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青空

飯の後は、俺の持ってきた攻略本で勉強会をした。


過去数度の試験の情報を元に出てくるだろう魔物を数匹に絞った。

具体的な危険度で言えば、デスウサギよりも少し上くらいの魔物に絞った。


「一番可能性が高いのがキラースズメだな。遭遇機会が高く、きちんと対処しないと面倒になる」

暗い部屋の中、俺は持参していた攻略本を開き言った。

「そういう脅威をまず完全に対処できるようにならないと冒険にならない」


「そうですね。私もその可能性が高いと思います」

ドクダミちゃんがうなづいた。


「あと可能性があるのが、サンドバーに、バブルクラブ、アーミーアリ……。後は少し考えにくいがストレンジツリーとかもあるかもしれない」

一応今日のために俺はできるだけ調べ物はしてきていた。


俺は付箋を貼っているいくつかのページをパラパラめくった。


「ほえーこれ全部初心者向けの魔物ですか?ほとんど初めて見ます」

イヅナが興味深そうに本を覗きながらそう言った。


「魔物に初心者用ってのはないが……北部や南部魔界でよく見る奴らって感じだな。ここら辺に対処できるようになると冒険が安定する感じだ」

「そうなんですね」

「こいつらに共通するのは、対処法を知らなければ厄介なことになるってとこだ」

「へー例えばどんな感じになるんですか?」

「そうだな、例えば一番可能性が高いキラースズメだが、こいつは羽ばたきで風を起こして攻撃してくる魔物なんだがそんなに強くない」


イヅナ達は黙って俺の話を聞いていた。

「一匹が起こす風はちょっと強い風程度だ。それに乗せて羽を飛ばしてくるが、それもまぁ刺さるけどちょっと痛い程度だ。しかし三匹揃うととたんに威力が増す。これが厄介だ」

「ほえー、そうなんですね」

「ああ、そうだ。三匹集まると俺も吹っ飛ぶくらいの突風を起こしてくる」

「そ、そんなにですか?!」

「ああしかも狂暴になる。ついでになんでか、羽も硬くなって危険だ」

「あんなにおいしいのにそんなに危険なやつやったんですねぇ!」

「まぁでも、一匹なら弱い。特に電気と炎に弱い」

「ひ、火ですか?ど、どうして?」

「うん。まぁ一般的には風を起こす魔物に火で対抗するとそのまま火を返されるちまうんだが、いかんせん魔力が弱いから軽くスズメまで火を届けることができる」

「へ、へぇー」

「それなら料理する手間も省けますね!」

「まぁ食用にする奴は大体電気でとらえるな。それか水だ」

「水もですか?!」

「ああ、電気ショックで気絶させるか、水で飛べなくしてから捕まえて、捌く」

「電気ショックで倒しちゃわないんですか?」

「それすると肉が固くなるらしい。猟師は基本的に罠で捕まえるらしいがな」

「ほえ~そうなんや~」



「話がそれたが、キラースズメの対処方なんだが、単純に分断させることだ」

俺は攻略本のページをめくった。

「キラースズメは個体によりその相乗効果が起こる距離がまばらなんだ。だが大体は1メートルほどだと考えられている」

「結構近いんですね」

「そうだ、密集していないとまず大丈夫だと思っていい」

「な、なるほど」

「風の魔力に雷の魔力が乗りやすいのは知ってると思うが、一番の対処方法は岩の陰に隠れて電気を飛ばす、だ」



攻略本には、魔物の図解や、魔性、習性、対処法などが書かれた欄がある。

そこのページには男が岩に隠れて、電を飛ばす絵が描かれていた。


「まぁ、御覧の通りだな。どうも羽が静電気をためやすいらしい。電気ショックを受けると飛行能力を失い墜落する。その隙に力押しするってのが一番簡単だな」

「な、なるほど。で、でも、試験場には岩なんてないんですが……」

「そうだな。開けた場所で戦う場合は、盾を使ったり、氷の壁を作って対処することが多いかな。それができない場合はまぁけがを覚悟でごり押しだな」

「そ、そんなぁ……痛いのはいやです……」

「キラースズメは持続力もないからな。そんな長時間攻撃が持続しない。だからまぁよくあるのは、籠手とか脛あてをつけた奴が仁王立ちで耐えるってのかな。おれもよくやったが装備さえあればちくっとするだけだ」

「じゃ当日はがちがちに固めていこか!」

「う……ううん。氷の壁を作る練習をします……」

「それがいいだろうな。ちなみに飛翔物を避けようとする性質もあるから、風がやんだ瞬間、石とかを投げると一旦バラバラになる。その後、再集合する時に隙ができるからそこを狙うのもいいだろう」



俺がそう言うと、ドクダミちゃんはメモを取っていた。

まじめだな。

他の二人はほえ~っと間抜け面を見せていた。

うん……こいつら大丈夫かな?



