちの方向でも名が知れているらしい。

歌も上手で、楽器がなんでも使えて、イベントでよく披露しているが腕前は最高だ。

加えて料理も得意で、よく部活動のみんなに差し入れしている。

でも、天才なんかじゃなくて、誰よりも働いて、誰よりも努力している人だ。

それなのに決してそれをひけらかしたりしない。

物腰も柔らかく、誰にでも優しくって、聞けば何でも教えてくれる。

いつもニコニコしていて、怒ったところを見たことがない。


すごいスペックの先生なんだけど、欠点もある。

校長先生は驚愕するほどのドジで、歩けばすぐに転ぶ。

物を持つとすぐ落とすし、椅子に座ろうとしたらすぐ滑る。

教室に入る時には頭をよくぶつけているのを見る。

そのため、ほっておけないと一部の女生徒の母性をくすぐっている。

聖母のような一面とマスコットキャラクター的一面を合わせ持つ先生だ。


間違いなく、校内で最も尊敬を集めている人物だ。


先生はなんでかいつも目を閉じている。

常軌を逸したドジもそのせいかもしれない。

常に閉じていて物を見るときだけ右目を少し開く。

この目についてもいろいろな憶測されている。

髪は黒髪が腰まで伸びていて、今日もつやつやと輝いている。

若いようにも見えるけど、私くらいの子供がいるらしいとは聞いたことがある。

そういう、謎も多い先生でもあった。



「きょっ、今日は校長先生も見られるんですかぁ?」

私はしどろもどろそう言った。

「ええ、そうよぉ~。ポートマルリンカーさん」

「ふ、ふ、ふ、不束者ですが、よっよよ、よろしくお願いしますぅ」

私が震えながらそう言うと校長先生はうふふと笑った。

「そんなに緊張しなくていいのよマルリンカーさん。ルネラン先生からも聞いたけど、あなたの実力なら今日の試験なんて余裕よ!」

「うぇ!そ。そんなぁ~。こっここ、光栄です……」

「がんばってね、マルリンカーさん。見守ってるからね」

校長先生はにっこりと笑いかけた。

「がっがんばります~」

私はもう両膝が笑っていた。

「あらあら、それじゃ私は退散するわね。緊張しちゅだろうけど、ここで時間までゆっくりしてね」

校長先生はそう言うとゆっくりお辞儀して出口に向かった。

私は深くお辞儀を返した。

そしてすぐに顔を上げると、校長先生に駆け寄った。


「あっ」

校長先生は案の定、出口の近くで足を滑らせた。

「こっここここ校長先生!!」

私はしりもちをつきそうになる校長先生の背中を支えた。

「ぐえ……」

しかし力及ばず、そのままお尻につぶされてしまった。

「あらぁ!ごめんなさいね~大丈夫?」

校長先生が立ち上がり、私に手を差し伸べた。

「だ、だいじょうぶれすぅ~」

私はふらふら立ち上がり、ガッツポーズを見せた。


それを見た校長先生は手を叩いて喜んでくれた。


「あらぁ、ポートマルリンカーさん。あなた頼もしいのね~。えらいわ~」

「おほめに預かり光栄ですぅ~」


そしてしばらくの間私は校長先生から拍手を受けた。

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