「ほかの魔物はどんな感じなんですか?!」

「そうだな、ストレンジツリーは北部魔界の森に生息する奴だな。木に擬態する虫の魔物なんだが、幻覚を見せてくる」

「幻覚?!」

「そうだ。そいつが出す体臭というのかフェロモンというのか、詳しくは知らんがそれを吸った人間い幻覚を見せる。そして前後不覚の状態にして捕食する」

「捕食?!こわい!!」

「まぁでも、香りだからな。基本は風の吹いてくる方向にいる。そして範囲はそんなに広くない。奴のテリトリーはせいぜい10mほどだ。そして香りを出すときにくねくね動くからよく見なくても一発でわかる。そんで自衛能力は極端に低いから子供でも殴り倒せる」

「ええ?!なんか急に雑魚キャラっぽい雰囲気でてきますやん!」

「しかも幻覚作用のある香りは遅効性だ。だから視界がなんだかゆがんだな?と思ったり変だな?と思った瞬間にまずこいつがいる事を疑うのを習慣づけていればまず大丈夫だ」

「そうなんですね!」

「だけどな。知らないと大惨事が起こる。こいつの被害にあって、一晩でパーティが全滅したって話は、必ず何年かに一回は聞く」

「え……やっぱり怖い」

「そうだ。弱いからって油断しちゃいけない。だが被害の状況を知れば対策も見えてくるんだ。さっき言った事件も起こるのは大体は夜だ」

「夜?」

「ああ、寝ている間にこいつに捕まるってパターンが多い。だから経験のある冒険者はこいつの生息域では野営はしない、もしするとしても風上には虫よけの陣を引いたり鈴を重点的につけたり、対策は絶対にする」

「なるほど……」

「そういう情報が攻略本にはすべて記されている。冒険の成功は準備段階で9割が決まると言われてる。だから、今の期間が俺たちにとって一番重要なんだ」



「焦る必要はないと言ったのはそう言うことですね」

「そうだ。今この瞬間にも俺たちは成功に向かって進んでいるんだ」



よしそろそろ、組手に戻るかといったところで、部屋にある時計が鳴った。

「あっ!もう時間やでドクダミちゃん!」

「え?あ!ほ、ほ、ほんとだぁ……」

ドクダミちゃんとレイシーが何か慌て始めた。

「どうした?」

「は、はい。ちょっと今日はこの後、人と会う約束がありまして」

「ええ?!そんなの聞いてないよ!」

「ああ、俺も初耳だな」

「す、すいません。お手紙を出した後に約束が決まりまして……」

「うん?そうか」

「ええ~それじゃあ今日はもう終わりですか~?!」

イヅナは落胆した。

正直言うと俺も今日は終日で行けると思ってた。



今日ドクダミちゃんの家に呼び出された経緯は朝早くに届いた手紙によるものだった。

「昨日の試験無事に合格しました!それで突然すいませんが、明日、戦闘訓練付き合ってくださいませんか?!」

と、言った内容だった。


俺は二つ返事を返した。

そして今日にいたる。



「急に呼び出しておいてすいません。でもどうしても、はずせないんです」

「そうか、まぁ正直まだ不安だが、それならしょうがないか」

「す、す、す、すいませんんん~」

「ドクダミちゃん。そういう時はありがとうっていいなよ!」

「う、ありがとう?イヅナちゃん」

「気にするな。まぁどちらにしろ大したことは教えれないしな」

俺はそう言うと頭をかいた。

「だから、まぁここで解散でも悪くはないな」


「で、誰に会うんだ?」

俺は何となしに疑問を口にした。

俺の言葉を聞くと二人は目をそらして、ああーっとまごまごしはじめた。


「あれ?あーすまん。聞いちゃまずかったかな?」

「いえ!そんな!!こちらこそ、すい……」

「ありがとう!」

「あ、ありがとうございます?」

「いや、その返事は意味不明だろ……」


「まぁともかく、用事があるなら俺たちはこれでお暇するか」

「そうですね!しかたないですね!」

俺たちがそう言うとドクダミちゃんは頭を下げた。

「今日はありがとうございました。べ、勉強は続けますので、また何かあったらよろしくお願いします」

「はいよ。ってももう明日だけどな」

「そうですね~」


俺たちはそう返事をすると立ち上がった。


「無理はしないでいいからな。できる全力を出せたらそれでいい」

「ドクダミちゃん、ケガだけはしないでね!!」

「だ、そうだ。明日応援してるぜ」


ドクダミちゃんは大きくうなずいてお礼を言った。

それを見て俺は、机の上に置いていた攻略本を手に取るとドクダミちゃんに手渡した。


「これなんだがな、試験に出てきそうなとこは付箋挟んでおいたから、見てくれ。攻略本にしか書いてない情報もあるだろうから、無駄にはならないと思う」

俺がそう言うと、ドクダミちゃんは目を見開いた。

「い、い、い、いいんですか?ま、まずくないんですか?」

「まぁばれなきゃいいだろ」

俺は思わず、微笑んでいた。


攻略本はライセンス取得後に冒険申請した冒険者に配布される。

その情報は政府管轄のため一応は門外不出ということになっている。

いたずらな情報の流出は、ライセンスをもってないもぐりの冒険家の排出につながる危険性がある。


冒険者は管理できなくてはならない。

軽率な冒険者の行動が魔物の怒りを買い、大ごとになったケースはいくつかある。

そう言った場合原因の早急な解明及び魔物への迅速な対処が求められる。

管理できない冒険者が多くなればなるほど……人類は危険にさらされるのだ。


てなわけで、攻略本の貸し出しは厳禁だ。

へたすれば、ライセンス永久剥奪だ。


「まぁ無くさないようにだけしてくれればいい。一応シルアさんにも言っといてくれ。間違って掃除されると笑えないからな」

俺はドクダミちゃんにそう言った。

攻略本は汚損させても現物があれば交換も可能でそこらは結構緩い。

しかし紛失については結構厳しいのでそこだけは注意しておいてもらいたかった。


ドクダミちゃんは、はいと返事をしてくれた。

そして両手で攻略本を受け取ると、大事そうに胸に抱えて、お辞儀した。

まぁこの子なら、大丈夫だろう。


それじゃ、といって俺達は解散した。

帰り際、玄関口でシルアさんからおやつに出そうとしていたカップケーキをいただいた。

「小さいし、袋入れといたんで帰り道にでも食べてください!」

シルアさんはそう言って俺にリボンのついた小さな袋を手渡してくれた。

「ありがとうございます」

「いただきます!!」

俺たちはお礼をして帰路についた。



「いよいよ明日ですね!」

帰り道で、イヅナがそう言った。

「ほおだな」

俺はカップケーキをほおばりながら答えた。

「なんにせよ、怪我無くすんでほしいですね」

「ほおだな」


「ボス的にはどうですか?ドクダミちゃんお仕上がり」

「まぁ問題はあるが、あの子は用意があればそこそこ動けると思うから、信じるしかない」

「ほおですねぇ」


俺たちはカップケーキをほおばりながら、明日のことを祈った。

「これうまいな」

「ほおですね」


「あとさ、モリー様以外で頼むとは言ったが、ボスはやめてくれ」

「えええー!じゃどうすればいいんですか?」

「さんで頼む」

「さんは恐れ多いです!」

「おまえね。そんなこと思ってもないだろ」

「思ってますよ~!」

「そうか、まぁボスはやめてくれ」

「では、モリー様でいいですね」


俺はため息をついた。

「わかったよ。それかボスかの二択なら様でいい」

それを聞くと、イヅナはにひひっと笑った。


「にしても、暑いな」

俺は空を見上げる。

隆盛を迎えた夏空は雲一つなく、そして果てしなく青かった。


「でも、すごくいい天気じゃないですか!」

「そうだな」


「明日はきっといい日になりますよ!モリー様!」


そう言ってイヅナはにっこりと笑った。

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